ライブから数日。中庭で須藤たちと昼飯を食べた後、1人で大学内のコンビニに寄った。
「能勢くん」
グミコーナーの前で、増田先輩に声をかけられた。
「お疲れ様でーす」
「それ買うの?」
俺が手にしているグミを見ながら増田先輩は訊ねる。
「はい」と答えると、グミをひょいっと取られ、増田先輩はそのまま自分の買う物と一緒にレジへ行き、支払いを済ませた。
「えっ!?いやいや、何でですか!!」
「ついでだから」
「買ってもらう理由ないですって」
コンビニを出ながら小銭を渡そうとしたが、受け取ってもらえなかった。
「グミぐらい買わせて」
多分これ以上やりとりしても無意味だ。
「…ありがとうございます」
「いえいえ。あ、能勢くん今度の土曜日予定ある?」
「えっとぉ、その日は…」
ぐいっ…突然後ろから現れた柚原さんが肩に腕を回してきた。
「増田せーんぱいっ。葵ちゃんは、その日俺とデートなんで」
「どこ行くの?」
「映画です」
「偶然ね、私も映画に誘おうと思ってたの」
「残念ですけど、他の人誘って観に行ってくださーい」
ニコッと笑い、牽制するような柚原さんに対し
「一緒に観に行けばいいんじゃない?」
と増田先輩もニコッと笑みを浮かべた。
え、なんでこの2人こんなバチバチしてんの!?
夕方の体育館では、みんなでバドミントンを楽しんでいた。
「能勢って万人受けするんだね」
隅の方で頭を抱える俺の隣で、水森は冷静にコメントをする。
「そんな呑気なこと言ってる場合じゃねんだって!おかくしね!?柚原さんと増田先輩と俺で映画行くって、どんな状況だよ!」
「大学ツートップの美男美女に取り合いされるなんて、人生最大のモテ期だよ。思う存分楽しんだら?」
「いやいや、楽しむも何も俺は柚原さんと付き合ってんだから、取り合うとか意味分かんねぇ。つーか、増田先輩が俺のこと好きなわけねーじゃん!」
「…能勢、よく聞いて」
いつも以上に落ち着いた声のトーンになった水森は、重要なことを言い出しそうで、なんか怖い。
「…はい」
「増田先輩からすれば、能勢は男も女もどちらもいける人になってしまっているの。というより、本来は女が好きなんでしょ?って思ってるはず。普通の女なら柚原先輩相手に弱気になるけど、増田先輩はミスコングランプリの才色兼備よ?柚原さんと唯一戦える人なの。たとえ、付き合っていようが奪える自信があるのよ。だから、付き合ってるからって油断してたら…食われるよ」
ズバッと言われ、びびってしまう。
ーえ、俺食われそうなの?
土曜日の午前中、映画館はファミリー層が多かった。今日は約束通り柚原さん、増田先輩、俺の3人で映画を観る。
「席どの辺がいい?」
「前過ぎるのは嫌っすね」
「この辺りでいいんじゃない?」
自動券売機の前で、美男美女に挟まれながらチケットを購入した。
「葵ちゃん、ポップコーンの味キャラメルでいいよね?」
「あ、はい。増田先輩、チュロスとかいります?」
「食べたいけど、ここの長いから食べ切れるかしら…」
「じゃあ、俺と半分こします?」
「え、いいの?」
「もちろん!好きな味選んでください」
「ありがとう」
ポップコーンや飲み物を持ち、シアタールームに入った。座席に近づいた時、柚原さんと増田先輩の意見が割れた。
「能勢くんが真ん中でいいよね?」
「俺が真ん中に座るんで大丈夫です」
「だったら私が真ん中にいくわ」
いつもは大人な2人が、なぜ座る位置でこんなに揉めるんだ…。
「俺、真ん中でいいっすよ…」
映画を見終わり、シアタールームから出たタイミングで柚原さんがトイレに行ったので、一旦入り口付近で増田先輩と待つことにした。
「面白かったね」
「ですね!最後めちゃくちゃ盛り上がって興奮しました」
「ふふ、一緒に観れて良かった。…そういえば前から気になってだんだけど…能勢くんは、昔から男が好きなの?」
「え?…いえ…」
「そうだよね。元々は女の子が好きなんだよね?」
…あれ、これ…水森が言ってたやつ?
