桜火ノ花ユら

〈 プロフィール 〉

❀桜火高校1年生 ゐすゞ
❀血液型 О型
❀性格 可愛らしい

メープルの木立の舞う街を
クリスマスのイルミネーションが輝く。

…ヨーロッパのフランスの
街並みみたいな小さな都に、

石造りでできた可愛いお家がある。

フリルのついたレースの飾る
窓際に天蓋付きの花柄のベッドの

横に毛糸で編んだ丸椅子を
おいて、パンプキンポタージュを

入れたら、ゆっくりベッドに座る。

「…おいしい。」

…パンプキンポタージュの甘くて
香ばしい匂いがする…。

(…明日は、修学旅行だな。)

学校鞄に教科を詰めず、
バーガンディのキャリーオンに

黒いワンピースにグレーとパープルの
花柄のカーディガンに藍色のタイツと

黄色のパンプスを入れる。

(…楽しみ。)

…布団をかけて、

…ふわふわのベッドに入って、
ゆっくり眠りにつく。

…ラベンダーの香りのする匂い袋を
隣において、静かに眠りについた…。

……                     ……
 …                     …

…由良ゆら。…由良ゆら。

…由良ゆら。…由良ゆら。


…桜の花が舞い散る…。

…あノ世とこノ世の…咲貝(さかい)。

…幽花界。

…そう。呼ばれる場所に、

…桜火ノ花ユら乃野は、あっタ…。

……❀❀❀……

由良ゆら舞う桜花ノ野に
春風が散って、妖使ゐの花守の

竜ユ火が花を守りゆく。

「…また、timewarphallが壊れてる…。」

桜火ノ花ユら乃野から宮中に
帰ってきた竜ユ火が

とってきた山になったアケビの
裂け目をみて、言った。

アケビの裂け目から
真珠が溢れ出ている。

竜ユ火のお使いをしている
妖狐のシロちゃんが言った。

「…真珠をとったら、
空洞になってるぞ…。」

穴から吸い込むような邪気がしている。

ふいごになった空洞は
押しては引いて、押しては引いてする

風の音が遠くから聞こえてくる。

「……。」

空洞になったアケビに
耳をつけては、シロちゃんが欠伸をする。

「…最近は、影矢が不穏な
動きをしているって言うな。」

「…そうらしいな。」

アケビの黒い渦の巻く空洞を
呪いをかけて一つ閉めると、

小さな貝に変えて貝袋に入れた。

「…一つ、閉めた。」

こノ世とあノ世の咲貝の
守り人をする花守の竜ユ火が

アケビの黒い渦の空洞の
timesliphallの修復をして、

幽花界を閉める役割をしている。

シロちゃんがもっともらしく言う。

「…アケビが身代わりしてるの。」

春の桜花の舞うこの頃、
花蜻蛉の飛び交う野で

花を守りゆく
竜ユ火がこの夢の実を食べた。

……❀❀❀……

…あノ世とこノ世の波ノ端。

…桜木の下で眠る…ゐすゞ。

…桜野ヲかけてユく、竜ユ火。

…花ノ幽界。
…幽花界には妖や木霊、もののケの類がいる。

…カラン。…コロン。

…腰もとについタ 御守りノ花赤鈴…

…揺れる 花衣。

…花袖の舞う花畑の野ヲ…
…かけてユく、彼ノ者は

…桜火ノ花ユら乃野ヲ、ゆく…。


……❀❀❀……


…ゆっくり眠りについて、
ゐすゞが平安時代にtimeslipする…。

常磐に咲く…桜の花が舞う。

…由良ゆら。…由良ゆら。

…由良ゆら。…由良ゆら。

……                      ……
 …                      …

春の夕暮れの
おぼろ月の傾く頃に

桜の花畑が一面に広がる野で
ゐすゞが一人立っている。

(…綺麗。)

その花野に一人の男の人がいた。

(…誰そ彼れは…。)

ふと、目が合う。

夕暮れの日が影を落として
斜めに柔らかい光が差し込む。

ひらひら舞う桜花の野に
…ずっと待ちぼうけする…

…桜紅の薄様を着た
平安時代の姫君がみえる…

(…あれは、過去世…?)

