転移した先が滅びかけ!?〜万能クラフトと解析眼で異世界再生スローライフ~

 第二畑を耕し終え、残っていた種も蒔いた。
 奥様方が嬉しそうに何かしていた気がする。たぶん、ニンジンの種だけ多めに蒔いたんだろうな。
 
 レイアが持っていた砂糖はごくわずか。その他の調味料も同じ。
 現物があるうちに解析眼で作り方を記録させておく。
 サトウ草が手に入ったので、絞って煮詰めてクラフト砂糖の完成だ。

「他の調味料も手に入るといいんだけどなぁ」
「塩ならあんぜ」
「おぉ、塩ならあるのか――って、あるのか!?」

 固茹でしたニンジンをもっしゃもっしゃと食べながら、アッパーおじさんが平然とした顔で言う。
 海が近いわけでもないのに、なんで塩が?

『ここ、昔むかーし、海だったですの』
「え? ここが海?」

 ニーナは食事の準備を手伝ってくれている。いい子だ。

「そう。魔法王朝が出来るよりもずぅーっと昔だ。だからよ、塩の洞窟があんだぜ」
「お、おじさん。そこに連れて行って! もう塩の在庫もちょっとしかないのよ」
「そりゃ構わねぇぜ。わしらも塩は不可欠だし、この冬の間の塩を運んで起きてぇしな」
 
 じゃ、決まりだ。ついでに山で食べられそうなものを探してみよう。
 まぁ浄化しなきゃ食べられないんだけどさ。





「この穴の中に塩が?」
「岩塩ね。都や集落で出回っているのは海水から取った塩だけど、都の方じゃ時々、岩塩が売りに出されてるって聞くわ。凄く高いんだけどね」
「へぇ。どこで誰が仕入れて来ているんだろう?」

 翌日、アッパーおじさんが案内してくれたのは、北の山の中。壁の方へと向かう山道の途中、更に上へと登るルートを進んだ先に穴はあった。
 崖沿いにぽっかり空いた穴。
 アッパーおじさんを見て、穴を見る。

「この穴……」
「あ? もちろん、わしやご先祖が開けた穴だが?」

 やっぱり。穴のサイズ的にドンピシャだったからもしかしてと思ったら、案の定か。

「おぉし。んじゃ掘ってくれ」
「了解」

 瓦礫と木を素材にしてクラフトしたツルハシを手に、俺とレイアが穴の中の壁を掘る。
 今日はこれのために、レイアは人の姿だ。

「オイラ」
「ん? さすがにユタはツルハシ持てないだろう」
「ンクアァァァーッ」

 あぁあ、拗ねちゃったよ。って、がむしゃらに壁を殴りまくって、欠片が――いてっ、いてててっ。

「おいユタ。痛い、痛いってば」
「クックッ」

 今度は尻尾でビタンビタン。大きめの欠片が飛んでくる。
 これが……ツルハシで掘るよりユタに任せた方が早そうだ。

「わかった、わかったよユタ。掘るのはお前に任せよう。お前の爪と尻尾は、俺がクラフトしたツルハシより強そうだからな」
「クッ。クアックアァー。クククククク」

 どうだ、スゴイだろ――ってことなのか。鼻をフンっと鳴らして仰け反る。次に起こることは後ろ向きに倒れ……た、倒れない、だと。
 こいつ、尻尾をうまく使ってバランスとってやがる。

「成長しやがって」
「ク」
「なんのこっちゃ」
「ふふ。ほんと、良いコンビね」

 あぁ、まさにいいコンビだ。
 ほんの数十秒、ユタがガリガリした壁の欠片は結構ある。

「これ、このまま塩として使えるのかな?」
「わしらは気にしねぇが、人間は気になるかもな。石や砂も一緒に圧縮されてっからよ」
「となると、細かく砕いてから水と一緒に煮込んで、塩とそれ以外を分離……志導くんの万能クラフトで、そういうのも全部出来ちゃいそう?」
「出来る、かもしれない」

 砂糖だって出来てしまったし、出来るんだろうな。

 この辺り、冬になると一メートル以上は雪が積もると言う。冬場に塩がなくなって困ることがないよう、十分な量を確保する。

「雪が降り始めたら、お肉の塩漬けなんかも作りたいわね」
「長期保存用に?」
「そうそう。塩漬けにして余分な水分を抜いたら、それを燻製にするの。そうしたら一冬は持つから」

 俺ひとりだとそんなこと思いつかなかったかもな。
 ほんと、レイアがいてよかった。

 みかん箱よりやや小さめの木箱をいくつかクラフトし、ユタが砕いてくれた岩塩を含んだ岩を詰め込んでいく。それをインベントリに押し込んで、作業終了だ。
 段々陽も短くなってきたし早めに帰るつもりだったが、ユタのおかげで作業も早く終わった。

「もう少しかかるかなと思ったけど、早く終わってよかった」
「そうね。ユタのおかげ……あら、ユタ?」

 ん? ユタの奴、何やっているんだ?
 鼻をふんふん鳴らして、茂みの中に入った?

「おい、ユタ」
「アッ。シドー、シドーココ。ココアルク?」
「俺が?」

 茂みをかき分けて中に入ると、ユタが地面を爪で指している。
 足跡だ。しかもこれは――

「人間の足跡!?」
「え? 人間の足跡ですってっ」

 レイアもやって来て、二人でその足跡を見た。
 
「俺の靴、二十六センチなんだけど――あまり変わらないな」
「じゃあ、成人男性かしら」
「高二の時には二十六だったし、十五歳前後よりは上、ってところじゃないかな」
「おーい。こっちに来てみろい」

 アッパーおじさんの声のする方へ向かうと、そこには更にたくさんの足跡があった。
 ひとりや二人じゃない。ここにいたのは複数の人間だ。
 もう一度茂みにあったひとり分の足跡を少し辿って見る。
 茂みを出て、その先に崖に向かっているようだ。

 その崖から――

「町が……アリューケの町が見える」
「え? あ……本当だわ」

 直線距離にすると、アリューケの町までそう遠くない。
 さすがにここからじゃ、俺たちの姿を見ることは出来ないだろうけど……それでも、なんか不安だ。

 この世界の今の状況だと、町なんて見つけたらとりあえずそこへ行ったりしないか?
 それをせず引き返しているようだし……なんだか嫌な感じがする。