「相沢、助けてくれ!今日の夜、空いてるよな?」
教室から出ようとしたところで肩をつかまれ、俺はビクッとして振り返った。
勢いありすぎだろ……と心の中で文句を言いつつ、顔を上げれば案の定その呼び止めた本人がいた。
「……榊原?」
榊原——フランス語のクラスメイト。
席が近いわけでも、特別に絡む理由があったわけでもない。たまに目が合えば会釈しあう程度。
だからこそ、彼の突然の呼び止めは、まるで火災報知器でも鳴ったかのように俺の心拍を跳ねさせた。
「空いてるよな!?な?空いてるって言ってくれ!」
「え、あ、空いては……いるけど……?」
俺が答えると同時に、榊原はパアッと表情を輝かせた。
「よしっ!!!じゃあ来てくれ!合コン!!」
「……合コン?」
口に出した瞬間、自分で聞き返すほど衝撃があった。
合コン。
あの合コン。
大学生の代名詞みたいな、リア充イベントのトップバッターみたいな、あの……。
「人数足りなくてさ!マジで助かる!」
「え、いや、その……なんで俺?」
つい本音が漏れてしまう。
ほとんど話したことないだろ、と。
友達でもないし、相談するにしたってずいぶん段階を飛ばしてる気がする。
でも榊原は、そんな俺の疑問など軽やかにスルーして、ひたすら迫ってくる。
「頼む!今夜七時!!」
急すぎるだろ。
せめて前日とか、せめて朝とか、あるだろ段取りってものが……。
頭のどこかで、警報みたいな音が鳴った。
——合コン?
——いやいや無理無理、僕にそんな社交スキル……。
——ていうかなんで俺!?他にいるだろもっと話しやすい奴とか!
心の声は派手に騒いでいるのに、口は妙に従順だった。
「……合コンって、本当に今日の夜?」
「そう!急で悪い!でも頼む、マジで頼む!」
榊原は両手を合わせて深く頭を下げる。
そこまでされると、断る方が悪者みたいな空気になってしまう。
いや、しかし。
俺だって勇気が必要なんだ。
……だって、俺は——
人生で一度も彼女ができたことがない。
ああ、思っただけで、胸が痛い。
でも事実なんだから仕方がない。
高校も男子が多くて、別に恋愛に飢えていたわけじゃないけれど、「彼女ができる未来」というものに現実味がなかった。
大学生になれば自然とできる——
そう思っていたはずなのに、全く気配がないまま、気づけばもう大学に入学して一か月が過ぎていた。
だから、「合コン」という単語は魅惑の効果音みたいに胸をくすぐる。
もしかしたら。
本当に、もしかしたらだけど。
今日が、その日になる可能性だって……ゼロじゃない。
「……わかった、行くよ」
自分でも驚くほど静かな声だった。
でも榊原には天の声に聞こえたらしい。
「神!!相沢はマジで救いの神!!」
その喜びようは大げさというより、もはや芝居がかっている。
頼まれた側の俺が引いてしまうくらいだ。
「そんなに?」
「そんなに!むしろもっと!!」
テンションの振り切れた榊原を見ながら、俺はこっそりため息を吐いた。
不安の方がずっと大きい。
初対面の女子と盛り上がる自信なんて皆無だし、そもそも何を話せばいいんだ。
でも、胸のどこかが少しだけ浮き立っているのも否定できなかった。
——初めての合コンで、人生初の彼女が……?
そんな都合のいい話、あるわけない。
いや、でも、もしかしたら……?
いやいやいや、落ち着け俺。
思考が空回りしているのを自覚しつつ、スマホを取り出し、カレンダーの該当時間にそっと文字を打ち込む。
《合コン》
と。
教室から出ようとしたところで肩をつかまれ、俺はビクッとして振り返った。
勢いありすぎだろ……と心の中で文句を言いつつ、顔を上げれば案の定その呼び止めた本人がいた。
「……榊原?」
榊原——フランス語のクラスメイト。
席が近いわけでも、特別に絡む理由があったわけでもない。たまに目が合えば会釈しあう程度。
だからこそ、彼の突然の呼び止めは、まるで火災報知器でも鳴ったかのように俺の心拍を跳ねさせた。
「空いてるよな!?な?空いてるって言ってくれ!」
「え、あ、空いては……いるけど……?」
俺が答えると同時に、榊原はパアッと表情を輝かせた。
「よしっ!!!じゃあ来てくれ!合コン!!」
「……合コン?」
口に出した瞬間、自分で聞き返すほど衝撃があった。
合コン。
あの合コン。
大学生の代名詞みたいな、リア充イベントのトップバッターみたいな、あの……。
「人数足りなくてさ!マジで助かる!」
「え、いや、その……なんで俺?」
つい本音が漏れてしまう。
ほとんど話したことないだろ、と。
友達でもないし、相談するにしたってずいぶん段階を飛ばしてる気がする。
でも榊原は、そんな俺の疑問など軽やかにスルーして、ひたすら迫ってくる。
「頼む!今夜七時!!」
急すぎるだろ。
せめて前日とか、せめて朝とか、あるだろ段取りってものが……。
頭のどこかで、警報みたいな音が鳴った。
——合コン?
——いやいや無理無理、僕にそんな社交スキル……。
——ていうかなんで俺!?他にいるだろもっと話しやすい奴とか!
心の声は派手に騒いでいるのに、口は妙に従順だった。
「……合コンって、本当に今日の夜?」
「そう!急で悪い!でも頼む、マジで頼む!」
榊原は両手を合わせて深く頭を下げる。
そこまでされると、断る方が悪者みたいな空気になってしまう。
いや、しかし。
俺だって勇気が必要なんだ。
……だって、俺は——
人生で一度も彼女ができたことがない。
ああ、思っただけで、胸が痛い。
でも事実なんだから仕方がない。
高校も男子が多くて、別に恋愛に飢えていたわけじゃないけれど、「彼女ができる未来」というものに現実味がなかった。
大学生になれば自然とできる——
そう思っていたはずなのに、全く気配がないまま、気づけばもう大学に入学して一か月が過ぎていた。
だから、「合コン」という単語は魅惑の効果音みたいに胸をくすぐる。
もしかしたら。
本当に、もしかしたらだけど。
今日が、その日になる可能性だって……ゼロじゃない。
「……わかった、行くよ」
自分でも驚くほど静かな声だった。
でも榊原には天の声に聞こえたらしい。
「神!!相沢はマジで救いの神!!」
その喜びようは大げさというより、もはや芝居がかっている。
頼まれた側の俺が引いてしまうくらいだ。
「そんなに?」
「そんなに!むしろもっと!!」
テンションの振り切れた榊原を見ながら、俺はこっそりため息を吐いた。
不安の方がずっと大きい。
初対面の女子と盛り上がる自信なんて皆無だし、そもそも何を話せばいいんだ。
でも、胸のどこかが少しだけ浮き立っているのも否定できなかった。
——初めての合コンで、人生初の彼女が……?
そんな都合のいい話、あるわけない。
いや、でも、もしかしたら……?
いやいやいや、落ち着け俺。
思考が空回りしているのを自覚しつつ、スマホを取り出し、カレンダーの該当時間にそっと文字を打ち込む。
《合コン》
と。



