医務室のベッドで休む増田先輩の顔色は、少し良くなって安心した。
「疲労からくる貧血でしょう。サプリでもいいから鉄分取って、しっかり休むこと!」
「はい…」
看護師さんが離れた後、ベッドのそばに立っている俺を見て、増田先輩はゆっくり口を開いた。
「能勢くん、ありがとう。迷惑かけてごめんね」
「全然迷惑じゃないっすよ。疲れてるでしょうから、ゆっくり休んでください」
「うん…」
「じゃあ、俺行きますね。お大事に」
「ありがと」
付き添った関係で、朝一の講義に間に合わなかったため、適当に時間を潰すことにした。
ーそういや、鉄分取れって言われてたな。
1限目が終わる頃、医務室に寄るとちょうど増田先輩が出てきた。
「あ、能勢くん」
「もう大丈夫なんすか?」
「うん。ただ今日はもう帰ろうと思って」
「そうした方がいいと思います。…あ、これ良かったら」
コンビニで買ったサプリや鉄分入りのジュースやグミを渡した。
「え、わざわざ買ってきてくれたの?」
「早く良くなってほしいんで」
「…ありがとう」
増田先輩と別れ、パソコンルームに着いた途端、須藤が駆け寄ってきた。
「おい!すげー噂になってるぞ」
「え、何が?」
「能勢がミスコンをお姫様抱っこして連れ去ったって」
「はぁ!?連れ去ってねーよ!体調悪くて歩くのもしんどそうだったから仕方なくだよ」
「あ、そうだったんだ。多分誤解してるやついっぱいいるぞ?」
「わざわざ訂正すんのもめんどくせーわ。どうせすぐ収まるだろ」
「せめて柚原先輩には早めにしておかないとじゃない?」
平賀が会話に入ってきた。
「え?」
「他の人から誤情報が伝わる前にさ。柚原先輩意外とヤキモチ妬くタイプっぽいし」
…確かに。でも、お姫様抱っこしたのは事実だしなぁ…。理由よりもそこなんだよ。おんぶならよかったか…?
2限目終わりにすぐ柚原さんに電話をかけたが出なかった。
ーこの時間いつもならすぐ出んのに。…後で構内探すか。
昼飯を食った後、探していると乙倉さんを見かけた。
「乙倉さん!」
「あー能勢っち!お疲れ」
「お疲れ様です。あの、柚原さんは…」
「さっきゼミの教授に連れて行かれてたけど、急用?」
「いや、急用でもない…ですけど」
「あ!増田先輩の件だろ?」
「え!もう知ってるんすか!?」
「うちの学科の1年がその場にいたらしくて、写真見せられたんだよ」
「写真!?」
隠し撮りされてたのかよ…まじ最悪。
「それもしかして…」
「うん、残念ながらユズも見た」
「はぁー…」
大きくため息をつきながらしゃがみ込んだ。
「そんな落ち込まなくていいじゃん。ちゃんと理由あってのことなのは、ユズも分かるって」
「そうですけど、さすがに写真で見るのはアウトっすよぉ…」
「…まぁ、ぶっちゃけ、話だけならよかったけど、写真見た時のユズはやばかった」
「…。」
今日は授業終わったら速攻バイトに行かなきゃだし、柚原さんはバンド練習あるし、話す時間が夜まで無さそうだ。わざわざ文面で誤解解くのもなんか違う気がするし…。
バイト終わりに更衣室でスマホをチェックすると、終わったら電話して、と柚原さんから連絡が入っていた。
「お疲れ様でした、失礼します」
従業員出入口を出て、歩きながらスマホの着信ボタンを押そうとした瞬間…
ぎゅっ…
後ろから誰かに抱きつかれた。この匂い…
「お疲れさま」
耳元で大好きな柚原さんの声がする。
「え、あ、何で…」
「電話より直接の方がいいと思って」
「わざわざありがとうございます…」
歩き出した俺たちの手は、自然と指が絡まる。
「あの、何で電話したかっていうと…」
「増田先輩のことでしょー?」
「…はい。言い訳をするつもりはないんですけど、増田先輩が貧血で倒れそうになって医務室に運んだんです。今思えば、せめておんぶにしとけばここまで話題にならなかったかなって…」
「いや、おんぶでもなったと思うよ?」
「…ですね。もし、写真を見て嫌な気持ちにさせたならすみません」
