待ち合わせ時間ぴったり。
むしろ、一分だけ早いくらいのつもりで店のドアを押した。

……が、入った瞬間、俺は固まった。

全員、もう座ってるじゃん。

「ご、ごめん遅れた!?」

反射で言ったものの、時間はちゃんと守ってる。
でも、みんなの穏やかな笑顔が逆に俺を追い詰めてくる。

慌てて靴音を殺しながら席に向かうと、テーブルの端にポツンと一席だけ空いていた。
まるで「はい、あなたはここね」と神が指定したかのように、ぽっかり。
ありがたいけど、なんでここだけ空いてるんだよ。
いや、この残され感どう考えても嫌な予兆でしかない。

俺は内心でツッコミながら腰を下ろした。

で、隣を見る。

……知らないイケメンがいた。

イケメン?いやいや、そんな軽い言葉じゃ失礼かもしれない。
完成度が高すぎる彫刻とでも言うべきだ。
整い方のバランスが絶妙すぎて、もはや人間離れしている。

前髪の影から覗く目は涼しげで、ひと睨みされたらたぶん心臓2秒で停止する。
着ている服はシンプルだが、それでいて上品。
しかも、風が揺れるたびに微かに漂うシトラスの香り。
絶妙に控えめなのに存在感だけは残していくタイプの香りだ。

え、誰……?
てか、こんな戦闘力の男を合コンに投入するの、ルール違反じゃね?

女子陣は、というと。
うん、例外なく全員そいつを見ていた。

見ている、なんて柔らかい言葉じゃ足りない。
見つめてるし、吸い寄せられてるし、むしろ祈りのレベルで視線を捧げている。

一人くらい俺を見てくれてもよくない……?

いや、知ってる。
俺が間違ってるわけじゃない。
世界が彼基準になってるだけだ。

「よろしくねー」

対面の女子が愛想よく声をかけてくれる。

――が、だ。
視線のほぼすべてが隣のイケメンに吸われてる。
俺へ向けているのは、会話の最低限の礼儀だけ。
目がまったく笑ってない。

これ……俺、引き立て役?

自分で思った瞬間、胸がキュッと痛んだ。
でも同時に妙に納得もした。

開始3秒で悟った。

この席順、終わってる。
いや、俺の恋愛運が終わってる。

イケメンの横に置かれた俺なんて、比較対象として舞台に上げられたモブそのもの。
公開処刑のステージ。
照明さえあれば「どうぞご覧ください、これが差です」って紹介されるやつ。

ここで彼女ができる未来?
ない。
幻より薄い。
蜃気楼でもまだ輪郭あるわ。

「……詰んだな」

小声でぼそっと呟く。

その瞬間、隣のイケメンがちらりとこちらを見た。

え、まって、その横顔すら良いの?
鼻筋のラインとか、目元の影とか、仕上がり完璧かよ。
思わず「は?」と声が漏れそうになった。
危ない危ない。

誰だよこの男。
なんで合コンにこんな戦力が紛れ込んでるんだ。
仕組んだ?偶然?どっちにしろ俺に勝ち筋はない。

「緊張してるの?」

隣のイケメンが、不意に話しかけてきた。

低くて落ち着いた声。
鼓膜くすぐってくる系の声音だ。

「え、あ、いや……そんな、緊張っていうか……」

何この動揺。俺、普段はもう少しまともに喋れるはずなんだけど。

「人多いと疲れるよね」

「うん……まあ……」

「俺もだけど」

いや説得力ないんだが!?
そんな社交スキル最強みたいな顔面でよく言えたな!?