彼女は、

腰まであるふわふわのパーマヘアに
くりっと大きなグリーンダイヤモンドを

はめたような愛碧瞳だった…。

(…同じ顔。)

(…同じ声。)

…出会ったもう
一人の同じ姿の自分がいて、

…心のなかで、少しびっくりした。

(…何してるんだろ。)

何やら先ほどの男の人と
話をしている。

…話からして、恋人のようだった…。

…男の人は竜ユ火と呼ばれていて、
この土地を守る花守をしていた。

…凛々しい横顔に、野をよくかけていて、
引き締まった体が、ゐすゞの心ノ臓を打った。

(…格好良い。)

ついつい目で追いかけてしまう。

…はた、と目が合って、
頬が桃色に染まり、言葉に詰まる。

(…どうしよう?!)

「…あの娘は?」

…竜ユ火が聞く。

「…さぁ。子狐なんじゃないの。」

妖狐のシロちゃんがドロン!と
現れて、嫌そうに言う。

「…人だ。」

「…人、臭い。」

肌に纏わりつく桜木の冷気を
張り付かせて、毛を震わせるとそう言った。

「…私、桜火高校1年のゐすゞです!」

藍色のリボンをかけた
ブレザーの制服を着たまま、

ゐすゞが言う。

「…ゐすゞ、ちこうよれ。」

その姫君はゐすゞの手をとって、
まじまじとその目をみた。

(…お香の匂いのする綺麗な白い手…。)

ゐすゞはふわっとしたパーマヘアに
大きな黒い瞳をしていた。

控えめでなんとも地味だった。

(…恥ずかしい。)

なでなでと頭を撫でてくれる
その姫君は優しい手をしていた。

「…私の名は、紫二上ノ君…。」

「…紫二上ノ君…。」

…ゐすゞが呟いた。

「…そうだ!私、迷子になっちゃって!」

「…ここって、どこですか?!」

「…東京?!」

誰そ彼れのなか桜花が由良ゆら舞い散る。

「…ここは、桜火ノ花ユら乃野…。」

「…刻と刻の境を司る、幽花界。」

…切なそうに紫二上ノ君が言うと、
一言おいて続けた。

「…ここに来るものは、人の世に戻れない。」

妖狐のシロちゃんを突いては、
前足で顎をかくのを横目でみる。

(…うそ!どうしよう?!)

(…帰れない?!)

…胸がドキドキと高鳴る。

「…ここは守り人。」

「…精霊の住まう地。」

ざぁっと桜花の花が妖艶に揺らめいて、
千の桜の花が千の火ノゆらに変わる。

木々がざわめき、
妖たちが口々に囁きあっている。

「…ゐすゞ殿、この花鏡をみたれよ。」

紫二上ノ君が花鏡を両手で上に掲げて
そう一声話しかけた。

「…おぬしが、わらわじゃ。」

…桜の花が舞い散る。

夕宵の風が吹いて、妖たちが
影を追いかけっこする。

…花鏡が夕日にきらりと輝いて、
ゐすゞと紫二上ノ君の魂が入れ変わる。

「…えっ?!」

(…鏡のなかに閉じ込められたっ?!)

(…どうしようっ?!)

魂が入れ変わって、紫二上ノ君が
ゐすゞになって、ゐすゞが紫二上ノ君になっていた。

…本物のゐすゞがいなくなって、
花鏡のなかに閉じ込められたみたい…。

「…この花鏡は私がもらい受ける。」

紫二上ノ君の手から花守の
竜ユ火が花鏡を受け取った。

(…どこかに移動するのかな?)

