一晩で通知100件超って、さすがにおかしいだろ。
バグか?
LINEのアイコンをタップし、アプリを開く。
〈映画同好会グループ:26件〉
〈雨宮千冬:7件〉
〈早川蓮:75件〉
「ななじゅ…!?」
「鰻重?食べたいの?」
「ちげぇよ」
思わず口から漏れた言葉を聞き間違える圭太にツッコミを入れる。
朝飯食ったばっかだろ。
サークルのグループLINEは、昨日の写真や、今日の朝のやりとりが主だ。
千冬からのLINEは、昨晩中に送られてきた、俺を心配するLINEが4件と、引き続き今朝も3件。
09:10〈伊織先輩、よかったら僕たちと合流しませんか?〉
09:41〈もしかして、まだ寝てるんですか?〉
10:03〈(写真)〉
最後のメッセージの写真は、蓮とのツーショット。パーク内で購入したらしき、おもちゃみたいなサングラスをかけて、ゲームの世界観を再現した背景でジャンプしている。
2人ともサングラスで目元は隠れているが、金とピンクの頭や、均整な体と小さな顔、綺麗な鼻筋、溢れる白い歯…。
素材の良さが漏れてしまっている。
雑誌の表紙か?と思わず思ってしまうほどだ。
しかし、それは、まあいい。
問題はコイツだ。早川蓮。
何か緊急の用でもあったのか?
只事ではない予感に、少し緊張して恐る恐るトーク画面を開く。
22:01〈伊織さん、今日はありがとう〉
22:02〈緊張したけど、すごく楽しかった〉
22:02〈みんないい人で、嬉しかった〉
22:18〈俺、伊織さんと、もっと話したい〉
22:18〈電話してみてもいい?〉
22:19〈不在着信〉
22:20〈伊織さん寝てるの?〉
22:21〈月、綺麗だね〉
22:42〈伊織さんとLINEできるの、嬉しい〉
22:43〈でもやっぱ声が聞きたいし、顔が見たい〉
22:44〈会いたい〉
22:48〈伊織さんの部屋、行ってもいい?〉
22:49〈不在着信〉
22:51〈伊織さん寝てる?〉
22:51〈寝てたら、ごめんなさい〉
22:58〈すごく、酔ってたもんね〉
23:05〈(月の写真)〉
23:06〈明日は一緒に見れるといいな〉
23:06〈明日はユニバだね〉
23:07〈俺は千冬さんと朝一番で入るんだ〉
23:07〈伊織さんも一緒に行こうよ〉
23:07〈テーマパークって、行ったことないから楽しみ〉
23:08〈伊織さんとこんな近くにいれるのは、もっと楽しい〉
23:08〈伊織さんって朝弱い?〉
23:08〈早起きできたら一緒に行こう〉
23:08〈明日も伊織さんに会えるの楽しみ〉
23:10〈(昨日カフェで撮影したスリーショット写真)〉
23:11〈この写真、嬉しかった〉
23:11〈明日も写真撮ろう?〉
23:12〈今度は2人で撮りたいな〉
23:15〈そろそろ寝なくちゃ〉
23:15〈おやすみなさい、伊織さん〉
23:47〈(動画)〉
23:50〈伊織さん、大好き〉
05:04〈おはよう!伊織さん〉
05:04〈空青いね!いい天気だね!〉
05:05〈今日も伊織さんに会えるの嬉しい〉
05:09〈今ロビーだよ〉
05:09〈千冬さんが荷物の手続きしてるとこ〉
05:10〈伊織さんは、まだ寝てる?〉
05:10〈一緒に行きたいな〉
08:26〈すごいよ!ユニバだ!初めて来た!〉
08:34〈(風景写真12件)〉
08:37〈本物の街みたい!〉
08:40〈伊織さんと歩きたいな〉
08:48〈テーマパークの必需品なんだって!〉
08:48〈(千冬と蓮のサングラス姿の写真)〉
09:31〈伊織さんまだ寝てる?〉
09:31〈これ美味しいよ〉
09:32〈(チュリトスの写真)〉
09:32〈伊織さんも後で一緒に食べよう〉
10:00〈ニンテンドーワールドすごいよ!!〉
10:09〈(風景写真12件)〉
10:40〈既読ついた!〉
10:40〈おはよう伊織さん!〉
10:41〈伊織さん早く会いたい!〉
「………長ぇ」
二日酔いの影響か、頭痛がする。
最初の5~6件を流し読みして、大した用はねぇことを察した俺は、読むのをやめた。
目的地に到着したのは11時過ぎ。
折角の旅行なのにもったいない時間の過ごし方をしたなと反省する。
「伊織さん!」
「遅いです!」
「おそよー、圭太、伊織」
「おはようございます」
「ずっと寝てたの?」
俺を見るなり、サングラス越しでもわかるくらいに目を輝かせ駆け寄ってくる大型犬、もとい金髪イケメン、改め、鬼ラインの蓮。
それと俺の寝坊を嗜めるオカン千冬と、お揃いのカチューシャを付けた彩葉、海未、明日香さんが言う。
千冬は腕を組んで怒っているようなポーズをとっているが、ピンクの頭とおもちゃみたいなサングラスのせいで、どこかお子ちゃま感がある。
女性陣のカチューシャは、頭の上にくりっとした目玉だけがついたもの。
…目ん玉カチューシャ?
「遅くなってすみません」
「体調、大丈夫?」
マキさんの優しい声がして、振り向くと、頭に何かを嵌められる。
俺の頭にもカチューシャがつけられたのか?
