転移した先が滅びかけ!?〜万能クラフトと解析眼で異世界再生スローライフ~

「これ以上近づくと、都市の防衛システムに引っかかっちまうぜ」

 アッパーおじさんがそう言うので、今はこれ以上進めない。
 ここからだと、あの動いてる巨大な奴がロボットなのかゴーレムなのか見分けがつかない。

「志導くんの解析眼で、何かわかる?」
「いやそれがさ、距離があり過ぎるからなのか、反応しないんだよ」
「そう。目視系のスキルにありがちなことね。鑑定とかもそうみたいだから」

 へぇ。鑑定スキルなんてのもあるのか。
 輪廻転生課で見たスキル一覧にはなかったと思うけど、そもそも他の連中が取った後だったしなぁ。

「言っとくがなぁ、アレぁ一体だけじゃねえんだぜ」
「え? 他にもいるのか!?」
「あぁ。ちっこいのがうじゃっといやがるのさ」

 うじゃって、どのくらいいるんだ……。
 クソゥ。解析出来なきゃ、あれの正体すらわからないってのに。

「まぁ何とかならなくもねぇんだ」
「おじさん、それ本当なの?」
「あぁ。ただし壁の突破は無理だ。あの高さだしな。翼でもねえと、ありゃ飛び越えらんねぇぜ」

 飛び越えることが出来たとしても、それをやる間に攻撃されてしまう。
 一番は、アレを排除するか無効化することなんだけど。

「おじさん、なんとかなるってのは、近づけるってこと?」
「あぁ、そうだ。でけぇゴーレムは常に動いてんだが、小せぇ方は普段、壁ん中で待機してんだ」
「え、あれってゴーレムだったのか」
「あ? ゴーレムじゃなかったら、なんだってんだ」
 
 ロボット……とか。
 うん。言わないでおこう。
 
「先日の黒煙。何かがあって、それで小さいのも出てきたってわけね。でもあれから二日以上経ってるのに、まだいるじゃない」
「しつっけぇからなぁ、奴ら」

 小さい奴らが壁に入ってくれさえすれば、目《・》となるのはあのデカブツだけ。
 しかしそこでわずかでも壁に触れようものなら、再び小さい奴らが出てきてしまう。

「要は壁に触れさえしなければ、出てこないってわけか」
「そういうこった。だが壁の向こう側へ行こうとすれば、道具を使おうと触ることに変わりはねぇ。魔法を使おうとしてもな、魔力に反応しちまうのさ」
「へぇ。よく知ってるのね、おじさん」
「オッチャ、カシコイナ!」

 ユタが尊敬の眼差しを向けるが、アッパーおじさんは明後日の方角に視線を向ける。
 それから疲れ切った声で。

「あぁ、頑張ったんだぜ」

 とポツリ。
 その一言で、アッパーおじさんが何故詳しいのかわかった。
 都市に入ろうとして、何度も何度も壁に挑んだんだろう。そして何度も何度も妨害され、突破出来ずに今ここにいる、と。

「近づけりゃ、お前ぇのスキルでゴーレムの止め方かなんかわかんだろ?」
「だと信じてる」

 正直、何もわからないってのが本音だ。
 でも何かやらなきゃ一歩も進めない。やってみるしかないだろ。

「ふぅ……よし、だったらよく聞け。小せぇのはな、どこからでも出てくるわけじゃねえ。ちゃんと出入口があんだ。あのデカブツは巡回してるだけ。奴が出入口から一番遠い所に行った時が狙い目だ」
「小さいのが到着するまでの時間を、少しでも稼ぐ方法か」
「ダメな時は全力で逃げろ。奴らは壁から一定の距離までしか離れらねえ。深追いしないよう、命令されてるからな」

 誰に? と聞くと、おじさんは「昔々の魔導師にだよ」と答える。
 何百年も前に亡くなった人の命令を、今も忠実に守っているのか。
 なんだか少し、悲しいような。それでいて、どこか優しさも感じられる。
 正しく起動していたなら、頼れる連中だっただろうに。

「気付かれるまでは魔法を使うなよ。無駄に察知されちまう」
「小さいのが出てきても、志導くんの時間を稼げるように私たちで引き付けましょう」
「クアッ」
「お、おい。危険じゃないのか」

 だが三人は、普段と変わらず柔らかい表情を浮かべている。

「なぁに、心配すんねぇ」
「テヤンデー、テヤンデー」

 テヤンデーってお前……何かあったらユラが心配するだろ。

「志導くん。もしもの時はエリクサーがあるわ。大丈夫」
「あ……そうだった。でもっ。でも、死んでしまったら生き返らないだろ?」

 いくら万能薬といったって、怪我に対してだろうし。

「んもうっ。私たちのこと、信じてよ。あと安心させるために言うんだけど、ユタドラゴンってモンスターの中でも上位種に近いの。アルパディカもね」
「ユタドラゴンほどじゃねえがな。まぁそいつはチビだし――いてぇよ。ユラは卵を産んでまだそう経ってねぇから弱ってはいるがな。全快するにゃ、もう一年位かかるだろうよ」

 ユタドラゴンとアルパディカは、種族として強い。
 確かにそれは、安心材料になる。
 じゃあレイアは?

 訴えかけるように彼女を見つめる。

「信じて」

 真っ直ぐな眼差しでそう言われたら、俺はもう、信じるしかない。
 いや、信じる。彼女は強いって。
 三人が稼いでくれる時間で、俺はゴーレムに近づいて解析眼を使う。
 そしてあいつを止める!

「行こうっ」

 俺たちは駆けた。ユタとアッパーおじさんは、俺たちの足の速さに合わせてくれている。
 先に飛び出せばそれだけ、解析眼を使う前に見つかってしまうからだ。

 百メートルほどの距離まで近づくと、ゴーレムの姿がはっきりとわかるようになった。
 よく見るとこいつ、いくつもの四角いパーツで出来ている。岩……ではなさそうだ。
 そのパーツ一つ一つに、まるで血管のような線がいくつも走っているのが見える。
 青白く光るその血管は、どくどくと強弱をつけ脈打っていた。

【解析:ウォールガーディアン。古代魔法王朝時代に作られたゴーレム】

 解析来た!
 と同時に鳴り響く、空気を震わせるような冷たい音。
 ウウウウゥゥゥゥゥーっと、いつかアリューケの町で聞いたアレと同じ音だ。
 チッ。スキルに反応されたか!?

「解析眼っ。こいつの止め方を解析しろっ」

 普段なら頭の中でそう浮かべる言葉を、今は口にした。
 冷静ではいられない。
 ズンっと重く響く音。遠くの壁の一部が開くのが見える。
 早く。
 早く解析結果を!

「志導くんっ」

 レイアの声。
 だが解析は終わらない。
 直後、何かが俺に触れた気がした。
 いや、触れたんじゃない。覆った、そう表現するのが合っている気がする。
 そして、視界に浮かぶUIのウィンドウにノイズが走る。途端にそれは砂嵐となって、解析画面を浸食していった。

「え? どうなって――」
「志導くん、危ない!」
 
 その声にハッとなって振り向くと、レイアが飛び込んでくるのが見えた。
 俺の目に映ったのは赤い光を背負ったレイア。
 それと、ゴオォっと唸りを上げた――火球。

「レ、レイアアァァッ!」