千冬が予約してくれていたレストランは、アイリッシュパブをモチーフにしたレストランだった。外観から想像してたより中はずっと広くて、内装も、ライトグリーンやワインレッドの色彩豊かな壁紙が使われているものの、ライトに照らされたシックな木調アクセントが効いていて、全体的に大人な落ち着いた雰囲気に感じる。
ツヤツヤに輝くダークブラウンの床も、どこか外国の酒場っぽさを感じる。
映画の中みてぇ。
「あ、酒の種類多い」
席に着いて、メニューを見て驚く。
テーマパークでも、こんなに酒飲めんだな。
「いいね!飲もう!マキと伊織も飲むでしょ?」
「俺はやめとくよ」
「俺も今日はやめときます」
「うそでしょ!?」
明日香さんはここのビールが飲みたいらしい。普通のジョッキではなくて、デカいフラスコみたいなビールで乾杯してる客が散見される。すげぇ長ぇ。50センチくらいありそう。
「圭太!圭太飲もう!」
「アルハラやめてください明日香さん〜」
「ええ!?」
結局1人でデカいビールを頼んだ明日香さん。机を寄せて、また4人ずつ向かい合うように座る。
今日はカチューシャ組、つまり女子軍と俺が同じ列。海未、俺、彩葉、明日香さんの並び。反対側は、マキさん、千冬、蓮、圭太の順に座っている。
「なんか合コンみたい」
注文を終えたところで、彩葉が呟いた。
どこかだよ。
いつもこんな感じの並びだろ。
「伊織先輩は、今日は女子チームですもんね!」
「なんでだよ」
海未が嬉しそうに加勢する。
俺は男だ。
女子のノリに若干呆れながら、向かいに並ぶイケメンたちを見る。
確かに、目の前に並ぶ顔面は、全員完璧だ。こんな合コンなら、女子はすげぇ楽しいだろうな。
女子は。
「いおにゃんは、誰狙い?」
「は?」
彩葉がニヤニヤしながら俺に尋ねる。
いおにゃん?
怪訝な顔を彩葉に向けると、海未が食い気味に割って入る。
「う、うちの千冬はどうですか!?」
「保護者参加型の合コン?」
急に名前を出されギクリと反応した千冬。
すかさずツッコんだのは、明日香さん。
「じゃあ、私は、うちのマキをお勧めする」
「うちの圭太もいいと思うよ?」
「どういう合コンだよ」
保護者ばっかじゃねぇか。
流れに乗る明日香さんと彩葉を、思わずジトッとした目で見る。
「はい!俺も圭太がいいと思う〜」
手を挙げてニッと笑う圭太。自己推薦だ。
てかこれまだ続くのか?
「っ、ぼ、僕の方が、圭太先輩より、役に立つ…と、思います!」
赤い顔をした千冬が、手を挙げる。
お前、遠回しに「圭太は役に立たない」って言ってる?
それはそれでウケんな。
「じゃあ俺も」
ゆるく手を挙げるマキさんが、俺に優しく微笑みかける。
マキさんまで乗るんですか?
「さぁいおにゃん!誰にする!?」
「誰ですか!?」
「…」
めんどくせぇ。
これ答える必要あんのか?
