自己紹介が始まった。
「じゃ、まずは俺から。男子側の幹事、榊原でーす。今日、みんな来てくれてありがとー!田中さんも、いろいろ段取りありがとな!よろしく!」
榊原が軽く手を上げると、テーブル全体がほぐれたように笑い声が漏れた。
この場を仕切るのは慣れているらしい。ああいう場を温める力って、天性の才能なんだろうな。
続いて女子側幹事の田中さんが自己紹介し、そのまま男女交互にローテーションへ。
ああ、これ……絶対に逃げられないやつだ……
自己紹介って、聞くときは雑音みたいに流れるのに、自分の番だけなぜか鼓動がスピーカー並みに主張し始める。
今もすでに胸がどくどくしているのがわかる。
頼むから落ち着け、俺の心臓。
で、問題は——こいつだ。
「成瀬柾(なるせ まさき)です。よろしくお願いします」
その瞬間、空気が変わった。
いや、ほんとに変わった。
室温が三度上がったって言われたほうが信じられるレベルだ。
「え、やば……」
「顔ちっさくない?」
「お店に入ってきた時、背高かったよね……?」
「無理……」
女子たちが小声でざわざわし始め、男子は男子で「あぁ……勝てねぇ……」みたいに魂が抜けた表情をしている。
その視線の先には、隣に座るイケメン、成瀬柾。
美形すぎて、ほとんど光学兵器だ。
そして俺は……
完全に比較対象として処刑台に上げられていた。
いや、その……俺だって、今日ちゃんと服にアイロンかけたし……髪も整えたし……清潔感くらいはあるはずなんだけど……?
……とはいえ、隣がこれだと、もう物理的に埋まらない壁ってあるよな……?
柾は、騒ぎに慣れているらしく、少し照れたように目元を柔らかくして軽く会釈した。
あーはいはい、完璧。
もう清潔感の三次元具現化。
男子陣の数名がこっそり俺に視線を送ってくる。
——その視線、なんだ。
「隣が彼だとつらいよな、頑張れ」みたいな、妙に慈愛に満ちたやつ。
わかってるよ……!
引き立て役ポジションなのは……わかってるんだけど……!
せめて心の中でそっと応援してくれ……!
そして、ついに視線の流れが俺のほうへ向かう。
「じゃあ最後、そっちの……」
うわ、来た。
喉がぎゅっと狭くなった。
「……相沢棗(あいざわ なつめ)です。えっと……今日は、その……よろしく、お願いします」
思いのほか声が弱かった。
いや、弱いどころか、か細いの領域だった。
自分で言っててびっくりだ。
女子たちは「あ、うん……」みたいな曖昧な声を返しつつ、もう視線を柾へ戻している。
完全に背景の一般人A扱い。
まあ、そうだよね……!
肩が少し落ちた、その瞬間だった。
「初めまして。相沢くんが隣の席でよかったよ」
隣から落ち着いた低い声がして、思わず顔を上げた。
成瀬柾が、俺に向けて柔らかく笑っていた。
……え?
「初めまして。えっと……よろしく……」
俺がなんとか返事をすると、柾は少し身を乗り出した。
「相沢くんって、榊原とはどういう関係?」
「え?あ、榊原とは……フランス語の授業が一緒で」
「あぁ、あいつと同じ学部なんだ。俺は榊原と英語の授業が一緒で、今日誘われたんだよ」
「そ、そうなんだ……なるほど……」
会話の噛み合い方が妙に自然で、俺はその事実に戸惑ってしまう。
そのやり取りを聞いていた女子たちの視線が、ちらっとこちらへ集まった。
男子側も「お?」みたいな顔でこちらを見る。
いや待て……
なんで成瀬は俺にこんなにフレンドリーに……?
フォローの仕方が上手すぎない?
ていうか、話してみたいと思ってたくらいの空気感じゃないか、これ……
これ、絶対ただの営業スマイルじゃないよな……?