「嫌な気持ちにはなってないよ」
「…え」
「葵ちゃんが理由なくあんなことするなんて思わないし。だから嫌な気持ちになってないけど…やっぱり悔しくはあったよね」
「悔しい…?」
「だって、お姫様抱っこしてる葵ちゃん、すんごくカッコよかったんだもん。あんなの惚れちゃうじゃん。増田先輩ずるくない!?」
「…ふはっ」
予想外の反応に思わず笑ってしまった。この人の俺への愛はここまで来てんのか。
「そんなこと言ってくれるのは、柚原さんぐらいっすよ。それにあの状態の増田先輩に俺のこと見る余裕なかったと思います」
「…人助けする優しい葵ちゃんが俺は好きだから、これから先も女の子が困ってたら助けてあげて」
「…ありがとうございます」
「どうしよう、昨日も泊まってくれたのに今日もこのまま一緒に帰りたいなぁ…」
今のやりとり後にその言葉は確信犯だ。
「…泊まりたいです…」
「じゃあ、連れて帰っちゃお」
次の日の朝は、一緒に大学へ行くことができた。もちろん、大学の近くでも仲良く手を繋いで歩く。
大学の門前に増田先輩が立っていた。
「おはよう」
「おはようございます!」
「おはようございまーす」
「能勢くん、昨日は本当にありがとうね」
「体調大丈夫っすか?」
「うん、くれた鉄分のおかげもあって元気になったわ」
「よかったです。引き続き無理しないでくださいね」
「ありがとう。良かったら今日のお昼、食堂でご馳走させてほしいんだけど」
「いやいや、そんな大した事してないんで」
「されっぱなしは好きじゃないのよ」
「でも…」
「増田先輩、お礼は言葉だけで十分です。俺の葵ちゃんにアピールすんのは、もう諦めてください。葵ちゃん優しいし、後輩だから断れないんで、俺が代わりに言っておきますね」
「自分の所有物みたいな言い方しないでもらえる?どうするか決めるのは能勢くんでしょう?」
「葵ちゃんは俺のものだし、俺は葵ちゃんのものですもん」
当たり前のようにそう言われ、頬が染まる。
「だから大人しく仲の良い先輩ポジションで我慢しといてくださいよ」
柚原さんはこう見えて相手を挑発するタイプだ。
増田先輩は明らかに不機嫌そうな顔をしたが、美人はそんな顔すら綺麗だから驚いてしまう。
…つーか、門の前で学内の美男美女が言い争ってたら目立って仕方ねーよ。早く終わらせないと。
「あの…!3人で行きません?もちろん、俺は増田先輩のご馳走になります」
2人は目を合わせ、妥協した感満載で首を縦に振った。
2限目が終わり、食堂へ向かおうとした時、須藤に声をかけられた。
「能勢ー、コンビニに昼飯買いに行こうぜー」
「悪りぃ、増田先輩と約束してて」
「え、お前もしかしてほんとに増田先輩に乗り換えたの?」
「ちげーよ。柚原さんも一緒だから」
「へぇー、俺の元カノはモテモテですなぁ」
「モテてはねーけど困ってんだよ。須藤助けて」
「やだよ、あの2人同時に敵に回すとか怖ぇもん」
…そりゃそうか。
「じゃあ、行ってくるわ」
「はいよー」
食堂の入り口で増田先輩と会い、先に中へ入った。
「先に席取っておいてもらってもいい?私、注文してくるから。カツカレーセットでいいんだよね?」
「はい、よろしくお願いします」
席を確保したタイミングで、柚原さんがやって来た。増田先輩といい、柚原さんといい、学内の有名人が現れるだけで食堂内は軽く騒つく。
「お疲れー。増田先輩は?」
「お疲れ様です。先に注文しに行きました」
「そっか。俺も買ってくるー」
「はーい」
今さらだけど、去年の学園祭のコンテストグランプリのうち3人が同じテーブルに揃ってんの凄くね?ここにたかみーさんがいれば奇跡のショットだったな。
「あおちゃん?」
振り向くと高見さんがいた。
「たかみーさん!え、やば!!」
頭ん中で考えてたことが現実になり、1人でテンションが上がる。
「1人?」
「いえ、柚原さんたちと一緒です。たかみーさんは…」
「薫さん、お待たせしました」