「そう…ですね…。うーん、でも今は好きになった人が好き的な?」
男とか関係なしに柚原さんが好きだし。
「じゃあ、私にもチャンスあるのね」
「え…」
俺を見る増田先輩の瞳は相変わらず綺麗で、ドラマの台詞かと勘違いしてしまいそうになる。…つーか、これって遠回しに告白されてたりする?ミスコン相手にそんな勘違いアウトかな。
「お待たせー」
柚原さんが戻ってきて、それ以上は何も言われなかった。
「この後どうする?」
「増田先輩、映画は譲ったんですからここからは葵ちゃんと2人にしてくださいよ」
「…嫌よ。柚原くんは能勢くんといつでもゆっくり会えるでしょ?私は一緒に出かけるの初めてなんだから、むしろ私と2人にしてほしいぐらい」
ここまで柚原さんに言えるのは、nextのメンバーか増田先輩ぐらいだろう。
「葵ちゃんは、どうしたい?」
柚原さんはそう言いながら、自分を選べと目で訴えてくる。
「俺は…3人で昼飯に行けたら…はい…」
「もぉ、葵ちゃんは優しいんだから」
「気遣わせてごめんね、能勢くん」
「いえ。じゃあ、行きましょう」
今日のサークルは、バレーの日。得点係を1年に任せて、俺と水森は壁際で試合を見ている。
「どうだった?3人での映画は」
「映画自体は楽しかった。けど、何か決めるたびに2人が対立すんのを止めるのが大変だった」
「あはは、柚原先輩と増田先輩がライバルなの面白いね。ずっと3人で行動したの?」
「うん。映画観て、昼飯食って、本屋寄って帰った感じ」
「そっか。じゃあ、告白されたりするタイミングはなかったのね」
「…。」
「あれ、もしかして増田先輩に何か言われた?」
「…私にもチャンスあるのねって…」
「ほらー!だから言ったでしょ?食われるのも時間の問題ね」
「だからー、俺は柚原さん一筋だし、何されても揺らがねーから食われないって!」
「はいはい。まぁ、隙を作らず、告白のチャンスを与えないことだね。ファイト!」
「…。」
ー俺、隙あんのかな…。
サークル後は、みんなでファミレスに寄った。4テーブルに分かれ座り、メニューを選んでいる時だ。
「こんばんはぁ」
聞き慣れた声が聞こえた。
「えぇ!?」
1年の女子が驚きの声をあげて、現れた人物たちに興奮している。
「柚原と乙倉じゃん」
「お疲れ様です!みんなでご飯ですか?」
「うん」
「良かったらご一緒してもいいですか?」
柚原さんに聞かれた部長がみんなの顔を見ると、女子たちは激しく頷いた。
「うん、好きな席座って」
「ありがとうございまーす」
「お邪魔しまぁす」
柚原さんはもちろん俺の隣に来た。乙倉さんは平賀と水森のいる席へ。
俺と須藤の前に座る1年の男子2人は、突然のことに固まっている。その様子を察して、須藤が説明をした。
「nextのメンバーは、たまにサークルに参加しに来てくれるんだよ。ついでを言えば…柚原さんは能勢の彼氏」
「いつも葵ちゃんがお世話になってまーす」
俺の肩に頭を置きながら言われ、人前だとさすがに恥ずかしくなる。
「…そういう挨拶いらないですって」
「えぇー」
「…何食べますか?」
隣のテーブルでは、1年の女子が目の前の乙倉さんに興奮を隠せていない。こう見ると平賀たちは、だいぶnextに慣れたんだなと思った。
「初めて見るけど1年生?」
「あ、そうです」
「英語学科3年の乙倉です!nextってバンドでベースしてるから、またライブとか見に来てよ」
早速乙倉さんのコミュ力が爆発している。
「楓ちゃん、何頼んだの?」
「いえ、これから決めます」
「もし2択で迷ったら言って、俺がもう片方頼むから」
ーなんか今の乙倉さん…
「葵ちゃん」
「あ、はい」
「どうかした?」
「いえ、何も」
あっという間に2時間が過ぎ、ファミレス前で解散をした。
「能勢、電車で一緒に帰る?それとも柚原さんと?」
「あー…」
特に今日は約束してねぇしなぁ。
乙倉さんや先輩たちと話す柚原さんを見ると手が合った。そのまま俺の方へ来た柚原さん。
「…葵ちゃん、帰ろっか」
…やば、なんか今のときめいた。
「…はい。…じゃあ、須藤また明日な」
「おん、お疲れ」
