【解析結果:古代の禁術を用いた獣化の呪い。解除方法:不明】

 呪いを解く方法は、わからない。だが。

【その方法は古代魔法王朝の地下に眠る、膨大な魔導書のどれかに記されている】

「君の呪いを解析してみたんだ」
「え!? か、解析できたの? そ、それでっ」
「それで……解除方法が書かれた魔導書が、地下迷宮にあるってことしかわからなかった」

 そんな情報、何の役に立つって言うんだ。そもそもレイアの目的地は地下迷宮で、呪いを解く方法を探してそこへ行こうとしていたんだ。今更、重複するような情報を出されたって意味ないだろ。

「ごめん、レイ――「よかったぁ。解く方法があるんだわ」え?」
「方法が何もなかったらどうしようって、それが一番不安だったの。でも志導くんのおかげで、方法があるってわかったわ。しかも魔法王朝の都市に!」

 そうか。方法があるってことがわかったんだ。
 あるのかどうかわからない状況より、ぐんと進展したと考えていいのか!

「呪いを解く方法が、もうすぐそこにあるんだわ」
「あぁ。都市の地下に――あっ」
「ん? どうしたの」

 忘れてた。都市の防衛システムが暴走しているんだった。

「も、もう一つ大事な話が……実は――」

 ニーナから聞いた、都市の魔導装置の一部が暴走していることをレイアに告げた。
 レイアはきっと、直ぐにでも都市へ行きたいはずだ。そんな彼女の希望を打ち砕きたくない。でも黙っていれば、真実を知った時にもっとダメージを受けることになる。
 何より危険だ。

 話す間、レイアの表情がどんどん暗くなっていくのが見て取れた。

「そんな……都市は半日の距離にあるっていうのに。やっぱりこの呪いは、解けないんだわ」
「何を言っているんだレイア! ここまで来て諦めるのか君はっ」
「でも中に入れないんじゃどうしようもないじゃないっ」
「方法はある! 俺が必ず見つける! この解析眼で必ずっ」

 今にも泣き出しそうな彼女の肩を掴み、俺はその瞳をじっと見つけた。
 必ずと言ったけど、自身がある訳じゃない。解析するには、それをこの目で見なきゃいけないんだ。
 入ることが不可能だったら、解析すら出来ないことになる。

 けど、ここでそんなこと言ったって彼女を落ちこませるだけだ。
 俺がなんとかする――その気持ちに嘘はない!

「大丈夫だレイア。この町の魔導装置だって解析眼と万能クラフトで治せたんだ。暴走装置だって、なんとかなるなる」
「解析眼……万能クラフト……それがあなたのスキル、なのね」
「そ。便利スキルだろ?」

 掴んでいたレイアの肩から手を離す。
 彼女は目に浮かんだ涙を拭うと、それから笑みを浮かべた。

「うん。私、あなたを信じる」
「あぁ、信じてくれ。必ず見つけるよ、古代迷宮都市へと入る方法を」
「ん。私も手伝うわ。戦闘は任せてっ」

 そう言ってレイアは胸をトンっと叩く。

「あぁ、任せるよ。情けない話だけど、俺は戦闘系のスキルがないからさ」
「ふふ。適材適所、でしょ」
「あぁ。そうだね」

 適材適所、か。
 そういえば、ずっと昔にもこんな話を誰かとしていたような。
 高校? いや、もっと前だったような、高校の時だったような。その両方?

「ンアァァーッ!」
「うわぁっ。ユ、ユタ!?」

 レイアを向かい合って話しているそこへ、ユタが割り込んできた。
 俺の脇から顔をズボっと突き出し、尻尾をビタンビタンと床に打ち付けている。

「な、なんだよ!?」
「ラモ……オイ、ラモ、シドー、マモル!」
「え?」
「ふふ。ユタも志導くんを守りたいんだって。いい子ね、ユタ」
「クフフフフフーッ」

 ちょ。俺、守られ役? ま、まぁ確かにこの中で最弱なの、俺だけどさぁ。
 こんなチビっ子にまで守られるとは。
 体、鍛えようかなぁ。

「ク。メ、シ、クウゥ」
「お、飯か。そうだな。ご飯にしよう。あ、聞いてくれよレイア」
「え? どうしたの」
「ユタが立派な兎を狩ってくれたんだ。な?」
「フンフン。クアァーッ」

 ドヤーっと、ユタがまた仰け反る。そして後ろ向きに盛大にこける。
 ワンセットだ。

「ぷふっ。そうなんだ。凄いわね、ユタ。ほら大丈夫?」
「クゥゥゥ」

 こけたユタを、レイアが起こしてやった。
 その瞬間――解析眼が反応する。

 レイア、それからユタの隣で伸びまくっているエリクサー。その両方が視界に入り、それでこんな解析結果が出たのか!

「レイア、君の呪いを呪いを一時的に緩和出来そうだ」
「呪いを緩和? そ、それってどうやってっ」

 レイアが前のめりになって、顔が近くなる。その表情は希望に満ちていた。
 そんな彼女の顔を見て、思わずドキっとしてしまう。
 
「こほんっ。えっと、ポーションで緩和出来るそうだよ」
「ポ、ポーション?」
「あぁ。エリクサーのポーションだ」

 途端、レイアの表情が曇った。
 あ、あれ? 嬉しくないのかな?
 
「エ、エリクサー……そんな……そんな貴重な薬草……見つからないわ」
「いや、あるよ」
「え?」

 きょとんと首を傾げるレイア。俺は彼女の直ぐ右を指さす。

「それ」
「ど、どれ?」
「いやだから、君とユタの隣に生えてるその草。エリクサーだから」
「ん?」

 彼女は見つめた。捲れた床の下から蔦を伸ばした、細長ーい草を。

「それがエリクサー」
「クアッ」

 やや間があって。

「えええええぇぇぇぇぇーっ!?」

 レイア声が夜の町に響いた。