(…竜ユ火って人のところに行ったみたい。)

花鏡のなかは桜火ノ花ユら乃野が
広がっていて、儚くて淡く美しかった…。

(…眠い…。)

焦りと戸惑いのなか、ゐすゞは
桜野でうずくまって、長い眠りについた。

…一方で、

紫二上ノ君「…ちょっと!ちょっと!!」

紫二上ノ君「…ど‐ゆうことよ!これ!!!」

ゐすゞ「…あまり暴れますな。」

ゐすゞがパンパンと制服のスカートをはたく。

妖狐のシロちゃんが花鏡を覗き込む。

「…眠ってる。」

…花鏡のなかで本物のゐすゞが
花畑でうずくまって眠っていた…。

…夢をみる…

❀❀❀

〈 …永遠に常世まで続く…桜ノ花乃野

…見渡す限り辺り一面に
   …広がる、白い桜の花畑…

…まみゆる そなたヲ…
   …かけてユく…花ノ野ヲ…

  …火ノ花ユら…乃野

…桜火ノ花ユら乃野ヲ、ゆく…。

 …深い…ふかい…

…眠りにまかせて、
  …まみゆ…

  ‐…そなたヲ…‐

…花衣の…甘い香ノかほり…

…ひっクり返っタ…

 …な涙みタ色の…夕日…

…ユく。とけて、

…消えてしまいそうな…

…ユく。…花ノ火の由良。


…あなたの手を、ひいて…

…あなたの名を、呼んで…


…小さな天ノ祠のほとりに立つ…
…白い竜のおる、花夕野…。

…どこまでも続く…

…常しゑノ花野ヲ…まろぶ…

…零れ落ちてゆく、桜ノ花びらヲ…
  …かけては、ユく…

…花守の陽だまりのような…

   …手名ゴこロ…

…そして、

…五十鈴の手名ゴこロ…。

…そのまま、ぎュうって…

  …抱きしめタ…

…桜火ノ花ユら乃野ヲ…行く。

…桜のカゲが野ヲ揺らめく。

…花鈴の鳴る、常磐ノ野。

…千の夕鈴のなる…。
…桜の花に鈴を、たくさん結うて。

…千の火ノ由良のかむ結ヒ…。

…桜の花の花畑をあつめて、たゆたふ…。

…火ヲ摘みゆけば、桜火ノ花ユら。

…火ノわたつみは千の
お祓いとなって、野に散りゆく。

…手ヲつないだ二人が
花野をかけてゆく…。

…由良ゆら。…由良ゆら。

…二人の夕影が由良ゆら揺れる。

…右手は、わたし。…左手は、あなた。

…花うツツ。…うつろふ…花見影。

…由良ゆら。…由良ゆら。

…誰そ彼れの夕御髪に、揺らめく花ミ影。

…つないだ手ノ温もりヲ…
その夕ミ影に、うつしタ…。

…由良ゆら。…揺らめいた。

…カラン。…コロン。

…風なりノ絵馬。…揺れる花みくじ。

…玉ゆらノ桜花。…玉ゆらの。

花の端は、火ノわタつみ。

…辺り一面に広がる花畑ケ…。

…かけてゆく、桜火ノ花ユら乃野ヲ。

…吹き抜ける花風が、
夕涼すゞ宮夜ヲ…誘ふ。

…由良ゆら。…由良ゆら。

…手ヲつないだ、桜カゲ。

…由良ゆら。…由良ゆら。

…二人の影が揺れる。

…うツツ。…うつろふ。…桜カゲ。

…由良ゆら。…由良ゆら。

…誰そ彼れに揺らめいた。

…由良ゆら。…由良ゆら。


…カラン。…コロン。


…花夕鈴ノ首飾り。
…ひ一とツ、大きな鈴をかける…。

…いくつもの御守りノ鈴。…腰もとで揺れる…。

…お揃いでつけた紅ノ結ひ。

…かけてユく。…桜火ノ花ユら乃野…。

…火ノわタつみ。…夕涼すゞ宮夜…。

…桜火ノ花ユら乃野を、行く…。〉

❀❀❀

腰もとにつけた花鈴が
シャラシャラ…歩くたび、音をたてる。

花鏡でねむるあなたは
抱きしめた花守の腕の中で

宮中に向かってゆっくりと歩いてゆく。

…あたたかい…

横抱きに抱きしめたその腕の中は
あなたの温もりがする。

…眠るのが、怖いと想った…

(…どうして?)

