転移した先が滅びかけ!?〜万能クラフトと解析眼で異世界再生スローライフ~

「さぁーって、毛を脱ぐぞぉぉーっ!!」
「え!? ぬ、脱げるの!?」

 アッパーおじさんの一家が町に来て三日目。
 今日は朝から彼らの毛刈りを行うことになった。

「あ? 物の例えだ。脱げるわきゃねえだろ」
「紛らわしい例えをすんなよっ」

 この三日の間でわかったことがある。

「ぷふーっ。け、毛を脱ぐ……くふふふふ」

 アッパーおじさんは、とにかく笑いを取らないと気が済まないおじさんだ。
 そしてレイアはよくツボる。

「おうおう、お嬢ちゃん、笑ってねぇーでやってくれや。あんま時間ねえんだろ?」
「あ。そうね。さっさと刈っちゃいましょう」

 アルパディカファミリーの毛刈りをしてもらうため、レイアには人の姿に戻ってもらっている。
 昨日、あちこちの家を探して回り、やっと見つけたハサミ。それを万能クラフトで錆び取りをして使えるようにしたんだが。
 昨夜、そのハサミで俺がアッパーおじさんの毛を刈ると「刈り過ぎなんだよ風邪引くだろうがっ」と怒られた。で、レイアに交代したってわけ。

「それじゃあ俺もやりますか」
「クアッ。ミッ、ミッミ」
「ミ? あ、ミッションか?」

 ユタは、それだと言わんばかりにピョンピョン跳ねながら頷く。

「じゃあ言葉のミッションもやっとくか」
「ルーッ」

 そうだなぁ。

「この前の『ユタ』。あれが未クリアのままだし、もう一回やってみるか」
「アッ。ィウウウウウウゥゥ……ィウ……タ。ウー」

 寄り目になって、どことなく眉間に皺を寄せているようにも見えるユタの表情。
 本人は真剣なんだろうけど、ごめん、ちょっと笑いそう。

「ウウ、イ、ウ、ュウ」
「おっ。もう少しだユタ。ユー」
「ウ、ユ。ユ!」
「おおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 言えた。ユって言えたぞ!
 ユタ本人も驚いて、それから嬉しそうに尻尾をぶんぶん振って左右にステップを刻む。

「ユ! ユ、タ。ユタ。オイ、ラ、ユタ!」
「そうだ。お前の名前はユタだ。凄いぞぉ、ユタ」
「オイラ、スゴイ! オイラ、エライ!」

 偉いとは言ってないけど、まぁ偉いか。
【ミッションクリア。個体名『ユタ』の言語能力が向上した】とメッセージが浮かぶ。
 その効果は既に現れているような。明らかにさっきより発音が流暢になっている。

「エラーイ! エラ――ンゲ」

 エラーイっと仰け反り、お約束の後ろこてん。

「ユタ、名前を言えるようになったのね。凄いじゃない」

 大量の毛を抱えたレイアがやって来てユタを褒める。その毛を受け止めるべく、インベントリを開いた。
 褒められたユタはシュタっと立ち上がり、また仰け反ってドヤ顔をする。こけるなよ、ユタ。

「ミッション! ミッション!」
「ユタ。同じ効果のヤツは、一日一回までしか出来ないんだぞ」
「アウゥ」

 ガックリと首を項垂れるユタ。リアクションがわかりやすい。

「違う効果ならいいの? あ、はい、これ次の毛ね」
「ほいほい。違う効果なら、ありなのかなぁ。ユタ、試しにやってみるか?」
「オウオウ。マカセ、トケ」

 ……あぁ、そうか。ユタの訛りって。

「おうおう。かーちゃんたちの毛刈りは、まだ終わっちゃいねえぜ」
「あ、ごめんなさいおじさん。今行くわね」

 レイアがハサミを持って、奥様方の方へと向かう。
 やっぱり、アッパーおじさんだよな。絶対ユタの奴、アッパーおじさんの喋り口調を真似てるんだ。
 ……ま、いっか。かわいいし。

