転移した先が滅びかけ!?〜万能クラフトと解析眼で異世界再生スローライフ~

「あ、あのね志導くん。今度のふれあい合宿の時にね、お弁当、いるでしょ?」

 高校に入学して一ヶ月。同じクラスにいた風見さんから、初めて声を掛けられた時の事を思い出す。
 母親はおらず、父親は刑務所。俺の家庭環境のことは、入学早々クラスの全員に知られていた。
 教師がうっかり職員室で漏らしたのが原因だって、あとになってわかった。

 そんな俺に、風見さんが弁当を作って来てくれたのは一度ではない。
 遠足の時も、体育祭の時も、その後の合宿でも。
 彼女は自分の弁当とおかずの内容を変え、自分が作ったものだと周りからもバレないよう気を使っていた。変な噂を立てられないために。
 そこまでするなら、作らなくてもいいのに――とは思わなかったのが、俺もまぁ、美味い飯が食えるのが嬉しくてつい。

 優しい子だった。誰に対しても。
 美人で優しくて、学校でのミスコンで一位になるぐらいだ。彼女に好意を寄せる男も多かったんだ。
 そんな風見さんだから、きっと平和な世界に転生していると思っていたのに。

 でも、今目の前にいるのは――。

「やっと……やっと気づいてくれたんだよね?」
「風見、さ……本当に、君なのか?」
「そうだよ。私だよ、志導くん」

 俺はつい最近転移してきたばかりだ。彼女は高校生ぐらいの年齢だし、時間が合わないじゃない。

「で、でも、俺より数分先に転生した君が……なんで」
「うん。うん、そうだね。私も驚いた。だってあなたは、あの時の、数年ぶりに再会した二十七歳のままだもん。たぶん転移を選ぶだろうなって思ったけど、まさかあの時のままだなんて」

 本当に風見さんだ……レイアは風見さんだった!?
 同じ世界の、同じ時間に生きているなんて……思いもしなかった。

「俺と風見さんとで、この世界に来たタイミングが違ったのか……スキルを選んでた数分の差なのかな?」
「わかんないけど、たぶん違うと思う。あのね恵理ちゃんのこと覚えてるかな? あ、日下部さんのことね」
「あ、うん。覚えてるよ」

 いつも風見さんと一緒にいた、三年生の頃のクラスメイトだ。

「恵理ちゃんね、実はスキルに悩みに悩んで、転生したの一番最後だったらしいの。志導くんよりも後だったって」
「俺よりも!?」

 俺より後の子なんて、いたんだ。

「でも恵理ちゃんと私、同じ歳なの。それに大沢くんも」
「大沢も!?」

 いつも賑やかな奴で、高校の時、俺と普通に接してくれた数少ない同級生のひとりだ。よくゲームの話をしたっけか。
 転生のタイミングが数分違いでも、三人は同じ年に生まれている。
 転生と転移で違いが出ただけ?

 これは他の連中も、十七年前に転生してそうだな。

「ってことは……鈴木や大宮、越後もか……」
「たぶん……」

 お互い声のトーンが低くなる。
 この三人は、俺たちが死んだ原因を作った張本人だからだ。

 高校では鈴木をリーダーにした不良グループで、あいつらは大人になっても変わっていなかった。
 ほろ酔いだったのもあるんだろうけど、悪ふざけで車が来てる道路に飛び出すなんて。
 あいつら、車が止まらなかったら慰謝料がっぽり貰おうとか言ってたけど。死んだら意味ないだろ。しかも無関係な俺たちまで巻き込んで。

「あいつらとは顔を合わせたくないな」
「それは大丈夫じゃないかな。この世界、どこもかしこも汚染されてるから、集落から集落への移動も、命がけだったりするのよ」

 と、風見さん、いやレイア? とにかく彼女はにっこり笑って話す。
 な、なかなかハードモードな世界だと思うんだけど、ここで生まれ育ってるから汚染が日常茶飯事になっているのか。逞しいな。

「風見さん、ここから君が住んでいた場所は近いの?」
「ううん。ここまで二カ月よ。といっても、浄化の魔法を頻繁に使うから、途中の集落で何日も休ませてもらったりもしていたから」
「二カ月!? 何泊もしてたと言ってった、やっぱ遠いんじゃないか」
「毎日歩けたとしても、んー……一ヶ月ぐらいかしら」

 徒歩一ヶ月の距離って……でも、呪いを解くためには魔法王朝に行くしかなかったんだろう。
 何故呪われたのか気になるけど、さすがにそれを聞くのは野暮すぎる。

「大変だっただろ、ここまで」
「うん。でも来てよかった。だって、志導くんに出会えたんだもん……私――」
「俺もレイアに出会えてよかったよ」
「えっ……」

 アリューケの町以外のことは知らないし、そもそもここは何百年も前に廃墟となった場所だ。
 人がいない。
 いるのはユタドラゴンとアルパディカ。そして土地神様だ。

 人間がいない!
 猫に変身してしまうけど、人間のレイナがいてよかった。

「いやぁ~、本当によかったよ」
「そ、そうなんだ? 私もね、私も……あなたに――「アアァァーッ!!」かった」
「ん? ユタ、どうしたんだ?」

 下からユタの声がして覗き込むと、やや不貞腐れた顔でこっちを見上げていた。

「ハラ、ヘッタアァァァァッ」
「あ……悪い悪い。ちょっとうたた寝しててさ。か――レイア、下りようか」
「……うん」

 ん? なんかこっちも不貞腐れているような?
 どうしたんだ、レイアは。
 さっき何か言ってたようだけど、ユタの声で聞こえなかったし。

「レイア、さっき何を言っていたんだ?」
「へっ? あ、えっと……なんでもない。大したことじゃないから」
「そ、そうかい? んー、ならいいんだけ――どわぁっ」
「キャーッ、志導くん!?」

 屋根から下りようとして、転がっていた小さな瓦礫を踏んでしまった。
 マズい! お、落ちるぅぅぅー!!
 いや落ちたあぁぁぁぁーっ!?

 お、俺の異世界ライフ……今度こそここで終わるのか!?

 が、どすんっと両足で着地。
 す、少し足がしびれたけど、大丈夫だ。

「志導くん!?」
「だ、大丈夫だレイア。はは、ビックリし……た……」

 レイアの声がして見上げると、彼女は数メートル先。
 お、俺、あの高さから落ちて無傷? いや、両足で着地したのに、どうなっているんだ?