…眠につく瞬間は、
あなたの腕のなかが良い…

…私の小さな願いだった…

(…好きだったの?)

「…あなた。」

花鏡のなかの桜の野が揺れて、
花吹雪が舞い起こる。

「…ちょっと!ちょっと‐!!!」

紫二上ノ君が野のなかを
かき分けて、追いかけて走ってくる。

…綺麗な人…

…桜の花の舞う野のなかを
いつまでもその背中を目で追いかけていた…。


……❀❀❀……


…古くから花麻の野の広がる花野山。

…栗の木の丘を越えて、
…アケビの野を越えたら、

…桜火ノ花ユら乃野に、つく。

…春分けの野のわタつみ。

…ぽぽに包まれたなだらかな背の丘に
たくさんの桜の花が咲いている。

…桜火ノ花ユら乃わタつみ。

…桜の千里の山々を…想ふ。

…ほロほロ。…ほロみる。

…桜ノ花の香の香ヲり。

…花の衣手。裾野の花空。

…オちに、火ノわタつみ。
…こチに、わタの音。…すゞのオと。

…まみユ…ひさぐ花海。
…をちに、こちに…。

逆さにひっクり返しタ花空に、
薄紅色した火ノわタつみ。

…都の端なか、小さな花々の咲く…

…忘れな草の野ヲ越えて、
春の野ヲ行くと…桜火ノ花ユら乃野に、つく…。

……                      ……
 …                      …

…花桜。…あノ世とこノ世の咲貝。

…幽花界。

…そう。呼ばれる場所に、

…桜火ノ花ユら乃野…は、あっタ…。

……❀❀❀……

…さぁ。…さぁら。
  …らん。…らん。

 …らぁん。

…さぁ。…さぁら。
  …らん。…らん。

 …らぁん。

…わタの音。…すゞのオ音と。

…さぁ。…さぁら。
  …らん。…らん。

 …らぁん。

…さぁ。…さぁら。
  …らん。…らん。

 …らぁん。

…カラン。…コロン。

…御守りノ鈴。…なゆタ参り。

…桜色の。…さクらイロの。
  …サくらイロの。

…首飾りの鈴がなる。

…カラン。…コロン。

…腰もとで揺れる、鈴ノ音。

…桜の花でいっぱいの花畑ケのなか…

…桜火ノ花ユら乃野を、

…桜ノ宮がかけてゆく…。

…鈴なりノ桜ら。…すゞのこゑ。

…火ノゆらの舞。

…桜火ノ花ユら乃野ヲ、行く…。

…鈴ノ音。…舞ふ、桜花…

…桜火ノ花ユら乃野の花が
舞うなか…妖花守の彼の者が行く…。

…揺れる、桜色の花の裳。

…夕桜の花衣。

…カラン。…コロン。

…桜の薄様は…たろみた枝。

…かゑりみた、火ノうつくし。

…竜ユ火の桜木ヲたよりに…。

…待ち焦がれた、花のユめ。

…花守は、妖ノ使ゐに
よく似ていて、いとヲかし。

……❀❀❀……

閂を抜いて、門を開くと、
野をでて、街へ降りてゆく。

夕餉の煙のたなびく家々を
遠くに望むと、田畑の続く道を歩いてゆく。

夕橋を越えて、街中にでると、

宮中に向かうまでの道のりを
抱きしめて行く人混みのなか、

ゐすゞの胸の温度がより一層高くなる。

「…にぃちゃん、格好良いね!」

お店のおじさんが声をかけて
花守に声をかけてくる。

「…彼女かぁ‐?!」

回りの子ども達が囃し立ててくる。

「…そう。」

…ヒューヒュー♥!