「よしユタ。魔導装置の所まで走って行って、アーサを一本刈り取って戻って来るんだ。走るんだぞ?」
「テヤンデェ。オヤスイ、ゴヨー」
「じゃあ、よーい」

 どんっという前に、ユラがやって来た。
 
「志導。私にもその、ミッションというもの、やらせてくれない、かしら?」
「ユラも? うんまぁ、ユラが一緒ならユタも安全だろうし。じゃあ、二頭とも同じッションで。ユらは塔の周りを五周追加、でいいかな?」
「もちろん、よ」

 よし。じゃあ気を取り直して。

「よーい、どん!」

 二頭が物凄い速さで走っていく。ユラの方はもう見えなくなってしまった。
 は、速すぎだろ。

「い、今のうちにさっきの毛を糸にしてしまうか」

 繊維から糸に加工するのとは、やり方が違うようだ。
 アルパディカの毛を素材にし、毛糸への加工という作業ボタンと、洗浄という作業ボタンがある。
 解析眼の力も加わり、洗浄を何度かした方が糸が綺麗になるそうだ。

「じゃあ洗浄を三回して、それから毛糸へ加工しよう。で、次が……」

 毛糸を編む作業だ。とりあえず長方形になればいい。模様なんて一切いらない。
 そうなると、作業は簡単だった。
 縦横のサイズを決めるだけ。あとは編む作業ボタンを押せば一瞬で完成だ。

「よし、毛布の完成! ひざ掛けっぽいけど、まぁこんなもんか」

 軽とは太めに設定してみた。その方がもこもこしてそうだし。
 そして俺の予想は的中。
 めちゃくちゃふわもこじゃないかぁ。はぁ、気持ちいい。

「見せて見せて」
「ふふ。自信作だぜ。触ってごらん」

 レイアに出来たばかりの毛布を渡す。
 彼女は撫でるように毛布へと触れると、瞳を大きくして歓声を上げた。

「うっわぁ~。ふわっふわだわぁ」
「へっ。どうでぇ、わしらの毛は」
「凄く気持ちいぃ。それに、暖かいわ」
「だね。もう一枚クラフトしなきゃいけないし、毛の方頼むよ」

 今夜から暖かくして眠れるぞ。

「戻ったわ、志導」
「あぁ、おかえ――ユラ!?」

 え、もう戻ってきた? あれから十分かそこいらなんだけど。
 塔まで歩くと十五分はかかったと思うんだけど、それの往復だぞ?
 でもユラの手にはアーサが握られている。

【ミッションクリア。個体名『ユラ』の脚力・スピード・持久力・体幹が向上しました】と、なんかいっぱい上がってる。
 それから数分後、息切れをしたユタが戻ってきた。

「お疲れ、ユタ。よく頑張ったな」
「ク、クアァァ」
 
【ミッションクリア。個体名『ユタ』の脚力・スピード・持久力が向上しました】

 ユラと違って、体幹は表示されてないな。走り方に違いがあったんだろうか?


 


 その日の夜。
 ハンモックに横になり、ふわもこの毛布を抱くようにして体に掛ける。

「うっわ。気持ちいい。肌触りも最高だ」
「へっ。あたぼうよ」
「あぁ、幸せぇ。凄くあったかぁ~い」

 この時期だと暖かすぎるぐらいだ。お腹の辺りにだけかかっていれば十分。
 けど、肌触りが気持ち良すぎて、包まれたいとすら思う。

「毛糸、まだいっぱい残ってるし、何か編みたい物でもあるかい?」

 冬に備えてコートなんていいだろう。
 ただデザインのセンスがない。そこは女の子であるレイアにアドバイスをもらいたいんだけど……ん?

「レイア?」

 呼んでも返事がない。
 あぁ、もう寝てら。よっぽど毛布が気持ちよかったんだな。

「くあぁ~……俺も眠いや。おやすみ、みんな」
「おう。ゆっくり寝やがれ。焚き火の番はしてやるからよ」
「ありがとう……おじさん……」
 
 パチパチと焚き火が爆ぜる音が、だんだんと遠くになっていく。
 この日、俺はアルパカの群に囲まれ、もみくちゃにされながらも笑顔を浮かべる――夢を見た。