転移した先が滅びかけ!?〜万能クラフトと解析眼で異世界再生スローライフ~

「こ、これはなんだ?」
「ナンダ? ククククク」

 鬱蒼と茂った草――はもちろん野菜で、でもなんでこんな成長したんだ?
 蒔いた種はニンジン、タマネギ、トウモロコシ、それからジャガイモは種イモごと植えてある。
 だけど明らかに四種類どころか、十種類以上あるんじゃないか?

「解析眼――えっと、サトウ草? 砂糖の原材料? え、サトウキビってこと?」
「え? サトウ草があったの!? うわぁ、嬉しい」
「ん? レイア? どこだ?」

 声はすれども姿が見えない。

「きゃっ。志導くん、下、下にいるからっ」
「わっ。そんなところに」

 もさもさと伸びた野菜の根元に、猫のレイアがいた。
 何かの蔓に絡まっているのを、ユタが丁寧にその蔓を切ってやっている。

「うっかり踏んずけるといけないし、俺の肩に乗っててよ」

 と言って抱き上げ、肩に乗せた。

「う、うん。ありがとう、志導くん」
「で、これで砂糖が作れるであってる?」
「あ、そうっ。砂糖よ。作り方は簡単なの。絞り汁を少量の水を一緒に焦げないよう煮込んで、水分を沸騰させたら、お砂糖が残るの」
「ほほぉ。んじゃ、調味料ゲットか。他には――」

 500mlのペットボトルほどの太さがあるサトウ草。それに絡みついているのはキュウリだ。
 サトウ草をかき分けると足元にキャベツやカボチャが実り、行く手を遮るようにしてトマトとナス、ピーマンも見つけた。おっと、枝豆発見。これでビールでもあればなぁ。

「それにしても、なんでこんなことに……蒔いた覚えのない野菜もあるし」
「あー、そりゃあなぁ、わしらの足裏にくっついた土が原因だろうな」
「おわっ!? ア、アッパーおじさん。驚かすなよ」

 ほんっと、音もなくひょっこり出てくるんだもんなぁ。
 けどまぁ、納得だ。
 アーサ畑を歩き回ってたし、あそこの土に埋まっていた野菜の種がくっついて来たんだろう。
 収穫時期をとっくに終え、種を実らせ、土の上にその種を落とす。
 俺たちが気付かなかっただけで、あのアーサ畑にはたくさんの野菜が実っていたのかもしれない。
 
 それはまぁ、いいんだけど……。

「嬉しい誤算ではあるけど、さすがにこれは整理しなきゃな」
「そ、そうね。あと畑、広げた方がいいんじゃないかしら」
「だな。でもそうなると、ここじゃ土地が足りないなぁ」

 それぞれ二、三株ずつなら植えられるけど、それじゃあ足りない。

「いっそアーサ畑を耕すか?」
「ん~、それは止めた方がいいと思う。アーサの種がもういっぱい落ちてるだろうし」

 来年もアーサだらけになるのか……。それに、アーサも必要な植物だもんなぁ。

「ニーナ。どこかいいところはないか?」
『ん~……町の人たちの畑は、外周にあるですの』

 そう言ってニーナが石を持って土に絵を描き始めた。
 円を描き、真ん中に――『魔導装置ですの』といって小石を置く。そして円の中にもうひとつ、それより少し小さな円を描いた。

『建物があるのがこの丸の中ですの』
「外側の円は?」
『魔導装置の浄化とか、モンスター除けのキーンっていう効果がある範囲ですの。畑は建物と効果範囲の外側の間にあったです』
「ここからちょっと遠いな。まぁ歩いて十五分ぐらいだけど」

 それぐらいならいいか。





「悪いね、奥さん」
「いいのよ。その代わり、ニンジンの量を増やしてね」
「了解了解」

 畑。否、元畑の現原っぱを、またもや奥さんの手を借りて耕して貰っている。

「ん~……いつまでも『奥さん』って呼ぶのも不便だなぁ。名前とかないんですか?」
「ないわよ。名前をつけるなんてのは、人間や妖精族がやることよ」

 妖精族!?
 エ、エルフとかドワーフも存在するのだろうか。
 まぁいたとして、この世界じゃ出会うのも奇跡みたいなものだろうなぁ。

「そういえば、坊やに名前をつけたんですって?」
「坊や?」
「ユタのことよ。私たちね、ユラが卵を産み落とした後、彼女の体力が回復するまで面倒を見てあげてたのよ。だからユタのことも、孵化した時から知ってるわ」

 へぇ、そういう関係だったのか。

「私たちにも名前つけてくれたって、いいのよ」
「え? でも名前を付けるって、従属の意味だとか聞いたけど」
「にゃ。そういえばユタとユラって、ニーナが名前を?」
「クアッ。シドーダゼ。テヤンデェ」
「え?」

 信じられない――という顔でレイアが俺を見る。
 いやまぁ、知らずに成り行きで名付けただけだし。従属とか、そんなつもり全くないから。
 実際、ユタもユラも俺に従っている様子は全くない。

「ほぉほぉ。名前か。いいぜ、つけてくれ」
「おわっ。ア、アッパーおじさん。頼むから音もなく背後から首を伸ばさないでくれよ」
「なんでぇ。肝ったまの小せぇ男だなぁ。それで、名前はどうすんだ?」
「どうって。アッパーおじさんはもう名前あるじゃないか」
「んあ?」

 いや、アッパーって名前なんだろ?
 するとニーナがもじもじしながら『名前、違うですの』と。
 どういうこと?

『ア、アルパディカのおじさんだから、アッパーおじさん……です』

 名前じゃなく、省略しただけだった。しかもニーナがそう呼んでただけっていう。

「ほれほれ。名前だ、名前」
「いやでも……」
「わしとお前の仲じゃねえか。ほれ、ほれ」
「う……じゃあ……」

 今更アッパーを変えるのもなぁ。
 まずは奥様方の名前を決めよう。覚えやすい名前が良い。
 風属性の奥さんがアキ。
 土属性の奥さんがルナ。
 水属性の奥さんがパーラ。
 氷属性の奥さんがディア。
 火属性の奥さんがカーラ。

 みんな揃えるとアルパディカだ。うん。たぶん覚えやすい。
 そして問題はアッパーおじさんっと。
 アッパーは残すとして……名前と苗字、みたいにしてみるか?

 アッパー……アッパー……。

「ア、アッパー・カット……とか」
「アッパー・カット? どういう意味でぇ、そりゃあ」
「ぷふっ」

 レイアが笑った。意味を知っているからこそ、笑ったんだろう。

「あー……鋭く切る。っていう意味。強そうだろ?」
「ほぉ。アッパー・カットかぁ」
「でも呼ぶ時はこれまで通り、アッパーおじさんって呼ぶよ。その方がおじさんも、呼ばれ慣れてるだろうしいいだろ?」
 
 空を見上げながら、おじさんの口元が緩む。気に入ってくれたようだ。