平賀が現れ、俺に気づくと「能勢何してんの。須藤寂しがってたよ」と言ってきた。
「葵ちゃん、お待たせー。あれ、平賀さんじゃん」
結局、居合わせた5人で食べることになった。
「え、待って。もしかして学園のミスコン、ミスターコン、男装、女装のグランプリが揃ってる!?」
ーさすが平賀。
「4人の写真撮っていいですか!?」
平賀にスマホを向けられ、とりあえずピースをして写った。
「平賀さん、今の写真葵ちゃんに送っておいてくれる?後で俺にも送ってもらうから」
「了解です!」
「能勢くん、私にも送ってね」
「はい」
「そういえば、学園祭のコンテストでグランプリ取ったら、もう出場できないんですよね?」
平賀が全員に対して尋ねた。
「そうだったはずよ」
「じゃあ、連覇とか無理なんですね」
「じゃあ今年は、あおちゃんの可愛い女装が見てもらえないのかぁ。残念だね」
「出れなくて一安心っすよ」
「今年は1年の子を出させようと思って!能勢ほどではないですけど、女装似合いそうな子がいるんですよ」
「へぇ、それは楽しみだね」
「あ!能勢、今度久々に女装してみない?サークルの日に1年をびっくりさせようよ」
「はぁ!?やに決まってんだろ」
「えー、このドッキリ絶対盛り上がると思うんだけど。柚原先輩も見たいですよね!?」
残念だったな。柚原さんは俺の女装はもう満足してんだよ。見なくていいんだよ。
「するなら俺が行ける日にしてほしいなぁ」
…見たいんかーいっ!!
「ほら、愛しの彼氏さんがこう言ってるわけだし、それに須藤も喜ぶと思うよ」
「何でここで須藤が出てくんだよ」
「え、だって須藤の待受あのままなんだよ?そんだけ能勢の女装姿好きなのかと」
「…。」
平賀と講義室に戻ると、後ろの席で須藤がスマホをいじっていた。
「おい、須藤。ちょいスマホよこせ」
「は?なんだよいきなり」
「いいから貸せって」
半ば強引に奪い、待受を確認すると女装姿の俺とのツーショットのままだった。
「何でまだこの写真なんだよ」
「変えるの面倒でそのままなだけー」
「そんな須藤に朗報!元カノ葵ちゃんと新しい写真撮れるチャンスがあるのよ!」
「え、なになに」
ーあぁ、悪巧みが実行されるな…。
「疲労からくる貧血でしょう。サプリでもいいから鉄分取って、しっかり休むこと!」
「はい…」
看護師さんが離れた後、ベッドのそばに立っている俺を見て、増田先輩はゆっくり口を開いた。
「能勢くん、ありがとう。迷惑かけてごめんね」
「全然迷惑じゃないっすよ。疲れてるでしょうから、ゆっくり休んでください」
「うん…」
「じゃあ、俺行きますね。お大事に」
「ありがと」
付き添った関係で、朝一の講義に間に合わなかったため、適当に時間を潰すことにした。
ーそういや、鉄分取れって言われてたな。
1限目が終わる頃、医務室に寄るとちょうど増田先輩が出てきた。
「あ、能勢くん」
「もう大丈夫なんすか?」
「うん。ただ今日はもう帰ろうと思って」
「そうした方がいいと思います。…あ、これ良かったら」
コンビニで買ったサプリや鉄分入りのジュースやグミを渡した。
「え、わざわざ買ってきてくれたの?」
「早く良くなってほしいんで」
「…ありがとう」
増田先輩と別れ、パソコンルームに着いた途端、須藤が駆け寄ってきた。
「おい!すげー噂になってるぞ」
「え、何が?」
「能勢がミスコンをお姫様抱っこして連れ去ったって」
「はぁ!?連れ去ってねーよ!体調悪くて歩くのもしんどそうだったから仕方なくだよ」
「あ、そうだったんだ。多分誤解してるやついっぱいいるぞ?」
「わざわざ訂正すんのもめんどくせーわ。どうせすぐ収まるだろ」
「せめて柚原先輩には早めにしておかないとじゃない?」
平賀が会話に入ってきた。
「え?」
「他の人から誤情報が伝わる前にさ。柚原先輩意外とヤキモチ妬くタイプっぽいし」
…確かに。でも、お姫様抱っこしたのは事実だしなぁ…。理由よりもそこなんだよ。おんぶならよかったか…?