「………何ですか?これ」
「似合ってるよ、伊織」
「ブッ!伊織っ、写真撮らせて」
「伊織さん!かわっ、かわいい!!」
「ぷっ…、ふふっ…」
いつものようにゆるく微笑むマキさん。
圭太は吹き出しながら、すかさずカメラを俺に向ける。
目の前で目をキラキラさせてる蓮と、その奥で口元を押さえてニヤけが隠しきれてない千冬。
女性陣からは、「今日はずっとそれを付けること!」と強く念押しされる。
え?何だよこれ。
取り外して確認しようとしたところで、マキさんに優しく阻止されて断念する。
「伊織、今から写真だから」
「そうですよ。それで、集合写真を撮ったらお昼にしましょうね」
千冬の号令でマキさんのスマホの前に全員がぎゅっと集まる。
画面に映った自分を見て、愕然とした。
黒いスパンコールの猫耳。可愛らしいリボン付き。
寝坊の罰か?
くそっ!
*
千冬が予約してくれていたレストランは、アイリッシュパブをモチーフにしたレストランだった。
外観から想像してたより中はずっと広くて、内装も、ライトグリーンやワインレッドの色彩豊かな壁紙が使われているものの、ライトに照らされたシックな木調アクセントが効いていて、全体的に大人な落ち着いた雰囲気に感じる。
ツヤツヤに輝くダークブラウンの床も、どこか外国の酒場っぽさを感じる。
映画の中みてぇ。
「あ、酒の種類多い」
席に着いて、メニューを見て驚く。
テーマパークでも、こんなに酒飲めんだな。
「いいね!飲もう!マキと伊織も飲むでしょ?」
「俺はやめとくよ」
「俺も今日はやめときます」
「うそでしょ!?」
明日香さんはここのビールが飲みたいらしい。
普通のジョッキじゃなくて、デカいフラスコみたいなビールで乾杯してる客が散見される。
すげぇ長ぇ。50センチくらいありそう。
「圭太!圭太飲もう!」
「アルハラやめてください明日香さん~」
「ええ!?」
結局1人でデカいビールを頼んだ明日香さん。机を寄せて、また4人ずつ向かい合うように座る。
今日はカチューシャ組、つまり女子軍と俺が同じ列。海未、俺、彩葉、明日香さんの並び。
反対側は、マキさん、千冬、蓮、圭太の順に座っている。
「なんか婚活パーティーみたいね」
注文を終えたところで、彩葉が呟いた。
どこかだよ。
いつもこんな感じの並びだろ。
「伊織先輩は、今日は女子チームですもんね!」
「なんでだよ」
海未が嬉しそうに加勢する。
俺は男だ。
女子のノリに若干呆れながら、向かいに並ぶサークルの美形男子たちを見る。
確かに、目の前に並ぶ顔面はいずれも完璧だ。
相手がこんなメンバーなら、女子はすげぇ楽しいだろうな。
女子は。
「いおにゃんは、誰狙い?」
「は?」
彩葉がニヤニヤしながら俺に尋ねる。
いおにゃん?
怪訝な顔を彩葉に向けると、海未が食い気味に割って入る。
「う、うちの千冬はどうですか!?」
「海未、保護者みたいだから!あはは」
急に名前を出されギクリと反応した千冬。
すかさずツッコんだのは、明日香さん。
「じゃあ私は、うちのマキをお勧めするねっ」
「うちの圭太はどう?いおにゃん」
「どんな婚活パーティーだよ」
保護者ばっかじゃねぇか。
流れに乗る明日香さんと彩葉を、思わず呆れた目で見る。
「はい!俺も圭太がいいと思う~」
手を挙げてニッと笑う圭太。自己推薦だ。
てかこれまだ続くのか?
「っ、ぼ、僕の方が、圭太先輩より、役に立つ…と、思います!」
赤い顔をした千冬が、手を挙げる。
お前、遠回しに「圭太は役に立たない」って言ってる?
それはそれでウケんな。
「じゃあ俺も。俺は、恋人はとことん甘やかすタイプです」
ゆるく手を挙げるマキさんが、俺に優しく微笑みかける。
マキさんまで乗るのか?
「さぁいおにゃん!誰にする!?」
「誰ですか!?」
「素直に言っていいのよ?」
「……」
めんどくせぇ。
これ答える必要あんのか?
無視しようとしたけど両脇に座る彩葉と海未が詰め寄ってきて、本人たちのギラギラした目と、頭についてる目ん玉の両方の迫力に気圧される。
なんていうアトラクションだよ、これ。
「選ぶも何も、俺は男…」
「ま、待って!!」
そう言って突然立ち上がったのは、蓮。
「おっ、俺!…俺は…、俺がっ、いちばん伊織さんを──」
「お待たせしましたー、ご注文の品です。こちらがオニオンブロッサムです。こちらがフィッシュ&チップスで…」
「グリーンビールお持ちしました」
「あ、私です!」
「うわぁ!すごい~」
蓮が何か言いかけたところで、料理が運ばれて来る。
明日香さんが頼んだグリーンビールという緑のビールが、あの長ぇグラスで運ばれてきたりしてちょっと歓声が湧いた。
全員の興味が料理とビールに移ると、蓮は口を閉じ、仕方なくといった感じで大人しく座り直す。
くだらねぇ茶番も、これで終わりだな。
並べられた料理の中から、香ばしい匂いをさせる、花のように開いたオニオンのフライに手を伸ばした。
わ、うまぁっ。