大事そうに花鏡を胸の奥で
ぎゅと握りしめた。

…宮中に帰ると、母屋に
抱きしめたゐすゞを横に眠らせた。

「…よく眠っている。」

…静かに寝息を立てるゐすゞに
頬ずりすると、そっと口を近づけた…。

…宮中に子ども達が遊びに来て、
うらうらと咲く桃の花と一緒に楽しそうに笑っていた…。

……❀❀❀……

〈修学旅行の1日目〉

白雪の舞う太宰府天満宮で
友達と買い物をしていた。

「…おいしいね!」

友達とゐすゞが街中を
歩いていて、梅ケ枝餅を頬張る。

…甘い餅が口中に広がった。

「…梅ケ枝餅かぁ。」

「…私も一つ買おうっと!」

友達の留美が梅ケ枝餅を
買うのにお店に並ぶ。

…お腹がぐ‐ぐ‐なる。

「…背に腹は代えられん。」

…留美が言った。

まだ早い梅の花が咲く庭を抜けて、
二人は太宰府天満宮まで行って、お参りをした。

❀❀❀

「…ちょっと!」

❀…同じ日付、同じ時間…❀

…森のなかをざぁっと、
生ぬるい風が吹き抜ける。

「…分かってるけど!」

はやる気持ちが焦りを呼ぶ。

「…もう少し待ってほしいから。」

「…どうして。」

…竜ユ火が紫二上ノ君の手をひいて言う。

「…どうしても!」

(…名が、ほしい。)

…ぽたぽた桃の花の咲く…

照らす宵闇のなかを
宮中の花庭でいた紫二上ノ君が

宮中の三ッ橋の上で花守の
竜ユ火と言い合っていた。

(…名を、呼んで。)

「…待って。」

…ふわっと、
竜ユ火が紫二上ノ君を抱きしめる。

竜ユ火が紫二上ノ君の手を取って、
宝珠…赤い琥珀に碧色の翡翠、

淡白桜灰色の水晶の腕輪をあげた。

「…ゐすゞ。」

…そして、

…振り向いて
甘いkissを交わす…。

…涙が頬を伝う。


…メキメキメキ!

…ど‐ん!!!

森の精霊たちがざわめき、
木々が倒れる音がする。

「…なに?!」

涙をぬぐって、
ゐすゞが驚いて声を上げる。

「…ど‐ゆうこと?!」

宮中の屋根の上から
大カタツムリがでてきて、

二人に襲いかかってきた!

(…人、食べてる!)

…ぞっと、する。

…宮中の人が次々と襲われる。

大カタツムリが宮中の
屋根の上からのっそり

這い上がってきて、
ヌメヌメした液体をかけてくる!

大カタツムリが口に人を放り込むと、

「…危ない!」と言って、

ゐすゞがしゃがみ込んだ。

…食べられる!!

❀❀❀

淡い夕紅色の桜の花の舞ふ野ヲ…
使いがかけてゆく…。

…お揃いの花衣…。紅色の花の跡。
花紫の桜模様。…ほもち。たゆたゆ、と…。

揺れる桜ノ袖。花鈴の緒。

…こぼれ落ちゆく桜の花を
両手いっぱいに抱え込んでは…

…竜ユ火はゐすゞを、

…ぎュうって…抱きしめタ。

(…どうして。)

…私は桜の花に問いかける。

(…どうして、私だけじゃないの。)