手を繋ぎ、柚原さん家へ向かう。
「今日会えると思ってなかったから嬉しいなぁ」
「すげーびっくりしましたよ」
「最初は声掛けようか迷ったんだけど、やっぱり葵ちゃんいたらスルーできないでしょ」
「全然スルーしてくれていいんすよ」
「無理無理ー。それにさ、なんか葵ちゃんの前にいた男の子、かっこよくて心配だったから」
「俺の前…あ、清水ですか?たしかに顔整っててますけど、柚原さんには敵わないっすよ」
「あはっ、ありがとう。…今日、泊まってく?」
小さく頷き、繋いでいる手を強く握った。
抱かれた日から柚原さん家に泊まるのは少し緊張してしまう。
次の日は、柚原さんは午後から授業だったため、俺を玄関で見送ってくれていた。
「なんかこーゆーの良いね」
「え?」
「一緒の家に帰ったり、行ってらっしゃいって見送ったり」
「そうっすね。…お邪魔しました。行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい。…ちゅ」
行ってらっしゃいのキスをされて、ニヤけながら大学へ向かった。
大学の門を通った時、前を歩く増田先輩に気付いた。
「おはようございます」
「…あ、おはよう。土曜日ありがとね」
「こちらこそありがとうございました」
「…。」
どうしたんだろ、いつもより元気がないというか…ん?なんか顔色悪くね?
次の瞬間、増田先輩の身体がふらっと倒れかけ、ギリギリのタイミングで支えた。
「大丈夫っすか!?」
「あ…うん」
「全然大丈夫じゃないじゃん。歩けます?医務室行きましょう」
身体を支えていてもふらつきそうで、早く連れて行かなきゃと思った俺は増田先輩をお姫様抱っこし、医務室に急いだ。
「能勢くん」
グミコーナーの前で、増田先輩に声をかけられた。
「お疲れ様でーす」
「それ買うの?」
俺が手にしているグミを見ながら増田先輩は訊ねる。
「はい」と答えると、グミをひょいっと取られ、増田先輩はそのまま自分の買う物と一緒にレジへ行き、支払いを済ませた。
「えっ!?いやいや、何でですか!!」
「ついでだから」
「買ってもらう理由ないですって」
コンビニを出ながら小銭を渡そうとしたが、受け取ってもらえなかった。
「グミぐらい買わせて」
多分これ以上やりとりしても無意味だ。
「…ありがとうございます」
「いえいえ。あ、能勢くん今度の土曜日予定ある?」
「えっとぉ、その日は…」
ぐいっ…突然後ろから現れた柚原さんが肩に腕を回してきた。
「増田せーんぱいっ。葵ちゃんは、その日俺とデートなんで」
「どこ行くの?」
「映画です」
「偶然ね、私も映画に誘おうと思ってたの」
「残念ですけど、他の人誘って観に行ってくださーい」
ニコッと笑い、牽制するような柚原さんに対し
「一緒に観に行けばいいんじゃない?」
と増田先輩もニコッと笑みを浮かべた。
え、なんでこの2人こんなバチバチしてんの!?
夕方の体育館では、みんなでバドミントンを楽しんでいた。
「能勢って万人受けするんだね」
隅の方で頭を抱える俺の隣で、水森は冷静にコメントをする。
「そんな呑気なこと言ってる場合じゃねんだって!おかくしね!?柚原さんと増田先輩と俺で映画行くって、どんな状況だよ!」
「大学ツートップの美男美女に取り合いされるなんて、人生最大のモテ期だよ。思う存分楽しんだら?」
「いやいや、楽しむも何も俺は柚原さんと付き合ってんだから、取り合うとか意味分かんねぇ。つーか、増田先輩が俺のこと好きなわけねーじゃん!」
「…能勢、よく聞いて」
いつも以上に落ち着いた声のトーンになった水森は、重要なことを言い出しそうで、なんか怖い。
「…はい」
「増田先輩からすれば、能勢は男も女もどちらもいける人になってしまっているの。というより、本来は女が好きなんでしょ?って思ってるはず。普通の女なら柚原先輩相手に弱気になるけど、増田先輩はミスコングランプリの才色兼備よ?柚原さんと唯一戦える人なの。たとえ、付き合っていようが奪える自信があるのよ。だから、付き合ってるからって油断してたら…食われるよ」
ズバッと言われ、びびってしまう。
ーえ、俺食われそうなの?