2限目終わりにすぐ柚原さんに電話をかけたが出なかった。
ーこの時間いつもならすぐ出んのに。…後で構内探すか。
昼飯を食った後、探していると乙倉さんを見かけた。
「乙倉さん!」
「あー能勢っち!お疲れ」
「お疲れ様です。あの、柚原さんは…」
「さっきゼミの教授に連れて行かれてたけど、急用?」
「いや、急用でもない…ですけど」
「あ!増田先輩の件だろ?」
「え!もう知ってるんすか!?」
「うちの学科の1年がその場にいたらしくて、写真見せられたんだよ」
「写真!?」
隠し撮りされてたのかよ…まじ最悪。
「それもしかして…」
「うん、残念ながらユズも見た」
「はぁー…」
大きくため息をつきながらしゃがみ込んだ。
「そんな落ち込まなくていいじゃん。ちゃんと理由あってのことなのは、ユズも分かるって」
「そうですけど、さすがに写真で見るのはアウトっすよぉ…」
「…まぁ、ぶっちゃけ、話だけならよかったけど、写真見た時のユズはやばかった」
「…。」
今日は授業終わったら速攻バイトに行かなきゃだし、柚原さんはバンド練習あるし、話す時間が夜まで無さそうだ。わざわざ文面で誤解解くのもなんか違う気がするし…。
バイト終わりに更衣室でスマホをチェックすると、終わったら電話して、と柚原さんから連絡が入っていた。
「お疲れ様でした、失礼します」
従業員出入口を出て、歩きながらスマホの着信ボタンを押そうとした瞬間…
ぎゅっ…
後ろから誰かに抱きつかれた。この匂い…
「お疲れさま」
耳元で大好きな柚原さんの声がする。
「え、あ、何で…」
「電話より直接の方がいいと思って」
「わざわざありがとうございます…」
歩き出した俺たちの手は、自然と指が絡まる。
「あの、何で電話したかっていうと…」
「増田先輩のことでしょー?」
「…はい。言い訳をするつもりはないんですけど、増田先輩が貧血で倒れそうになって医務室に運んだんです。今思えば、せめておんぶにしとけばここまで話題にならなかったかなって…」
「いや、おんぶでもなったと思うよ?」
「…ですね。もし、写真を見て嫌な気持ちにさせたならすみません」
「嫌な気持ちにはなってないよ」
「…え」
「葵ちゃんが理由なくあんなことするなんて思わないし。だから嫌な気持ちになってないけど…やっぱり悔しくはあったよね」
「悔しい…?」
「だって、お姫様抱っこしてる葵ちゃん、すんごくカッコよかったんだもん。あんなの惚れちゃうじゃん。増田先輩ずるくない!?」
「…ふはっ」
予想外の反応に思わず笑ってしまった。この人の俺への愛はここまで来てんのか。
「そんなこと言ってくれるのは、柚原さんぐらいっすよ。それにあの状態の増田先輩に俺のこと見る余裕なかったと思います」
「…人助けする優しい葵ちゃんが俺は好きだから、これから先も女の子が困ってたら助けてあげて」
「…ありがとうございます」
「どうしよう、昨日も泊まってくれたのに今日もこのまま一緒に帰りたいなぁ…」
今のやりとり後にその言葉は確信犯だ。
「…泊まりたいです…」
「じゃあ、連れて帰っちゃお」
次の日の朝は、一緒に大学へ行くことができた。もちろん、大学の近くでも仲良く手を繋いで歩く。
大学の門前に増田先輩が立っていた。
「おはよう」
「おはようございます!」
「おはようございまーす」
「能勢くん、昨日は本当にありがとうね」
「体調大丈夫っすか?」
「うん、くれた鉄分のおかげもあって元気になったわ」
「よかったです。引き続き無理しないでくださいね」
「ありがとう。良かったら今日のお昼、食堂でご馳走させてほしいんだけど」
「いやいや、そんな大した事してないんで」
「されっぱなしは好きじゃないのよ」
「でも…」
「増田先輩、お礼は言葉だけで十分です。俺の葵ちゃんにアピールすんのは、もう諦めてください。葵ちゃん優しいし、後輩だから断れないんで、俺が代わりに言っておきますね」
「自分の所有物みたいな言い方しないでもらえる?どうするか決めるのは能勢くんでしょう?」
「葵ちゃんは俺のものだし、俺は葵ちゃんのものですもん」
当たり前のようにそう言われ、頬が染まる。
