転移した先が滅びかけ!?〜万能クラフトと解析眼で異世界再生スローライフ~

「志導くんっ、大丈夫!?」

 そう言ってレイアが――飛び降りたぁぁ!?
 ちょっ。
 だが、俺の心配を他所に彼女はシュタっと見事な着地を決める。
 お、おぉぉ。これぞファンタジー住人の身体能力だ。

 ん? 身体能力……何か忘れているような。

「足、大丈夫そう?」
「あ、うん。ごめん、心配かけて」
「ううん。でも……もしかして志導くん、身体能力強化のスキルを取った?」

 スキル……お、おぉ、そうだ!

「そう、それだ! 攻撃スキルひとつ取るより、総合的に見てこっちの方がいいかなと思ってさ」
「うん。その判断、正解だと思う。実は私も身体能力強化、取ったんだよね」
「え? 風見さんも!? でも」

 スキルは早い者勝ちだって言ってたのに。

「あ、私が持ってる身体能力強化は、必要ポイント500のヤツ。志導くんは5000、だよね?」
「え、500のスキルもあった?」
「うん。50もあったの。取ろうとしたら消えちゃったけど。たぶん効果大中小とかじゃないかな」

 必要ポイントでそういう違いもあるのか。いやまぁ納得ではあるけど。
 そうか。レイアの運動神経の良さって、スキル効果でもあるのか。
 じゃあ俺も彼女みたいになれる?

「5000ポイントなんて、取れる人いないだろうとは思ったんだけど。でも志導くん、最後のあの時、子供連れの人を助けようとしてたもんね。生前の行いで貰えるポイント違うって言ってたし、それで転移も選べたんでしょ?」
「あ、えっと……そうなんだ」

 あの時助けた子供が、大人になって医者になった。それもポイントに大きく影響している。
 そう話すと、レイアは自分の事のように喜んだ。

「やっぱり志導くんら「ハラヘッタアァァァーッ」きゃっ。ユ、ユタッ」
「こらユタッ」
「ハラーッ。ハラーッ」

 まったく。こいつの食い意地にも困ったもんだぜ――と言おうとして、俺の腹の虫が鳴った。
 お、俺もユタと同じレベルだったのか。

「ぷふっ。あははははは。いろいろ話したいことがいっぱいだけど、まずはご飯にしましょうか」
「はは、そうだね。腹が減っては戦は出来ぬっていうし」

 何と戦をするのかはこの際おいといて。
 屋根の修理をし終えた教会へと入る時、ふと、アルパディカの奥さんが耕してくれた畑に視線がいった。
 茶色一色だった土から、緑色の――。

「芽が出てる!?」
「え?」

 もう芽が出たのか!
 畑の傍に寄って見ても、やっぱり芽だ。何の芽かはわからないけど芽だ。

「うそっ。もう芽吹いてる!?」
「な? やっぱり芽だよな。これ、野菜だろうか。まさか雑草じゃないよな」
「これニンジンよ。あっ、あっちはタマネギ! その奥のは何かしら?」

 あちこちで小さな芽が出ている。こんなに早く芽が出るとは思わなかった。

「何百年と人が住んでいなかった町でも、野菜はちゃんと育つんだな」
「そうね。空気も土も浄化されてるから、きっと生でも食べられるわ」

 これまで収穫した野菜は、レイアが魔法で浄化してくれていた。
 でも、これからはその必要もないと彼女は言う。

「これで食料問題も解決だ。長期戦にも備えられる」
「長期戦?」
「あぁ。これで何十日、何百日掛っても、魔法王朝の都市へ入る方法を探せるってことさ」
「あ……」

 彼女は大きな瞳を丸くし、それから頬を染め、俯き加減で小さく「ありがとう」と。
 お礼なんて言わなくてもいいのに。前世で俺がどれだけ君に助けられたことか。
 それに、同郷なんだ。せっかく再会出来たんだし、お互い助け合わなきゃあ。

「アーッ」
「わかった。わかったってばユタ」
「ふふ。あの子もまだまだ子供ねぇ」
「アァーッ」

 レイアの言葉が聞こえたのか、地団駄を激しくさせて抗議する。
 ユタに急かされ教会へと入る時、もう一度だけ畑を見た。

 これから寒くなるし、冷害対策を考えないとな。

 ここからだ。まずはここから、俺の異世界ライフを始める。
 滅びかけのこの世界で、自分が快適に過ごせる環境作りから。それと並行して、レイアの呪いを解くための迷宮都市入りの方法を探そう。
 あの魔導ゴーレムの頭にヒントがあればいいんだけど。





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 その頃、町を一望する山の斜面で、単眼鏡を覗く男の姿があった。

「はっ。おいおい、まさかこんな所で奴の姿を拝めるなんてなぁ」

 男の口元が歪に歪む。

「ククク。渡錬《とねり》ぃ、久しぶりじゃねえか。十七年ぶりか? けどまぁ、お前は変ってねぇな。もしかして転生じゃなく、転移してきたのか?」

 男は単眼鏡を畳むと、踵を返した。

「ポンコツゴーレムのせいで壁を越えられなかったが、エラーで勝手に自滅したヤツのおかげで渡錬が様子を見に来たんだな。ポンコツはポンコツなりに役に立ったってわけだ」

 古代魔法王朝に地下にはお宝が眠っている。中には最強クラスの魔導書や装備もあるという。
 それを盗もうと壁までやって来たが、男とその一行は魔導ゴーレムの攻撃に阻まれ、命からがら逃走。
 なんとか方法はないものかと、ゴーレムが反応しない安全な位置から様子を窺っていたのだが――。

「この前、北の麓で見た灯りは、奴が起こした焚き火の灯りだろう。よぉく見えたぜぇ、渡錬ぃ」
 
 ニタリ、と笑うと、男は再びアリューケの町を見た。

「渡錬、待ってろよ。俺様が昔みたいに、お前をオモチャにしてやるぜ。はぁ、楽しいなぁおい。大宮と越後もいりゃ、もっと楽しかったんだろうがなぁ」

 今は奴らで我慢するしかない――男はブツブツと呟きながら、斜面で休息する部下の元へと戻った。

「おいてめぇら、何寝てやがるんだ! もたもたしてねぇで、アジトに戻るぞっ」

 そこにいたのは十数人の男たち。ほとんど全員が手足に包帯を巻いた怪我人だ。

「も、戻るんですか、デュークのお頭」
「ありがてぇ、ありがてぇ」
「もたもたすんな! 怪我を治したら、他の連中も連れて渡錬狩りをするぞ」
「とねり、狩り?」

 男たちは視線を交わし合い、首を傾げる。とねりという名のモンスターはいただろうか、と。

「いいからとっとと歩け! 鈴木旅団のアジトに戻るんだよ!」

 デュークと呼ばれた若い男は、狂気じみた笑みを浮かべる。

(渡錬ぃ。今度こそてめぇを、ギャフンと言わせてやるぞ。泣いて謝っても、もう絶対ぇ許さねぇ。この鈴木尚人様をコケにしてくれたお礼、たっぷりしてやるからなっ)

 デュークは踵を返し、再び北へと向かう山道を進む。
 男たちが慌ててそれに従い、同じく山道を進みだした。

 志導が顔を合わせたくない――そう言った人物が、まさにここにいる。
 志導たちがその存在に気づくことはない。

 だが――。

 更に高い崖から鈴木ら一行を見下ろす、影があった――。
 


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第一部完