…淡い薄墨に花が滲んでは、
…たくさん咲いた花が、空を摘む…。

…ソラヲツム。…ソラヲツム。

…両手いっぱいにこぼれるような…
淡い夕紅色した桜花ノ野ヲ、

竜ユ火は…ずっと…守ってきた。

一枚いちまい花ヲ摘んでは
…空に花ヲあんで花ヲ守りユく。

…竜ユ火と紫二上ノ君は…

…千年の長いながい、
花ノ刻ヲこゑて…

…ずっと…ずっと…

…二人でそう、していた。

…〈カミ〉さまは、年ヲ取らない…。

…これは、ずっと…ずっと、
長い間、言い伝わるものだった。

…幽花界にある、
timesliphallの修復もその一つだった。

…竜ユ火は指の先に火ノゆらヲ灯して、

…時木じク香ク乃花ヲ…
一枚いちまい花ノ緒を、切ってゆく。

…由良ゆら、揺らめいた。

…桜の花びらはひらひらとたゆたふ。

それは、火ノゆらとなって、
竜ユ火の花衣のなかに落ちた。

…常世まで舟で行って、
時木じク香ク乃実を摘む、

それは、人の夢のなかに
夢の実がなるので、それを

常世まで摘みに行くことだった…。

桜火ノ花ユら乃野も、
火ノゆらの花も、

…ずっと…ずっと…

枯れないまま常世となス。

手もとの火ノゆらが揺れる。

遠く火ノわタつみの端まで
ひゞく竜ユ火のこゑ。

❀❀❀

「…だめ!だめってば!!」

ゐすゞが桜の花に問いかける。

桜の枝からみえる
透き間の花空を覗いては、

竜ユ火が紫二上ノ君になった
ゐすゞを抱きしめようと春衣を握る。

「…待って。待って。」

衣をつかんだ手で、
ふわりと竜ユ火が微笑む。

…桜の舞う野のなかで、
二人は、追いかけっこする…。

…大好きな彼をつい、
目で追いかけてしまう…。


❀❀❀


竜ユ火の花袖から
する花ノ香のかほり。

…お揃いの揺れる花衣。

花の色はうつろい、たヲる〈手名ごコろ〉。

まみゆるそなたは、
私と共に美し。

春のかぎろいにかわり、
桜火ノ花ユら乃野の裾野の花袖に染まりユく。

…トク。トク。トク。トク。

…かけてユく花の野ヲ。
…つついっぱい抱え込んで…

…由良ゆら揺れるな涙ミたの花丘…

…ふるえる手ヲ、花心ヲ。

…桜ノ花の春の野を、抱きしめる。

…竜ユ火は花の衣ヲ抱きしめる。

…桜火ノ花ユら乃野ヲまろぶ。

…たくさんみえた花丘ヲ…
…花、まろびてゆく。

…花、まろびつつ…
抱きしめタゐすゞヲ竜ユ火は

…抱きしめ返した。

…そうして。
結うた夢の浮き橋。

…かけぬけた花の野のなかを…

飛び込んできたゐすゞは
竜ユ火の花衣を握りしめた。

…手に千に結んだ萌ゆる火ノ花びら。

くすぐる香のかほり。

…焚きしめた…

…抱きしめた…

花ヲかし。

…まみユるそなたは、いとふみけらし。

…花ほのゆふ、春の野…

…誰そ彼れノ君夕。

あさきゆめみし、二人、永遠の刻。

一刻一刻を結うた花ノしらべ

…結んだ、手名ごコろ。

…決して、違えたりはしない、と…。

…妖の花にかぎろいの…花夕。

花泡のよふに儚しゆめらむ。

…竜ユ火の舞った春の花野ヲ…

…抱きしめる…


❀❀❀


「…いい加減にして!」

春衣をバシッと振って、
竜ユ火に噛みつく。

「…私がわざわざ
娘のために用意したのに!」

…竜ユ火が眉をひそめて怒る。

宮中で竜ユ火がゐすゞに

…常世から摘んできた夢の実を
プレゼントしてあげたのだけれど、

紫二上ノ君のものだって言って、
子どもみたいに叫んだのだから。

夢の実は朱の紐で桜の花に結んで、
一つずつお願い事を叶えていた。

「…なによ!」

(…だめ。)

ゐすゞがさらにまくしたてる!

(…優しくしないで。)

「…何も分かってくれない
じゃない!私の気持ち!」

(…言っちゃだめ。)

ほんとに好きなのは、
紫二上ノ君じゃない!

