転移した先が滅びかけ!?〜万能クラフトと解析眼で異世界再生スローライフ~

「ただいま! ニーナ、見てくれっ」

 小走りで教会へと戻って来ると、ニーナ、ユラ、ユタが待っていてくれた。
 おっと。今日も兎を仕留めてきたんだな。

「オ、オオ」
「おかえりなさい。何を見つけた、のかしら?」
「オ! オエーリッ」

 おかえりのつもりか? こりゃまたミッションをやらないとな。
 
「見てくれよユタ、ユラ。ニンジン、ニンジンだよ、えっと、わかる?」
「にゃ~ん。他にもジャガイモとタマネギもあったのよ」

 そう。あのアーサ地帯には、他にも野菜が実っていた。
 収穫できたのはこの三つだけ。他にもまだあったが、実が生ってないものや、収穫時期をとっくに過ぎてしまっていた。

 差し出したニンジンに鼻先を近づけ、ユラはフンフンとその匂いを嗅ぐ。

「知ってるわ。私、たちも食べることがあるから」
「そっか。じゃあ一緒に食べよう」

 俺とレイアの分で一本。これは炒めて食べたい。
 
「待って志導くん。そのままじゃ食べられないわよ」
「え? ど、どういうことだい、レイア」
「説明する前に、私、人の姿に戻るわね」

 ということで俺は外に出て、彼女が服を着るのを教会の裏手で待つ。
 ん……あれって、井戸かな?

「中はどうなってるのかな。――の前に、汲み取り用のバケツとか滑車とか、全部ボロボロじゃないか。こっちは保存魔法をかけてなかったんだろう」

 まずは修理しなきゃ、中に溜まってる水すら汲み上げられない。

「志導くん、お待たせぇ~」
「お、じゃあ戻るよ」

 中へ入ると、人の姿に戻ったレイアが出迎えてくれた。

「志導くん。野菜を全部出してくれる? 汚染地帯で実った物はね、どれも同じように汚染されてるの」
「え? ってことは、それを食べると体調を崩す、とか?」
「その通りよ。食べ続けてたら命の危険だってあるんだから。でも大丈夫、こうしてね――」

 レイアが俺にはわからない言葉を呟くと、彼女の手が光り出す。そして抱えた野菜を包み込むと、少し煤が付着していたような野菜が綺麗になった。

「も、もしかして、あの黒ずんでた煤みたいなのが、汚染?」
「えぇ。これでもう食べられるわ。今のは浄化の魔法。こうしないと食べちゃダメなのよ。あっちの兎も浄化しておくわね」
「浄化!? お、俺たち、昨日、肉食べてるよっ」
「そうね。でも大丈夫。モンスターはもともと、汚染に対して抵抗力を持ってるから」

 よ、よかったぁ。うわぁ、何も知らないでうっかり食べてたら、大変なことになっていたかも。
 そういえば、ニーナがリンゴは汚染されてないから大丈夫って言ってたもんな。
 それってつまり、汚染されてるのは大丈夫じゃないってことだし。

「それじゃ、食事にしましょう。鍋とかフライパンは、私が持ってるから。料理は任せて」
「おぉ! じゃ、よろしくお願いしますっ」

 笑顔のレイアが、手際よく準備を始める。
 コンロなんてものはないけど、焚き火を使って野菜と兎肉を炒めはじめた。
 ジューっという肉の焼ける音。
 もうそれだけで米を二杯食えそうだ。

 彼女が料理をしている間に、こちらは盛りつけようのお皿をクラフトしておく。
 石のお皿だ。それを焚き火の側に少しだけ置いて温める。料理が冷えないようにね。

「さ、完成よ。味付けは少しの塩と香草しかないから、ちょっと薄味だと思うけど」
「いやいや、十分だよ。こんな世界じゃ、きっと塩も高価なんだろうし」

 クラフトした石に盛りつけられた野菜炒めは、めちゃくちゃ美味そうなニオイを漂わせていた。
 肉が多めなのもあって、この一品で十分。腹は満たされる。
 何より手料理だ。それだけでウマい!
 
