「ミッション・トレーナー? 神様ギフトってこれ――」

 輪廻転生課の天使が言ってた、神様から贈られたスキルってヤツ?
 発言させられるかどうかは俺次第って言ってたけど。

「いったいどんなスキルなんだ、これ」
「クゥー?」

 視界には今もメッセージが浮かんでいる。そこへ今度は、解析眼も加わった。

【ミッション・トレーナー:対象にミッションを与えることによって、クリア時に能力を底上げすることが出来る、指導系スキル】
【同種の効果を得られるミッションは、一日二一度しか行えない】
【スキル所持者には一切恩恵がない】

 ……え?

【スキル所持者には一切恩恵がない】

 ……え?
 ま? 俺自身には恩恵がないぃー!?
 な、なんで。え?
 他人の能力アップだけ? 俺には何もなし?

「う、嘘だろ」
「クアァー?」
「いやあの……あ、お前にミッションを与えているのか。えっと、シドーと発音させる……」
「ドーッ」

 なんだこの脱力感。スキルを手に入れたのに、俺は一切強化されないって。
 俺にとっていったい何の得がある?

「ドー。ドォ」
「あ、ごめんごめん。そうだよな。お前とコミュニケーション取れるようになるなら、それはいいことだよな。よし、言葉の練習だ。シ・ドー。シィ」
「イ……ギィ……ド」

 ギド。誰それ。

「シドーだ。シドー。シが難しいのかな」

 ユタも一生懸命、シと発音しようとはしているが……。意外と難しそうだな、このミッション。
 それにしても、マジかぁ。

「はぁ。そろそろ帰るか。レイアも戻って来てるかもしれないし。それに、獲物も手に入ったしな」
「クアァーッ。ド、イドー」
「イドじゃなくってシドー」
「イ……ィシ……シドーッ」

 お!
 ユタを見ると、本人も驚いたようにピョンと跳ねている。

「シドー! シドーシドーシドーシドシドシドドドド」
「待て待て待て。シドーだ。変な覚え方するんじゃないっ」
「シドー。チ、チ、ダメ」

 え? こいつ、たった今シドーって言えるようになったのに、もう言葉を!?

 ポォンと音がいて、またメッセージが浮かんだ。

【ミッションクリア。個体名『ユタ』の言語能力が向上した】

 向上って、たった二文字言えるようになっただけで!?
 何このゆるゆるミッション。
 しかし「ち、ち、だめ」か。……ち……乳、ダメ?
 え?
 ユタ?

「チーッ、カーチャ、カーチャ、イル」
「え? カーチャ――母ちゃん? あっ。チって、血だったのか。つまり、血抜きするなって言いたかったのか?」
「クアァーッ」
「うわっ。ごめん、ごめんって。血抜きしきった訳じゃないから大丈夫だってっ」

 そ、そうか。首を振っていたのはそういうことだったのか。
 あぁー、言葉がわかってよかった。じゃなきゃ血抜きする気満々だったし。

「はぁ、ま、戻るか」
「クゥーッ」

 教会の方へと歩き出すと、向こうから緑色の光球が飛んで来て、中からニーナが姿を現した。

『志導お兄ちゃん……ニーナ、大事なお話、あるですの』
「大事な話? どうしたんだい、ニーナ」

 ニーナは少し俯き、目をぎゅっと閉じた。

『全部の魔導装置を稼働させることは……たぶん無理、ですの』
「え……無理って、どうして?」
『都市の……都市の魔導装置、暴走してる、みたいです』
「暴走って、え、まだ装置が生きてるのか!?」





『レイアお姉ちゃん、言ってた。地下の迷宮で、勇者召喚の魔導書見つかったって』
「あぁ、そんなこと言ってたね」

 教会へと戻りながらニーナが話してくれた。
 昨夜、姿を消したのはこの話をするべきかどうか迷ったからだそうだ。
 そしてここにその話をするのは、何かを探すためにやって来たレイアを悲しませたくないからだと。

『その時……誰かが、変な風に、一部の装置を動かしたです、の』
「マジか。正しい扱い方も分からず、うっかり起動させたとかそういうのなのかな」
『ニーナも、よくはわからないです、の。ニーナはここから、動けないですから。でも、都市の魔導装置が暴走しているのは、わかったです。昨日、志導お兄ちゃんが起動してくれて、繋がったから』
「暴走って、どんな風に暴走しているかわかるかい?」

 コクンと頷いたニーナは『侵入者、全員排除』と、このタイミングでは一番聞きたくない内容だった。
 防衛システム的なものが暴走したのか。
 クソ。厄介だな。

「その暴走を止める方法ってないのかな?」
『……ごめんなさい、なの。ニーナ、この町を守るのが役目だから、他の事、あんまり知らないですの。ごめんなさい……ごめんなさい』

 ニーナはその場に蹲り、肩を震わせながら泣き始めた。

「ニーナは悪くない。悪いのはどさくさに紛れて、何かを盗んで行った連中だ」
『うっ。うっ。でも、レイアお姉ちゃんの探し物……』
「なんとかなるさ! な、俺には解析眼がある。解析して、暴走を止める方法を見つけよう。な?」
『志導、お兄ちゃん……』
「ニーナも手伝ってくれ。この町からだって、何か出来ることがあるはずだ」

 ニーナは繋がったと言っていた。都市の魔導装置とどこかで繋がっているんだろう。
 なら何かできるはずだ。

「さ、教会へ帰ろう。ユタが凄い獲物を捕まえたんだぞ」
『ユ、タ……ユタ、お手柄、なの?』
「クアァーッ」
「ユヤに栄養を取って貰わないと。そうだ、レイアは戻って来てるかな」
『レイア、お姉ちゃん……えっと……』

 ん? なんか歯切れが悪いな。どうしたんだろう。

 教会へと戻ってきた俺は、直ぐにレイアの名を呼んだ。

「レイア、戻って来たかい!?」

 けど、そこに彼女の姿はなかった。

「ユラ。彼女、戻ってこなかった?」

 そう尋ねたが、ユラは黙ったまま。
 伏せた姿勢のまま、ユラは腕に抱えた猫の頭に手を乗せポンと叩く。

「大丈夫、よ、シドー。彼女、あとでちゃんと戻って、くるから。ね」
「ふにゃっ」
「そう、だといいけど……大丈夫かな」
 
 ひとりで都市の方へ行ってなきゃいいけど。