「だから大人しく仲の良い先輩ポジションで我慢しといてくださいよ」
柚原さんはこう見えて相手を挑発するタイプだ。
増田先輩は明らかに不機嫌そうな顔をしたが、美人はそんな顔すら綺麗だから驚いてしまう。
…つーか、門の前で学内の美男美女が言い争ってたら目立って仕方ねーよ。早く終わらせないと。
「あの…!3人で行きません?もちろん、俺は増田先輩のご馳走になります」
2人は目を合わせ、妥協した感満載で首を縦に振った。
2限目が終わり、食堂へ向かおうとした時、須藤に声をかけられた。
「能勢ー、コンビニに昼飯買いに行こうぜー」
「悪りぃ、増田先輩と約束してて」
「え、お前もしかしてほんとに増田先輩に乗り換えたの?」
「ちげーよ。柚原さんも一緒だから」
「へぇー、俺の元カノはモテモテですなぁ」
「モテてはねーけど困ってんだよ。須藤助けて」
「やだよ、あの2人同時に敵に回すとか怖ぇもん」
…そりゃそうか。
「じゃあ、行ってくるわ」
「はいよー」
食堂の入り口で増田先輩と会い、先に中へ入った。
「先に席取っておいてもらってもいい?私、注文してくるから。カツカレーセットでいいんだよね?」
「はい、よろしくお願いします」
席を確保したタイミングで、柚原さんがやって来た。増田先輩といい、柚原さんといい、学内の有名人が現れるだけで食堂内は軽く騒つく。
「お疲れー。増田先輩は?」
「お疲れ様です。先に注文しに行きました」
「そっか。俺も買ってくるー」
「はーい」
今さらだけど、去年の学園祭のコンテストグランプリのうち3人が同じテーブルに揃ってんの凄くね?ここにたかみーさんがいれば奇跡のショットだったな。
「あおちゃん?」
振り向くと高見さんがいた。
「たかみーさん!え、やば!!」
頭ん中で考えてたことが現実になり、1人でテンションが上がる。
「1人?」
「いえ、柚原さんたちと一緒です。たかみーさんは…」
「薫さん、お待たせしました」
平賀が現れ、俺に気づくと「能勢何してんの。須藤寂しがってたよ」と言ってきた。
「葵ちゃん、お待たせー。あれ、平賀さんじゃん」
結局、居合わせた5人で食べることになった。
「え、待って。もしかして学園のミスコン、ミスターコン、男装、女装のグランプリが揃ってる!?」
ーさすが平賀。
「4人の写真撮っていいですか!?」
平賀にスマホを向けられ、とりあえずピースをして写った。
「平賀さん、今の写真葵ちゃんに送っておいてくれる?後で俺にも送ってもらうから」
「了解です!」
「能勢くん、私にも送ってね」
「はい」
「そういえば、学園祭のコンテストでグランプリ取ったら、もう出場できないんですよね?」
平賀が全員に対して尋ねた。
「そうだったはずよ」
「じゃあ、連覇とか無理なんですね」
「じゃあ今年は、あおちゃんの可愛い女装が見てもらえないのかぁ。残念だね」
「出れなくて一安心っすよ」
「今年は1年の子を出させようと思って!能勢ほどではないですけど、女装似合いそうな子がいるんですよ」
「へぇ、それは楽しみだね」
「あ!能勢、今度久々に女装してみない?サークルの日に1年をびっくりさせようよ」
「はぁ!?やに決まってんだろ」
「えー、このドッキリ絶対盛り上がると思うんだけど。柚原先輩も見たいですよね!?」
残念だったな。柚原さんは俺の女装はもう満足してんだよ。見なくていいんだよ。
「するなら俺が行ける日にしてほしいなぁ」
…見たいんかーいっ!!
「ほら、愛しの彼氏さんがこう言ってるわけだし、それに須藤も喜ぶと思うよ」
「何でここで須藤が出てくんだよ」
「え、だって須藤の待受あのままなんだよ?そんだけ能勢の女装姿好きなのかと」
「…。」
平賀と講義室に戻ると、後ろの席で須藤がスマホをいじっていた。
「おい、須藤。ちょいスマホよこせ」
「は?なんだよいきなり」
「いいから貸せって」
半ば強引に奪い、待受を確認すると女装姿の俺とのツーショットのままだった。
「何でまだこの写真なんだよ」
「変えるの面倒でそのままなだけー」
「そんな須藤に朗報!元カノ葵ちゃんと新しい写真撮れるチャンスがあるのよ!」
「え、なになに」
ーあぁ、悪巧みが実行されるな…。