「ご馳走様。はぁー、美味かったぁ。兎の肉、野菜炒めにも合うな」
「ほんとねぇ。久しぶりに野菜をいっぱい食べられたわぁ」

 野菜をいっぱい、か。ニンジンとタマネギの二種類だけなんだけどね。
 ジャガイモは晩御飯に残す頃にした。蒸かして食べれば、主食の代わりにもなる。

「さて……ここで話し合っておきたいことがあるんだ」
「話し合う?」
「そう。今後、どうするかってこと。最終的な目的はさ、レイアの呪いを解くこと。それから都市の魔導装置を起動させて、魔素の浄化範囲を広げる事だ」
「そ、そうね……でも今のままだと、都市には入れそうにないんでしょ?」

 俺とレイアがニーナを見つめる。

『たぶん……とっても、難しいです、の。近づくと危険』
「だよなぁ~。中に入らず、魔導装置の防衛システムを停止させる方法があればいいんだけど」
「他の町はどうなっているのかしら。そっちにヒントとかあればいいんだけど」
「他の町? 魔法王朝には、アリューケみたいな町が他にも?」

 そう尋ねると、ニーナとレイアが視線を交わす。だが口を開いたのはユラだ。

「魔法王朝の都市。その周り、五つの町がある、わ。ここは、その一つ。都市から南東の位置、よ」
「五つ……」
『その五つが、全部、都市を守る結界、作ってたです』
「そうだったのか。各町の魔導装置が動いているかどうかって、わかるのかい?」

 その問いにニーナは首を振る。
 わからない――ではなく、『壊れてる、です』という答えだ。

「簡単にはいかないわね」
「そうだね、レイア。でも焦らず、少しでも安全な方法で都市へ入れる手段を見つけよう。長期戦になるのは必須だし、まずはさ、ここでの生活環境を整えようと思うんだ」
「生活、環境?」
「そ。周囲の探索も必要になるだろう。町に戻って来てからさ、出来れば快適に過ごしたいじゃん?」

 ベッドの件は、午後からハンモックを編んでなんとかする。
 でもそこで終わりじゃない。
 さっきの井戸とか、この教会とか、人が住めるようにしたいんだよね。
 せっかくそれが出来そうなスキルを持っているんだし。

「快適……そうね。うん、その通りよ。生活環境の整えに賛成~」
「クッ? サ……シェーッ」

 ユタが立ち上がって、尻尾をビタビタ打つ鳴らし万歳をする。
 
「埃、舞うから止めなさい」
「クアッ! ク、クウゥゥゥ」

 はは。ユラに怒られて拗ねてやがる。

「よし。それじゃ俺たちの当面の目標は、ここを暮らしの場として住みやすくすることだ」
「えぇ」
「クッ」
『ニ、ニーナもお手伝いするですのっ』

 決まりだ。それじゃあまずは――。

『あっ』

 ニーナが突然立ち上がり、町の中央の方へと視線を向けた。

「どうしたの、ニーナ?」
『魔導装置……なんだか変んな音、してるです』
「なんだって!?」

 まさか壊れた?

「レイアは留守番をしててくれ。そろそろ猫の姿になる頃だろ?」
「そ、そうね。ごめん、直ぐに追いかけるから」

 ニーナと、それからユタと一緒に塔へと向かった。
 けど、俺には特に音なんて何も聞こえない。
 解析眼の方でも、特に問題を表示していなかった。

「ニーナ、どう?」
『ん……今、大丈夫、みたい。とっても古い装置。長い間、動いてなかったから、それが動くようになって、装置もビックリ、しているかもですね』
「どっか錆びてるのかなぁ。まぁ解析眼の結果だと、どこもおかしくはなってないようだし」
「クアァァ~」

 何事もなく、それが退屈なのかユタがおいきな欠伸をした。
 
「じゃ、戻るか。また何かあったら、直ぐに知らせてくれよ。ニーナ」
『はいです』

 塔から出て教会の方へと向かう。
 天使にお勧めされて思わず取ったこのスキル。取った甲斐はあったな。
 めちゃくちゃ役に立ってるよ。

 ――でしょでしょ~。

 ん?

『志導、お兄ちゃん。どうしたですか?』
「クオォォ」

 今、あいつの声が聞こえたような……。
 いや、いるわけないよな。あんだけ忙しそうにしていたんだし。
 あの輪廻転生課の天使。
 やたらインパクトは強すぎたせいで、あいつの幻聴が聞こえるとはな。
 ははは。

「何でもない、何でもない。さ、帰ろう」
「志導くーん」

 歩き始めてすぐ、猫のレイアが駆けて来るのが見えた。
 通りに風が吹き、木の葉が舞う。
 彼女と合流する直前――それは突然鳴った。

 ウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥーッ。

 空気を引き裂くような、けたたましいサイレンの音。足元の地面がわずかに振動する。
 
「な、なんだ!?」
「キャァァァーッ」
「クックアァァッ」

 すぐにサイレンの音は止んだ。けど、空気を震わせる残響を、まだ肌で感じるほど。
 同時にさっきまで吹いていた風も止んだ。
 血の気が引くような、そんな錯覚に襲われる。

 嫌な予感がする。
 いったい今のは、何だったんだ。