…握りしめた花衣がくしゃっと縮まる。

…花涙がこぼれそうになる。

「…私だけがあなたのものに
なりたいと願ってしまった…。」

(…ど‐ゆう意味よ、それ。)

…つまり、

求婚されてしまった…。

❀❀❀

…Pi Pi Pi Pi Pi

(…やめて!)

涙を流しながら目が覚める。

(…涙。どうして…。)

小人のもっちゃんが隣ですやすや眠っている。

(…怖かった…。)

目覚まし時計が鳴って、
ゐすゞがベッドに横たわる。

(…食べられちゃった…。)

ゐすゞの家は呪い屋の一つ、
花院道の流派を組む子孫だった。

護符を使って、妖を退治する。

夢に食べられたか…。

(…人を食べる大カタツムリか…。)

腕につけた宝珠をみて、

(…夢。)

宝珠をはずすと、口の中に
宝珠を入れてお願い事を唱える。

「…お願い事は、あと、五回だよ。」

いつもゐすゞの
お使いをしてくれる

オレンジの瞳で金色の髪の毛の
小人のもっちゃんがお布団から

起きて目をこすりながら、言った。

(…食べられる瞬間、
花守の竜ユ火が身代わりになって、

守ってくれたときに、

すぐ気づいてあげれて、

助けに行って
抱きしめてあげたかった…。)

「…一つ目、ね。」

「…どうか、叶えて…。」

手を握りしめて、お願い事を唱える。

…そして、

口に入れた宝珠を取り出して、
夢の中で太宰府天満宮に向かって

宝珠を…夢の続きざまに放り投げた。

(…さむ。)

霜焼けのおりるまだ肌寒い冬の朝に
布団を被りなおして、ベッドに潜り込む。

(…まだ、眠い。)

「…私の言うことを聞かないといけない。」

(…えっ?)

(…誰?!)

眠気まなこにゆっくり
ゐすゞが瞳を開けてゆく。

ラベンダー色の直衣を着た花守が
ベッドの上に乗っている?!

(…えぇ?!)

「…誰ですか?!」

「…私は、花守。」

(…うそ?!timeslip?!)

(…夢の中でみたの格好良い人!)

雀の鳴く粉雪の降る冬の朝に
平安時代らしきところからやって来た

花守とやらをのせて、ゐすゞは
ベッドの上から転がり落ちた。

…ゴチッ。

「…いて。」

「…何あれ。」

闇に飲み込まれた大きな渦から

まだ暗い朝焼けの前の彼わ誰れ刻に
宮中でみかけた大カタツムリが突然でてきて

ベッドの上に襲いかかってくる!

「…うわ!」

「…大カタツムリだ!!」

ヌメヌメした液体をまき散らして
潮の満ちを大カタツムリが這ってゆく。

「…家からでなくっちゃ!」

(…今日は、せっかくの修学旅行なのに。)

桃色の花柄ワンピースに
薄紫のパンツをはいて

パープルのカーディガンをはおると、
毛糸で編んだバッグを手に取って

部屋から飛び出ていった。

「…大カタツムリは
ワックのコカ・コーラに弱いぞ!」

「…わかったぁ‐!」

ワンルームのマンションのドアから
飛び出てると、下に続く階段を降りていく。

「…ワックって、何?」

妖狐のシロちゃんがドロン!と
でてきて、ゐすゞに聞いた。

「…ハンバーガーショップ♥!」

「…ワックも知らないのぉ‐?!」

ゐすゞが大きな声で言った。

…下まで着くと、
朝焼けのまだ宵闇の深い

街中を国道のワックに向かって
かけていった…。

❀❀❀

…由良ゆら。…由良ゆら。

…由良ゆら。…由良ゆら。


…桜の花が舞い散る…。

…あノ世とこノ世の…咲貝(さかい)。

…幽花界。

…そう。呼ばれる場所に、

…桜火ノ花ユら乃野は、あっタ…。