土曜日の午前中、映画館はファミリー層が多かった。今日は約束通り柚原さん、増田先輩、俺の3人で映画を観る。
「席どの辺がいい?」
「前過ぎるのは嫌っすね」
「この辺りでいいんじゃない?」
自動券売機の前で、美男美女に挟まれながらチケットを購入した。
「葵ちゃん、ポップコーンの味キャラメルでいいよね?」
「あ、はい。増田先輩、チュロスとかいります?」
「食べたいけど、ここの長いから食べ切れるかしら…」
「じゃあ、俺と半分こします?」
「え、いいの?」
「もちろん!好きな味選んでください」
「ありがとう」
ポップコーンや飲み物を持ち、シアタールームに入った。座席に近づいた時、柚原さんと増田先輩の意見が割れた。
「能勢くんが真ん中でいいよね?」
「俺が真ん中に座るんで大丈夫です」
「だったら私が真ん中にいくわ」
いつもは大人な2人が、なぜ座る位置でこんなに揉めるんだ…。
「俺、真ん中でいいっすよ…」
映画を見終わり、シアタールームから出たタイミングで柚原さんがトイレに行ったので、一旦入り口付近で増田先輩と待つことにした。
「面白かったね」
「ですね!最後めちゃくちゃ盛り上がって興奮しました」
「ふふ、一緒に観れて良かった。…そういえば前から気になってだんだけど…能勢くんは、昔から男が好きなの?」
「え?…いえ…」
「そうだよね。元々は女の子が好きなんだよね?」
…あれ、これ…水森が言ってたやつ?
「そう…ですね…。うーん、でも今は好きになった人が好き的な?」
男とか関係なしに柚原さんが好きだし。
「じゃあ、私にもチャンスあるのね」
「え…」
俺を見る増田先輩の瞳は相変わらず綺麗で、ドラマの台詞かと勘違いしてしまいそうになる。…つーか、これって遠回しに告白されてたりする?ミスコン相手にそんな勘違いアウトかな。
「お待たせー」
柚原さんが戻ってきて、それ以上は何も言われなかった。
「この後どうする?」
「増田先輩、映画は譲ったんですからここからは葵ちゃんと2人にしてくださいよ」
「…嫌よ。柚原くんは能勢くんといつでもゆっくり会えるでしょ?私は一緒に出かけるの初めてなんだから、むしろ私と2人にしてほしいぐらい」
ここまで柚原さんに言えるのは、nextのメンバーか増田先輩ぐらいだろう。
「葵ちゃんは、どうしたい?」
柚原さんはそう言いながら、自分を選べと目で訴えてくる。
「俺は…3人で昼飯に行けたら…はい…」
「もぉ、葵ちゃんは優しいんだから」
「気遣わせてごめんね、能勢くん」
「いえ。じゃあ、行きましょう」
今日のサークルは、バレーの日。得点係を1年に任せて、俺と水森は壁際で試合を見ている。
「どうだった?3人での映画は」
「映画自体は楽しかった。けど、何か決めるたびに2人が対立すんのを止めるのが大変だった」
「あはは、柚原先輩と増田先輩がライバルなの面白いね。ずっと3人で行動したの?」
「うん。映画観て、昼飯食って、本屋寄って帰った感じ」
「そっか。じゃあ、告白されたりするタイミングはなかったのね」
「…。」
「あれ、もしかして増田先輩に何か言われた?」
「…私にもチャンスあるのねって…」
「ほらー!だから言ったでしょ?食われるのも時間の問題ね」
「だからー、俺は柚原さん一筋だし、何されても揺らがねーから食われないって!」
「はいはい。まぁ、隙を作らず、告白のチャンスを与えないことだね。ファイト!」
「…。」
ー俺、隙あんのかな…。
サークル後は、みんなでファミレスに寄った。4テーブルに分かれ座り、メニューを選んでいる時だ。
「こんばんはぁ」
聞き慣れた声が聞こえた。
「えぇ!?」