胸の奥が、じんわりとくすぐったくなる。
「よろしくね、相沢くん」
自然体のまま、彼はもう一度笑った。
……いい奴すぎる。
なんかもう、イケメンって性格までイケメンなんだな……
世界って不公平だけど、不公平を忘れさせるくらい彼は優しい。
心の奥で、ふっと温かいものが灯るのを感じた。
「じゃ、まずは俺から。男子側の幹事、榊原でーす。今日、みんな来てくれてありがとー!田中さんも、いろいろ段取りありがとな!よろしく!」
榊原が軽く手を上げると、テーブル全体がほぐれたように笑い声が漏れた。
この場を仕切るのは慣れているらしい。ああいう場を温める力って、天性の才能なんだろうな。
続いて女子側幹事の田中さんが自己紹介し、そのまま男女交互にローテーションへ。
ああ、これ……絶対に逃げられないやつだ……
自己紹介って、聞くときは雑音みたいに流れるのに、自分の番だけなぜか鼓動がスピーカー並みに主張し始める。
今もすでに胸がどくどくしているのがわかる。
頼むから落ち着け、俺の心臓。
で、問題は——こいつだ。
「成瀬柾(なるせ まさき)です。よろしくお願いします」
その瞬間、空気が変わった。
いや、ほんとに変わった。
室温が三度上がったって言われたほうが信じられるレベルだ。
「え、やば……」
「顔ちっさくない?」
「お店に入ってきた時、背高かったよね……?」
「無理……」
女子たちが小声でざわざわし始め、男子は男子で「あぁ……勝てねぇ……」みたいに魂が抜けた表情をしている。
その視線の先には、隣に座るイケメン、成瀬柾。
美形すぎて、ほとんど光学兵器だ。
そして俺は……
完全に比較対象として処刑台に上げられていた。
いや、その……俺だって、今日ちゃんと服にアイロンかけたし……髪も整えたし……清潔感くらいはあるはずなんだけど……?
……とはいえ、隣がこれだと、もう物理的に埋まらない壁ってあるよな……?
柾は、騒ぎに慣れているらしく、少し照れたように目元を柔らかくして軽く会釈した。
あーはいはい、完璧。
もう清潔感の三次元具現化。
男子陣の数名がこっそり俺に視線を送ってくる。
——その視線、なんだ。
「隣が彼だとつらいよな、頑張れ」みたいな、妙に慈愛に満ちたやつ。
わかってるよ……!
引き立て役ポジションなのは……わかってるんだけど……!
せめて心の中でそっと応援してくれ……!
そして、ついに視線の流れが俺のほうへ向かう。
「じゃあ最後、そっちの……」
うわ、来た。
喉がぎゅっと狭くなった。
「……相沢棗(あいざわ なつめ)です。えっと……今日は、その……よろしく、お願いします」
思いのほか声が弱かった。
いや、弱いどころか、か細いの領域だった。
自分で言っててびっくりだ。
女子たちは「あ、うん……」みたいな曖昧な声を返しつつ、もう視線を柾へ戻している。
完全に背景の一般人A扱い。
まあ、そうだよね……!
肩が少し落ちた、その瞬間だった。
「初めまして。相沢くんが隣の席でよかったよ」
隣から落ち着いた低い声がして、思わず顔を上げた。
成瀬柾が、俺に向けて柔らかく笑っていた。
……え?
「初めまして。えっと……よろしく……」
俺がなんとか返事をすると、柾は少し身を乗り出した。
「相沢くんって、榊原とはどういう関係?」
「え?あ、榊原とは……フランス語の授業が一緒で」
「あぁ、あいつと同じ学部なんだ。俺は榊原と英語の授業が一緒で、今日誘われたんだよ」
「そ、そうなんだ……なるほど……」
会話の噛み合い方が妙に自然で、俺はその事実に戸惑ってしまう。
そのやり取りを聞いていた女子たちの視線が、ちらっとこちらへ集まった。
男子側も「お?」みたいな顔でこちらを見る。
いや待て……
なんで成瀬は俺にこんなにフレンドリーに……?
フォローの仕方が上手すぎない?
ていうか、話してみたいと思ってたくらいの空気感じゃないか、これ……
これ、絶対ただの営業スマイルじゃないよな……?
胸の奥が、じんわりとくすぐったくなる。
「よろしくね、相沢くん」
自然体のまま、彼はもう一度笑った。
……いい奴すぎる。
なんかもう、イケメンって性格までイケメンなんだな……
世界って不公平だけど、不公平を忘れさせるくらい彼は優しい。
心の奥で、ふっと温かいものが灯るのを感じた。



