転移した先が滅びかけ!?〜万能クラフトと解析眼で異世界再生スローライフ~

「ニーナ。ニーナいないか?」

 翌朝、俺たちはエメラルドを探して町を探索することにした。
 魔導装置に嵌めたエメラルドは、レイアにとって大切なもの。だから彼女に返したい。
 ミスリルやアメジストがゴミのように置かれるような町だ。エメラルドだってと思ったのだけど、案外見つからない。

 呼びかけると、ふわぁっと光がやって来て土地神ニーナが現れる。

『ニーナ、いるの』
「ニーナ。この町にエメラルドはないのかい?」
『エメラ、ルド……エメラルドは、この町から、一番遠い鉱山、で、取れるですの。だから、在庫少なくって……』
「もしかして、ない?」
『えっと、装置用……ずっと昔に使い切った、ですの』

 あっちゃー。どうするかな。

『で、でもきっと誰かのお家、あるです!』
「ほ、本当?」

 コクコクと頷くニーナ。
 
「じゃ、このまま探してみましょう。でも見つからなくっても、気に病まないで。魔素の浄化に必要なものだもん。それでなくなったとしても、私は気にしないわ」
「い、いや、絶対に見つけよう!」
「ふう。じゃ、どこの家から探す? まぁ九割の建物は瓦礫になっちゃってるけど」

 そう言ってレイアは弾むように歩き出した。
 今は太陽が出ている時刻。
 月が出ている時間以外は猫の姿に変身する呪いを受けているレイアは、今、人の姿だ。

「ポーションの効果時間、まだ大丈夫?」
「ん……えっと、あと四十分もあるわ。大丈夫。はぁ~、たった一滴のポーションで一時間も人の姿に戻れるなんて。志導くん、ほんっとうにありがとう」
「お礼ならニーナに言ってよ。あのエリクサーを咲かせてくれたのはニーナだし」

 そう言うと、ニーナは恥ずかしそうにもじもじした。

「ありがとうございます、土地神様」

 とレイアがお礼を言うと、ニーナはハッとなって顔を上げ、それから首をぶんぶんと振る。

『ニーナ、なの。ニーナッ』
「え?」
「ははは。ニーナは土地神様って呼ばれるより、ニーナって呼ばれたいんだよな」

 俺がそう言うと、ニーナはコクンっと頷く。

「し、志導くん。いいのかな? だって相手は土地神様よ?」
「いいんじゃないかな。だって本人がそう望んでいるんだし。これが天啓だと思ってさ」
「て、天啓、ね……。うん、わかった。ありがとう、ニーナ」
『はわぁ~っ。どういたしまして、なの』

 レイアに名前を呼ばれ、ニーナは嬉しそうだった。

「あ、ねぇ。あの家はどう? ちょっと大きくって、立派じゃない? 大きな宝石とか持ってそう」
「お、いいねぇ。じゃ、行ってみようか」
『なの~』




 
 家の中はやや荒れた状態だった。モンスターに荒らされたのか、それとも住人が慌てて逃げたからなのかはわからない。
 壁には蜘蛛の巣が張られ、床には割れた食器が散乱している。
 けど、奥の部屋――寝室の方は比較的状態がよかった。

「あった! これ、エメラルドじゃないかな?」
「たぶんそう。志導くんのスキルでわかるんじゃあい?」
「おっと、そうだった。よし、解析眼、見せてくれ」

 ドレッサーっていうのかな? 引き出しとかそういう中じゃなく、無造作に宝石がいくつも並んでいた。
 そのうちの一つ、緑色の物を解析すると――。

【解析結果・エメラルド。純度:高】

「よぉっし! これでレイナがおじいさんから貰ってエメラルドを外せるぞっ」
「ほんと? よかったぁ」

 代わりのエメラルドがなくても気にしないで――と言っていたけど、やっぱり大切なものだから手元に置いておきたかったんだな。
 見つかってよかった。

「すみません。このエメラルド、使わせてください」

 誰、という訳でもないけど、俺はそう言ってエメラルドを両手で包んだ。

「じゃ、塔に行こうか」
「えぇっ」

 弾むようなレイアの声。
 ふと、俺の視界にベッドが映る。

「このベッド……」

 このベッドで眠りたい。ベッドが欲しい!
 二日も石床の上で眠って、もう全身バッキバキ。
 ベッド欲しいベッド欲しいベッド欲し――あ。

 憑りつかれた様にベッドへとダイブすると、もわぁぁっと誇りが待った。

「ケホッケホッ。し、志導くん?」
「ごめ、げほげほっ。ちょっと、ベッド、げほっ、ベッド欲しくて」
『大丈夫、なの?』
「だ、大丈夫だニーナ。外に出よう」

 まさかあんなに埃が積もっていたとは思わなかった。しかもダイブしたときに、バキって凄い音もしたし。あれたぶん、マットの底にある板が割れたんだろうな。

「保存魔法がかかってなかったのかな?」
「魔法? ううん、かかってるわ。でもね、保存魔法ってその時の状態を永遠に保つものじゃないの。崩壊までの時間を緩やかにするものだから」

 じゃあ、何百年も過ぎてるから、それなりに傷みが出ているってことか。

「はぁ……ベッド、欲しかったなぁ」
「あはは。床に直接寝てるから、体が痛いんでしょ? 私は野宿にも慣れてるから、まだ平気だけど」
「まだってことは、いずれ平気じゃなくなるってことか」
「う……そ、それは」

 俺なんて二十七歳だぞ。もう若くないんだ。

「おっさんなんてもう体がボロボロだから、床の上に直寝は辛いんだよ」
「お、おっさんじゃないわよっ。あなたはまだまだ若いわっ」

 うぅ。若い子が気を使ってくれる。おじさん嬉しい。
 いや、そうだ。俺はまだ若い!
 まだ二十代だ。おっさんには早いよな!

「でもベッドは欲しい」
「ふふ、そうね。出来れば私もベッド欲しいし。でもさっきの感じだと、他の家のベッドも似たような状態だろうし……」
「確かになぁ……ん?」

 その時、窓の向こうに見えた室内に、ある物を発見した。
 ロープを編んで作る、バカンス気分が味わえそうなオシャレな寝具。
 あれは――使えるぞ!!