1年の女子が驚きの声をあげて、現れた人物たちに興奮している。
「柚原と乙倉じゃん」
「お疲れ様です!みんなでご飯ですか?」
「うん」
「良かったらご一緒してもいいですか?」
柚原さんに聞かれた部長がみんなの顔を見ると、女子たちは激しく頷いた。
「うん、好きな席座って」
「ありがとうございまーす」
「お邪魔しまぁす」
柚原さんはもちろん俺の隣に来た。乙倉さんは平賀と水森のいる席へ。
俺と須藤の前に座る1年の男子2人は、突然のことに固まっている。その様子を察して、須藤が説明をした。
「nextのメンバーは、たまにサークルに参加しに来てくれるんだよ。ついでを言えば…柚原さんは能勢の彼氏」
「いつも葵ちゃんがお世話になってまーす」
俺の肩に頭を置きながら言われ、人前だとさすがに恥ずかしくなる。
「…そういう挨拶いらないですって」
「えぇー」
「…何食べますか?」
隣のテーブルでは、1年の女子が目の前の乙倉さんに興奮を隠せていない。こう見ると平賀たちは、だいぶnextに慣れたんだなと思った。
「初めて見るけど1年生?」
「あ、そうです」
「英語学科3年の乙倉です!nextってバンドでベースしてるから、またライブとか見に来てよ」
早速乙倉さんのコミュ力が爆発している。
「楓ちゃん、何頼んだの?」
「いえ、これから決めます」
「もし2択で迷ったら言って、俺がもう片方頼むから」
ーなんか今の乙倉さん…
「葵ちゃん」
「あ、はい」
「どうかした?」
「いえ、何も」
あっという間に2時間が過ぎ、ファミレス前で解散をした。
「能勢、電車で一緒に帰る?それとも柚原さんと?」
「あー…」
特に今日は約束してねぇしなぁ。
乙倉さんや先輩たちと話す柚原さんを見ると手が合った。そのまま俺の方へ来た柚原さん。
「…葵ちゃん、帰ろっか」
…やば、なんか今のときめいた。
「…はい。…じゃあ、須藤また明日な」
「おん、お疲れ」
手を繋ぎ、柚原さん家へ向かう。
「今日会えると思ってなかったから嬉しいなぁ」
「すげーびっくりしましたよ」
「最初は声掛けようか迷ったんだけど、やっぱり葵ちゃんいたらスルーできないでしょ」
「全然スルーしてくれていいんすよ」
「無理無理ー。それにさ、なんか葵ちゃんの前にいた男の子、かっこよくて心配だったから」
「俺の前…あ、清水ですか?たしかに顔整っててますけど、柚原さんには敵わないっすよ」
「あはっ、ありがとう。…今日、泊まってく?」
小さく頷き、繋いでいる手を強く握った。
抱かれた日から柚原さん家に泊まるのは少し緊張してしまう。
次の日は、柚原さんは午後から授業だったため、俺を玄関で見送ってくれていた。
「なんかこーゆーの良いね」
「え?」
「一緒の家に帰ったり、行ってらっしゃいって見送ったり」
「そうっすね。…お邪魔しました。行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい。…ちゅ」
行ってらっしゃいのキスをされて、ニヤけながら大学へ向かった。
大学の門を通った時、前を歩く増田先輩に気付いた。
「おはようございます」
「…あ、おはよう。土曜日ありがとね」
「こちらこそありがとうございました」
「…。」
どうしたんだろ、いつもより元気がないというか…ん?なんか顔色悪くね?
次の瞬間、増田先輩の身体がふらっと倒れかけ、ギリギリのタイミングで支えた。
「大丈夫っすか!?」
「あ…うん」
「全然大丈夫じゃないじゃん。歩けます?医務室行きましょう」
身体を支えていてもふらつきそうで、早く連れて行かなきゃと思った俺は増田先輩をお姫様抱っこし、医務室に急いだ。

