『そっか……。お大事にしてください!』
晃成から返事が来ていたのは、翌朝の6時半ごろ。俺はその時間、まだ寝こけていた。
なんたって、起きた時にはもう昼を過ぎていたのだ。
その間に、晃成からはもう一通、俺の体調を心配するメッセージが届いていた。時間的に学校は昼休みだ。
今の時期、三年生はもう自由登校期間だ。すでに進路が決まっている俺は、正直、学校に行く必要なんてほとんどない。
それなのに毎朝律儀に登校していたのは、もちろん晃成に会いたかったから。
登校した後は、大体図書館にこもって勉強するか本を読むか。
そのあとは、部活がある日は部室に顔を出して、ない日は、晃成と昇降口で落ち合って、結局、どちらにしても一緒に帰宅する。
よく考えなくても、晃成のこと好きすぎるよ……。今までこれを無自覚でやっていたんだから、自分に呆れてしまう。
でも、認めてしまったら、気持ちはあふれ出してくる。とてもじゃないけど今まで通りに晃成と接する自信なんてない。
そんな理由で学校には行かない、なんて当然、晃成には言えるはずもなく。
晃成はただの体調不良だと思ってるのに――。
嘘をついているようで何となく後ろめたくなり、俺は返信しないままスマホをベッドに放り投げて、キッチンへと向かった。
明日はどうしようかなぁ――。
棚にあったカップ麺に沸かしたお湯を注ぐ。
スマホで三分タイマーをセットして待っている間、これからどうするかを考えることにした。
ピピピピッ――。
まぁ当然、そんなわずかな時間で答えが出るはずもなく。
やむなく、タイマーの音で中断された思考を宙に放り出してラーメンをすすった。
それから、一週間。
俺は結局、答えが出せないままずっと逃げていた。
あれから、一度も学校には行っていない。
晃成から毎日、朝、昼、晩と定期的にメッセージが届いていた。俺の体調を気遣う言葉や、学校での出来事。何でもない雑談の応酬は楽しい。
それでも、昨日の夜届いた『明日は学校来られそうですか?』というメッセージに、『しばらくは行かないつもり』とついに返信してしまった。
今朝になっても、晃成からのメッセージは届いていなかった。昼休みの時間になっても、画面は静かなまま。
何度も何度もスマホの画面を見ては、返信がないことにがっかりする。自分が先に距離を置こうとしたくせに。
「はぁ~~~」
深いため息をついて、スマホを机に置く。するとその瞬間を狙ったかのように、ピロンっとメッセージの通知音が鳴った。
慌てて手に取り、またため息をつく。
『今から顔貸せ』
恫喝のようなメッセージの送り主は瀬良だった。
待ち合わせ場所は学校の食堂。
別にやることもないし――行くか。ちょうど、瀬良に聞いてみたいこともある。
今はまだ午後の授業が始まったばかり。今から行って、すぐに帰れば晃成に会うことはないだろう。
そう思って、俺は家を出た。
久々に一人で乗る電車は、何も変わらなかった。座席の固さも、窓から見える景色も、ガタンゴトンという、のんきな走行音も。
それなのに、やけに心細い。
こんなんで俺は大学にちゃんと行けるんだろうか。つい乾いた笑いが漏れる。
気分的にはいつもの倍くらいの時間をかけてたどり着いた学校で、瀬良を探すのは簡単だった。
瀬良は目立つし、何より今は授業中で食堂は閑散としている。
それでも、何となくきょろきょろしながら瀬良の正面の席に座った。
「久しぶり〜」
「なんで急に学校来なくなったわけ?」
座るなり瀬良から投げかけられた言葉は、あまりにも直球だった。しかも、逃げる余地もない、剛速球だ。
だからといって、そのまま空振りで終わることもできない。
「なんでって、自由登校じゃん……」
「晃成となんかあった?」
何とか打ち返した玉は、ヘロヘロと転がっただけで、あっという間に取られてバッターアウト。逃げ場なんてない。
でも、別に瀬良は怒っているわけでも、責めているわけでもない。
純粋に俺と、晃成のことを心配してくれているだけだ。
「……瀬良はさ、卒業するの寂しくない?」
自分でも驚くほど唐突な問いに、瀬良は目を瞬かせた。
「なに、急に」
「だってさ……」
続く言葉を口に出すのをためらっていても、察しの良い瀬良にはお見通し。少し視線を落とした瀬良は、俺が”聞きたかったこと”にちゃんと答えてくれた。
「そりゃ寂しいよ。卒業したら全部変わるもんな。今まで当たり前だったものがそうじゃなくなるっていうのは――結構くる」
瀬良の恋人は一つ下の学年。関係性は違っても、俺たちと状況は同じだ。
「正直、不安だらけだよ」
「あんだけラブラブでも?」