無視しようとしたが、両脇に座る彩葉と海未が詰め寄ってきて、本人たちの目と、頭についてる目ん玉の、両方の迫力に気圧される。
なんていうアトラクションだよ、これ。
「選ぶも何も、俺は男…」
「ま、待って!!」
そう言って突然立ち上がったのは、蓮。
「おっ、俺!…俺は…、俺が、いちばん伊織さんを──」
「お待たせしましたー、ご注文の品です。オニオンブロッサムはこちらでいいですか?フィッシュ&チップスをご注文の方は?」
「グリーンビールお持ちしました。こちらは?」
「あ、私です!」
蓮が何か言いかけたところで、料理が運ばれて来る。
明日香さんが頼んだ、グリーンビールという緑のビールが、あの長ぇグラスで運ばれてきたりして、ちょっと歓声が沸く。
全員の興味が料理とビールに移ると、蓮は口をつぐみ、仕方なくといった感じで大人しく座り直した。
くだらねぇ茶番も、これで切り上げだな。
並べられた料理の中から、香ばしい匂いをさせる、花のように開いたオニオンのフライに手を伸ばした。
うまっ。
酒が進みそうな料理を楽しみながら、午前中にどこに行った、だとか、あのアトラクションが良かった、なんて話をする。
どれも美味いけど、朝が遅かったせいで、あまり食べられなかったことが悔やまれる。
俺と同じ時間に朝メシ食っておいて、ここでもしっかり一食分を食ってる圭太は意味分かんねぇけど。
「私たちは、この後ハリーポッターエリア行くつもり」
「あ、俺も行きたい!」
「ショー観ましょうよ!」
「観たい!行こ行こ!」
女子達の会話に加わる圭太。
食事はほぼ終わっていて、このままグループで分かれての行動になりそうだ。
「俺は研究室用にお土産みてくる」
「あ、僕も先に買っておきたいです。伊織先輩も、一緒に行きませんか?」
「俺はあとでいいわ。ジュラシックパークエリア行きてぇ」
「!、俺も行く!」
マキさんと千冬は、ショップに行くらしい。
俺は恐竜映画のエリアに、蓮と行くことになりそうだ。
立ち上がった明日香さんが、みんなに声をかける。
「あとでみんなで、ハリドリ乗ろう!あの、1番大きいジェットコースターね」
「いいですね!」
「ユニバ来たら、あれ乗りたいですよねー」
「じゃあまた夕方集合!」
「先輩、早く行きましょう!」
「楽しみー」
ハリポタ組が賑やかに席を立ったのに続くようにして、俺達も支度を済ませて店を出る。
「伊織さん!行こう!」
「ああ」
「あ、」
蓮と歩き出そうとしたところで、服の裾が引っ張られた。
振り返ると、俺の服を掴んでいたのは千冬。何か言いたそうにしてる。
「何だよ?」
「あ、えっと、…」
「?」
千冬が視線を落としたまま口を開かないから、俺も、蓮もマキさんも、不思議そうに顔を見合わせた。
千冬はといえば、なんだかモジモジしている。
トイレか?
「…何でも、ないです」
「そうか?」
「はい、すみません」
「いいけど。じゃ、またあとでな」
「はい」
いつものように可愛らしくニコリと笑うと、俺達に背を向けて、マキさんと並びショップの方へ向かって行く。
…マキさんと千冬って、後ろ姿だけだと親子感さえあるな。
マキさんが背が高いせいもあるんだろうけど、…雰囲気の差?がでけぇ。
「伊織さん、俺たちも行こう!」
「ああ」
蓮が、俺の手に、手を伸ばしかけてハッとして止める。
昨日もこんなことあった気ぃすんな。
俺も蓮と並んで歩き始める。
コイツも背は高ぇけど、マキさんや圭太よりは少し低い。
…だから、俺たちは親子感はないはずだ。
「伊織さんと一緒にいれるの、嬉しい!」
「あ、そうだお前」
満面の笑みの蓮に、大事な要件を思い出した。
これだけは言ってやらねぇといけねぇ。
「LINE、送りすぎ」
「えっ!?」
「『えっ!?』じゃねぇよ。あんな送ってきても俺読まねぇから。要件だけ送ってこい」
「…怒ってる?」
「怒ってはねぇけど。お前いつもあんな感じなの?友達──、」
友達いなくなんぞ。
と、言いかけて飲み込む。
そういえば昨日、友達がいねぇって言ってたな。
「ごめんなさい、気をつけるから、また送ってもいい?」
しゅんと垂れ下がった犬の耳が見える気がする。
「数件にしろ。3行以内な。それなら読む」
「わかった!」
今度は心底嬉しそうな顔で、笑う。
道の先に、目当てのジュラシックパークエリアが見えてくる。
俺もテンションが上がって、自然と頬が緩む。
うわ、ワクワクしてきた。

