…由良ゆら。…由良ゆら。
…由良ゆら。…由良ゆら。
…桜の花が舞い散る…。
…あノ世とこノ世の…咲貝(さかい)。
…幽花界。
…そう。呼ばれる場所に、
…桜火ノ花ユら乃野は、あっタ…。
……❀❀❀……
…あノ世とこノ世の涙ノ端。
…桜木に寄りかかりて眠る…山花幸彦。
…桜野ヲかけてユく桜ノ宮。
…花ノ幽界。
…幽花界には妖や木霊、もののケの類がいる。
…カラン。…コロン。
…腰もとについタ 御守りノ花赤鈴…
…揺れる 花衣。
…花袖の舞う花畑の野ヲ…
…かけてユく、彼ノ者は
…桜火ノ花ユら乃野ヲ、ゆく…。
…… ……
… …
…さぁ。…さぁら。
…らん。…らん。
…らぁん。
…さぁ。…さぁら。
…らん。…らん。
…らぁん。
…わタの音…すゞノおト…
…桜ノ花の香ヲり。
…たユやかに つぼ厶。
…かしほノまにまに…。
…花ノ匂ゐは、わタ…わタ…。
…をちに、こちに…
…永遠に常世まで続く…桜ノ花乃野
…見渡す限り辺り一面に
…広がる、白い桜の花畑…
…まみゆる そなたヲ…
…かけてユく…花ノ野ヲ…
…火ノ花ユら…乃野
…桜火ノ花ユら乃野ヲ、ゆく…。
…深い…ふかい…
…眠りからさめて、
…まみゆ…
‐…そなたヲ…‐
…花衣の…甘い香ノかほり…
…ひっクり返っタ…
…な涙みタ色の…夕日…
…ユく。とけて、
…消えてしまいそうな…
…ユく。…花ノ火の由良。
…あなたの手を、ひいて…
…あなたの名を、呼んで…
…小さな天ノ祠のほとりに立つ…
…白い竜のおる、花夕野…。
…どこまでも続く…
…常しゑノ花野ヲ…まろぶ…
…まろぶように…ユく。
…零れ落ちてゆく、桜ノ花びらヲ…
…かけては、ユく…
…山花幸彦の陽だまりのような…
…手名ゴこロ…
…そして、
…桜ノ宮の手名ゴこロ…。
…その、小さな手ノひらのなかで
花菓子がくずれてくように…まろぶ。
…そのまま、ぎュうって…
…抱きしめタ…
…桜火ノ花ユら乃野ヲ…行く。
…桜のカゲが野ヲ揺らめく。
…花鈴の鳴る、常磐ノ野。
…千の夕鈴のなる…。
…桜の花に鈴を、たくさん結うて。
…千の火ノ由良のかむ結ヒ
…桜の花の花畑をあつめて、たゆたふ…。
…火ヲ摘みゆけば、桜火ノ花ユら。
…火ノわたつみは千の
お祓いとなって、野に散りゆく。
…手ヲつないだ二人が
花野をかけてゆく…。
…由良ゆら。…由良ゆら。
…二人の夕影が由良ゆら揺れる。
…右手は、あなた。…左手は、わたし。
…花うツツ。…うつろふ…花見影。
…由良ゆら。…由良ゆら。
…誰そ彼れの夕御髪に、揺らめく花ミ影。
…つないだ手ノ温もりヲ…
その夕ミ影に、うつしタ…。
…由良ゆら。…揺らめいた。
…カラン。…コロン。
…風なりノ絵馬。…揺れる花みくじ。
…玉ゆらノ桜花。…玉ゆらの。
花の端は、火ノわタつみ。
…辺り一面に広がる花畑ケ…。
…かけてゆく、桜火ノ花ユら乃野ヲ。
…吹き抜ける花風が、
夕涼すゞ宮夜ヲ…誘ふ。
…由良ゆら。…由良ゆら。
…手ヲつないだ、桜カゲ。
…由良ゆら。…由良ゆら。
…二人の影が揺れる。
…うツツ。…うつろふ。…桜カゲ。
…由良ゆら。…由良ゆら。
…誰そ彼れの夕美玉。
…由良ゆら。…揺らめいた。
…カラン。…コロン。
…花夕鈴ノ首飾り。
…ひ一とツ、大きな鈴の…。
…御守りノ鈴。…腰もとで揺れる…。
…お揃いでつけた紅ノ結ひ。
…かけてユく。…桜火ノ花ユら乃野…。
…火ノわタつみ。…夕涼すゞ宮夜…。
…桜火ノ花ユら乃野を、行く…。
…古くから花麻の野の広がる花野山。
…栗の木の丘を越えて、
…朱火(あけび)の野を越えたら、
…桜火ノ花ユら乃野に、つく。
…春分けの野のわタつみ。
…ぽぽに包まれたなだらかな背の丘に
たくさんの桜の花が咲いている。
…桜火ノ花ユら乃わタつみ。
…吉野の千里の山々を…想ふ。
…ほロほロ。…ほロみる。
…桜ノ花の香の香ヲり。
…花の衣手。裾野の花空。
…オちに、火ノわタつみ。
…こチに、わタの音。…すゞのオと。
…まみユ…ひさぐ花海。
…をちに、こちに…。
逆さにひっクり返しタ花空に、
薄紅色した火ノわタつみ。
…都の真ん中、小さな花々の咲く…
…忘れな草の野ヲ越えて、
春の野ヲ行くと…桜火ノ花ユら乃野に、つく…。
…… ……
… …
…花桜。…あノ世とこノ世の咲貝。
…幽花界。
…そう。呼ばれる場所に、
…桜火ノ花ユら乃野…は、あっタ…。
……❀❀❀……
…さぁ。…さぁら。
…らん。…らん。
…らぁん。
…さぁ。…さぁら。
…らん。…らん。
…らぁん。
…わタの音。…すゞのオ音と。
…さぁ。…さぁら。
…らん。…らん。
…らぁん。
…さぁ。…さぁら。
…らん。…らん。
…らぁん。
…カラン。…コロン。
…御守りノ鈴。…なゆタ参り。
…桜色の。…さクらイロの。
…サくらイロの。
…首飾りの鈴がなる。
…カラン。…コロン。
…腰もとで揺れる、鈴ノ音。
…桜の花でいっぱいの花畑ケのなか…
…桜火ノ花ユら乃野を、
…桜ノ宮がかけてゆく…。
…鈴なりノ桜ら。…すゞのこゑ。
…火ノゆらの舞。
…桜火ノ花ユら乃野ヲ、行く…。
…鈴ノ音。…舞ふ、桜花…
…桜火ノ花ユら乃野の花が
舞うなか…妖花守の彼の者が行く…。
…揺れる、桜色の花の裳。
…夕桜の花衣。
…カラン。…コロン。
…桜の薄様は…たろみた枝。
…かゑりみた、火ノうつくし。
…山花幸彦の桜木ヲたよりに…。
…待ち焦がれた、花のユめ。
…妖花守は、花ノ使ゐに
よく似ていて、いとヲかし。


