転移した先が滅びかけ!?〜万能クラフトと解析眼で異世界再生スローライフ~

「どう? 志導くん」
「うぅーん……」

 塔に引き返し、魔導装置を解析眼でくまなく調べてみるが……。

【解析結果:異常なし。不具合なし】

 と出るだけ。
 だったらさっきのサイレンはなんなんだ?

「音の出所は、この魔導装置だと思うんだけどなぁ」
「そうね。あなたの後ろから聞こえてきたもの」
『わかったですの』

 ニーナの声がして、魔導装置はぽぉっと光る。ニーナは魔導装置の中へと入り、サイレンの原因を直接調べてくれていた。

「ニーナ、それで?」
『はい。誤作動、ですの』
「「え?」」

 予想外の言葉に、俺とレイアが同時に声を上げた。
 ご、誤作動?
 もっとこう、深刻な事態なのかと思っていたのに。そう思わせるような、嫌ぁな音だったのに。

『都市と、魔導装置繋がってるです。今までは壊れていたから、こんなことなかったですが』
「俺が治したことで、誤作動が?」
『魔導装置同士が、回路、繋がってるです。都市の魔導装置、暴走してるですから、それで……』

 暴走の影響ってことなのか。
 いや待てよ。それってやっぱりマズい状況じゃ?

「ニーナ。都市の魔導装置と回路が繋がったことで、この町の装置も暴走するなんてこと……」
『あっ』

 ニーナは両手で口を覆い、それから魔導装置を振り返った。

『あるかも、ですの』
「やっぱりマズい状況!?」
「ねっねっ。その回路って、遮断出来ないの?」
「そうだ。出来ないかな?」
『で、出来ると思うですが、ニーナにはやり方がわからないですのっ』

 出来るかもってんなら、俺が解析すれば!

「解析眼。魔導装置の回路の遮断方法は? 遮断しても、装置の効果は継続したままでの方法だ」

 すると俺の目に、魔導装置があちこち点滅するのが見えた。ただし、実際に光っているわけじゃない。俺自身、それがわかっている。

【解析結果:遮断可能。ただしこの作業を行うことで、土地神が都市と完全に遮断されるため、都市の状況を一切知る術がなくなります】

 おっと。ニーナも土地との繋がりを断ち切ってしまうのか。それは本人に確認を取らなきゃな。

「ニーナ。回路の遮断は出来るんだけど、そうすると君も土地との繋がりが切れてしまうらしい。都市の状況も完全にわからなくなるそうだ」
『そう、ですの。でも今だってニーナは、都市の状況、わからないです。きっと都市の防衛システムのせいだと思うですが、あまり変わらないですです』
「そっか。まぁ全部を治してから、また繋がりを回復させればいいもんな」
『はいですの』

 じゃあ、回路の遮断をしますか。
 解析眼がその作業を一から視覚化してくれる。
 魔導装置の操作盤は、まるで飛行機のコックピットのようにボタンがずらーり。
 それを押す順番を、全て教えてくれた。

「これが最後っと……あ、ニーナ。そっちのボタンを頼むよ。最後は土地神と同時に押さなきゃダメなんだってさ」
『はいです。準備出来たのです』
「よし。せーのっ」

 同時に二つのボタンが押され、魔導装置に、今度は本当の光が点滅し出した。

「足元で音がするわ」
『回路が地面に埋まってるです。それがずーっと、都市に伸びてるですの』

 まるで電線か水道管みたいだな。

「まるで電――たい」
「え? レイア、今何て」

 今、電線って言った?
 
「へ? あっ。で、でー。あっ、回路はどうなったの?」

 な、なんかはぐらかされたような?
 でも言ったよな、電線って。こっちの世界にも電線って単語があるのか。
 
「し、志導くん? 回路は?
「あ、ごめんごめん。解析眼」

【解析結果:都市の回路との接続を遮断しました。浄化機能:正常。モンスター対策音:正常】

 ふぅ。よかった。

「遮断出来てるよ。魔素の浄化も、モンスターが嫌がる音の効果も継続中」
「そう、よかったわぁ」
『よかったですぅ』

 けどこれで完全に、ここから首都の状況を確認出来なくなった。
 生活環境がある程度整ったら、一度都市を見に行った方がいいんだろうな。

「クククククク」

 表でユタの声が聞こえた。

「ユタ。母ちゃんはどうだった?」
「クッ。カ、チャ。デージョ、ブ」

 で、でーじょぶ? 大丈夫って言いたいのか。
 ユタの言葉、時々変な訛りに聞こえるんだよなぁ。

「そ、そうか。まぁ俺たちも戻るか」
「クアーッ。ミ、ミミ、ション。ヤッカァ」
「お、やるか? んー……よし、今日は自分の名前を言えるようになろう」
「ンァーッ」

 歩きながら『ユタ』という単語を何度も何度も聞かせた。
 だが『ユ』がどうやら難しいらしい。

「ンウゥ、ウ……ウタァー」
「ユ・タだ。タは言えてるんだけどなぁ。ユ・タ。僕の名前は、ユタです。はい」

 尻尾をビタンビタンと打ち鳴らし、それから顔を息ませるユタ。
 
「ウゥー、オ、オイ、ラ……ウゥターッ。テヤンデェ」
「惜しいなぁ……ん?」

 てやん、でぃ?
 は?

「ぷふっ。あは、にゃははははははは。くふふふふふふっ」

 ツボったのか、猫のレイアが蹲って笑いだす。

「おい、ユタ、お前、てやんでぇなんて言葉、どこで覚えたんだよ」
「おか、おかしいっ。くふふ、あははははははは」
「クアッ? ンククククク?」

 何がそんなにおかしいのか、まぁ本人はわからないよな。
 首を傾げるユタが、レイアの周りをぐるぐると回り始める。
 だが突然、何かを察知したように動きを止め、首を伸ばす仕草をした。

 その時、俺の背後で茂みがガサガサとなる音が。
 急いで身構える。
 ま、まさかモンスター。装置はちゃんと動いてるはずじゃないのか!?

「志導くん。私の荷物から剣を。もしもの時は使って」
「あ、ありがとう。よし」

 巾着から剣を取り出す。といっても、手探りでようやく見つけたそれを引き抜いた時。

「なんでぇ? 見慣れねぇー人間がいるじゃねえか」

 茂みから出てきたのは、全身真っ黒な……。

「アルパカァァァーッ!?」

 ――だった。
 は? ここはいつから動物園になった!?