転移した先が滅びかけ!?〜万能クラフトと解析眼で異世界再生スローライフ~

「解析眼!」

 再び建物内へと戻り、室内に置いてあったコレ――ハンモックを解析する。
 目的は、作り方を調べるためだ。

【解析結果:ハンモック。太い紐を使って編んだもの】

 うん。それは知ってる。
 そうじゃなくって、俺が知りたいのはその編み方なんだって。
 
【編み方を解析――完了――万能クラフトへアップロード――完了】

「よし! あとは紐さえあれば作れるぞ」
「ほんとに!?」
「あぁ。でも……紐、なぁ」

 解析したこのハンモックの紐も、ちょっと引っ張っただけでブチブチ切れた。
 ベッドの板が朽ちかけるぐらいだ。紐だってダメになってるだろ。

「それなら大丈夫よ」
「え? 大丈夫って、アテがあるってこと?」
「うんっ。この近くにね、糸の原料になる植物がいっぱい生えてたの。私が生まれ育った集落で栽培してたのと、同じ植物だったわ」

 おおおぉぉぉ! 持つべきものは現地の友!

「よし。まずはエメラルドを交換して、それから草刈りだ!」

 塔へ行って、魔導装置のエメラルドを交換。先にセットしていたエメラルドを、レイアへと返した。

「レイア。俺のスキルでブローチに戻せると思うよ。留め具、持ってる?」
「えぇ。魔法の巾着に入れてあるから」

 彼女が腰からぶら下げた巾着中に手を突っ込み、ブローチの留め具一式を取り出した。

「それって、見た目に反してたくさんのものを入れられる、魔法アイテム的なもの?」
「えぇ、そうよ。あなたのインベントリと違って、こちらは中の空間サイズが決まってるの。んー、これくらいの箱四つ分、ぐらいかしら」

 彼女がこのぐらいとジェスチャーしたサイズは、みかん箱ぐらいか。結構入るんだな。
 
 レイアから留め具を受け取り、それとエメラルドをインベントリへ。
 万能クラフトを開き、さっきの二つを素材に選択すると【修繕】という項目が出た。
 それを押せば、一瞬で元通り。

「出来たよ、レイア」
「わぁ。本当に元通りだわ。ありがとう、志導くん」

 受け取ったブローチを、レイアは大事そうに両手で包んだ。
 彼女の笑顔が見れて、本当によかった。
 
「こちらこそ、あの時咄嗟に貸してくれて感謝してるよ」

 改めて装置を起動させる。あの家で見つけたエメラルドでちゃんと装置が動くか、確認しないとな。

「ニーナ、どうだい?」
『大丈夫、ですの。ちゃんとお仕事、出来てるです』

 お仕事ってのは、魔素の浄化のことだろう。
 よし、次は草刈りだ。
 レイアに案内されたのは、塔からやや南東に行った場所。
 建物の痕跡となる瓦礫は一切なく、元々この辺りには何もなかったことが伺えた。

 駆け抜ける風が心地いい。初めて訪れた時と比べて、ここの空気は確かに綺麗になっている。
 レイアが立ち止まったのは、長ーい茎の植物がびっしりと生い茂った場所だ。

「ずいぶんと背の高い草だなぁ。これが例の?」
「そ。よく育ってると、二百五十センチぐらいになるの。じゃ、さっそく切っていくわよ」

 レイアは剣を抜き、それを一閃。
 ヒュンッという風を斬る音がすると、何本もの茎が一斉に舞った。

「おぉ、お見事。いやでも、草刈りに剣を使うとは……」
「だって、こっちの方が早いんだもの」

 苦笑いを浮かべて、彼女が刈り取った草を拾い集めた。それをインベントリへと押し込んでいく。
 足元の草を収納するだけで、既に掌が青臭くなっていた。

「お。クラフトメニューに、繊維の抽出って項目が出てるぞ。そのまま糸に加工も出来るのか」

 草を拾い集めながら、同時にクラフト作業も進めていく。量が多いと、さすがに少しだけ加工するのに時間がかかるようだ。
 まぁまずは全部拾ってしまわないと、な――。

「うわぁ!? レ、レイア?」

 テニスコート二、三枚分ほどの広さがあったはずなのに、気づけばその半分近くが禿げていた。

「ふ、ふにゃあ~。志導くん、志導くんここ」
「レイア? ど、どこだ……いたっ」

 刈られた部分とそうでない部分の境界線で、猫の姿に戻ったレイアが出てきた。
 本人はもちろん、地面に落ちた剣も服も草まみれだ。
 ちょっと笑いが込み上げてきたが、そこはぐっと我慢。

「大丈夫か?」
「うん。でも途中で猫になっちゃって。全部刈りたかったのに」

 いや、十分過ぎだろ。
 俺がちょっと糸づくりしている間に、テニスコート一枚分を禿げさせるなんて……。
 よ、よし。俺も頑張るぞ!

「この草、アーサって言うのか」 

 麻みたいなものかな?
 長ーく伸びた草は細く、でもこのサイズになるとそれなりに重い。な、なかなか地道な作業だ。
 何度も何度も、しゃがんでは草を拾い、一歩前進してはしゃがんで草を拾い。
 単調な作業でも、これはかなり腰が痛い……。

『ニーナもお手伝い、するです』
「おぉ、ありがとうな、ニーナ」

 小さな体で、自分より遥かに背の高い草を抱えるニーナ。草を抱えているというよりは、草に翻弄されている。あっちにフラフラ、こっちにウラフラ。
 猫のレイアも一本ずつ加えては、俺の傍まで運んでくれた。

 三人で協力して全ての草をインベントりに入れ終える頃には、もう昼になっていた。

「ふぅ。一旦戻ろうか」
「んにゃ。そうね、ユタとユラも戻って来てるだろうし」

 ユラが息子に狩りの仕方を教えるんだといって、二頭とは今朝から別行動。昼には戻ると言っていたから、もう帰ってきているかもしれない。
 
『ユタ、たち、戻ってきたですの。ニーナ、先に戻ってるですね』
「そっか。じゃあ俺たちも今から戻るからって伝えてくれる?」

 ニーナは笑顔で頷き、それからすぅっと光になって消えた。
 あんな風にして消える姿は、神様っていうか、なんかだ精霊っぽい。
 ま、どっちも人間じゃないっていう点は同じだけど。

「さて、戻ろうかレイア。……レイア?」

 さっき自分で禿げ散らかした場所を、レイアがじっと見つめて動かない。
 
「レイア、戻ろうよ」

 背後からそう声をかけると、猫のレイアがぷるぷると震えながら振り返った。
 その瞳は、キラキラと輝いてい見える。

「ど、どうしたんだ、レイア?」
「し、志導くん……私、す、凄いもの、見つけちゃったかも」
「凄いもの?」

 何だろうと思って彼女の側へと向かう。
 地面から十五センチほどの高さで綺麗に刈り揃えられたアーサの茎の根元。
 なんとそこに、懐かしくも感じる見慣れたものが埋まっていた。

 スーパーに行けば当たり前のように並んでいるそれ。
 土から少しだけ顔をだしているのは、オレンジ色の――。
 
「こ、これってまさか……」
「えぇ、そのまさかよ!」

 俺とレイアが視線を合わせる。それから二人同時に、

「「ニンジン!」」

 ――と叫んだ。