「ははっ、そりゃそうだろ」
そっか、瀬良だって不安なのだ。
あっさりと笑う瀬良の顔を見て、何となく肩の荷が下りたような気がした。
「それでも俺は柊哉と一緒にいたいからさ。乗り越えるしかないんだよ」
「そっか……」
「前に言っただろ。後悔だけはしないようにしろって」
「……うん、そうだね」
その日の夜、俺はまたスマホを手に持ち、悩んでいた。
瀬良の話を聞いて、このままじゃいけないと晃成にメッセージを送ろうと何度か試みたが、結局送れないまま、時間はすでに日付をまたいでいる。
――もう明日にしよ。
今、メッセージを送ったところで、晃成はもう寝ているだろうし。
そう自分に言い聞かせてスマホを置こうとした、その時。ぱっと画面が明るくなり、着信音が鳴った。
画面に表示された名前は――『佐久間 晃成』。
俺は慌てて、通話ボタンを押した。
「は、はい!」
『……あっ、先輩。すみません、こんな遅い時間に』
電話越しだからか、晃成の声がいつもより頼りなく聞こえる。久々に声を聞けた嬉しさと、どうかしたのだろうかという不安が同時にこみあげて、心臓が痛い。
「だ、大丈夫。どうかした?」
『…………』
晃成が何も答えないまま、どれほど時間がたったのか。
沈黙を破ったのは、絞り出したような、あまりにも小さな声だった。
『……先輩に、会いたい……』
体中の血が沸騰したように一気に熱を帯びて、視界がにじむ。
「俺も、俺も会いたい……!」
気づいた時にはベッドから勢いよく起き上がり、そのまま家を飛び出していた。
今、会わないと後悔する。そう思ったから、俺は走った。
電話の向こうからも、俺と同じように荒い息遣いが聞こえてくる。
そして、たどり着いたのはいつも朝、待ち合わせをしていた駅だった。
終電はすでに終わり、深夜の駅には人影もない。
でも、冬の冷たい空気を暖めるように灯る街灯の下には、ずっと避けていたのに、会いたくてたまらない人の姿があった。
「晃成……」
「智也先輩」
俺に気が付いた途端、晃成はふにゃりと情けなく笑った。嬉しさと、不安が混ざったような、今にも泣き出しそうな顔。
そんな顔をさせてしまったのは――俺だ。
「ごめん、晃成」
「……それは、なんの『ごめん』ですか?」
「えっと……避けてて……」
「やっぱり避けてたんだ」
「ご、ごめん」
「今日、学校来てたんですもんね」
「っ! なんで?!」
「瀬良先輩が教えてくれました」
「瀬良ぁぁ!!!」
思わず叫ぶと、晃成はくすっと、少しだけ笑った。
本当に瀬良はおせっかいだ。あとで、連絡しておこう。「ありがとう」って。
「……俺、急に怖くなっちゃって。この先のことも、晃成との関係も……」
「はい。……俺が、いきなり攻めすぎましたね」
「えっ、それは……そう、かも」
あの日、もし晃成のあんな顔を見なければ、俺は晃成への気持ちを自覚しないままだっただろうか。いや、きっとそんなことはない。遅かれ早かれ、絶対に気づいていた。
だって、たとえ知らないままだったとしても、俺は晃成がいない日々に耐えられなかっただろうから。
「焦ってたんです。先輩、全然気づいてくれないから」
結構アピールしてたのに。なんて晃成が言うから、俺はいたたまれなくて顔を両手で覆った。
すると、足音が近づく気配がして、気づいた時には俺の顔から両手が離されていた。
「好きです、智也先輩。俺と付き合ってください」
その真っすぐな視線に、自然と涙があふれ出す。
両手を掴まれているせいで拭えないのに、次から次へとあふれ出して、止まらない。
息が詰まって苦しい。でも、俺は必死で、声を上げた。
「うん、うん! 俺も、晃成が好き。恋人になりたい!」
「やったーー!!!!」
「わぁ!!!」
次の瞬間、ふわりと体が浮いた。
まさかこの年で、抱き上げられ、くるくると回される日が来るなんて思ってもみなかった。
驚きながらも俺はしっかりと晃成の首に手を回す。
二人で笑っていると、ボーンと低い時計の音が駅に響いた。視線を上げれば、毎朝見ていたその時計が深夜の2時を指していた。
「さっむ!」
気持ちが落ち着くと、俺は上着も着ないまま家を飛び出してきていたことに気が付いた。
一月の寒さに、パジャマ一枚ではさすがに太刀打ちできない。
「帰ろっか」
晃成に下ろしてもらい、今度は手をつなぐ。
ぎゅっと握り合って、二人並んで歩きだした。
これから先、どうなるかなんてまだわからない。
寂しさや不安に押しつぶされそうになる日もきっと来る。
でもそんなときは二人で一緒に考えていけば、絶対に大丈夫。
「……今補導されたら、先輩の推薦取り消しになる……?」
「怖いこと言わないで?! 早く帰るよ!」
「え~~」
「……これからだって、いつでも会えるだろ」
「先輩……! 大好きです!」
「あーもう! 走って!」
俺は晃成の手を引いて夜道をまた走り出した。つないだ手だけは離さないよう、ぎゅっと握って。
後ろからは楽しげに笑う声が聞こえた。
晃成から返事が来ていたのは、翌朝の6時半ごろ。俺はその時間、まだ寝こけていた。
なんたって、起きた時にはもう昼を過ぎていたのだ。
その間に、晃成からはもう一通、俺の体調を心配するメッセージが届いていた。時間的に学校は昼休みだ。
今の時期、三年生はもう自由登校期間だ。すでに進路が決まっている俺は、正直、学校に行く必要なんてほとんどない。
それなのに毎朝律儀に登校していたのは、もちろん晃成に会いたかったから。
登校した後は、大体図書館にこもって勉強するか本を読むか。
そのあとは、部活がある日は部室に顔を出して、ない日は、晃成と昇降口で落ち合って、結局、どちらにしても一緒に帰宅する。
よく考えなくても、晃成のこと好きすぎるよ……。今までこれを無自覚でやっていたんだから、自分に呆れてしまう。
でも、認めてしまったら、気持ちはあふれ出してくる。とてもじゃないけど今まで通りに晃成と接する自信なんてない。
そんな理由で学校には行かない、なんて当然、晃成には言えるはずもなく。
晃成はただの体調不良だと思ってるのに――。
嘘をついているようで何となく後ろめたくなり、俺は返信しないままスマホをベッドに放り投げて、キッチンへと向かった。
明日はどうしようかなぁ――。
棚にあったカップ麺に沸かしたお湯を注ぐ。
スマホで三分タイマーをセットして待っている間、これからどうするかを考えることにした。
ピピピピッ――。
まぁ当然、そんなわずかな時間で答えが出るはずもなく。
やむなく、タイマーの音で中断された思考を宙に放り出してラーメンをすすった。
それから、一週間。
俺は結局、答えが出せないままずっと逃げていた。
あれから、一度も学校には行っていない。
晃成から毎日、朝、昼、晩と定期的にメッセージが届いていた。俺の体調を気遣う言葉や、学校での出来事。何でもない雑談の応酬は楽しい。
それでも、昨日の夜届いた『明日は学校来られそうですか?』というメッセージに、『しばらくは行かないつもり』とついに返信してしまった。
今朝になっても、晃成からのメッセージは届いていなかった。昼休みの時間になっても、画面は静かなまま。
何度も何度もスマホの画面を見ては、返信がないことにがっかりする。自分が先に距離を置こうとしたくせに。
「はぁ~~~」
深いため息をついて、スマホを机に置く。するとその瞬間を狙ったかのように、ピロンっとメッセージの通知音が鳴った。
慌てて手に取り、またため息をつく。
『今から顔貸せ』
恫喝のようなメッセージの送り主は瀬良だった。
待ち合わせ場所は学校の食堂。
別にやることもないし――行くか。ちょうど、瀬良に聞いてみたいこともある。
今はまだ午後の授業が始まったばかり。今から行って、すぐに帰れば晃成に会うことはないだろう。
そう思って、俺は家を出た。
久々に一人で乗る電車は、何も変わらなかった。座席の固さも、窓から見える景色も、ガタンゴトンという、のんきな走行音も。
それなのに、やけに心細い。
こんなんで俺は大学にちゃんと行けるんだろうか。つい乾いた笑いが漏れる。
気分的にはいつもの倍くらいの時間をかけてたどり着いた学校で、瀬良を探すのは簡単だった。
瀬良は目立つし、何より今は授業中で食堂は閑散としている。
それでも、何となくきょろきょろしながら瀬良の正面の席に座った。
「久しぶり〜」
「なんで急に学校来なくなったわけ?」
座るなり瀬良から投げかけられた言葉は、あまりにも直球だった。しかも、逃げる余地もない、剛速球だ。
だからといって、そのまま空振りで終わることもできない。
「なんでって、自由登校じゃん……」
「晃成となんかあった?」
何とか打ち返した玉は、ヘロヘロと転がっただけで、あっという間に取られてバッターアウト。逃げ場なんてない。
でも、別に瀬良は怒っているわけでも、責めているわけでもない。
純粋に俺と、晃成のことを心配してくれているだけだ。
「……瀬良はさ、卒業するの寂しくない?」
自分でも驚くほど唐突な問いに、瀬良は目を瞬かせた。
「なに、急に」
「だってさ……」
続く言葉を口に出すのをためらっていても、察しの良い瀬良にはお見通し。少し視線を落とした瀬良は、俺が”聞きたかったこと”にちゃんと答えてくれた。
「そりゃ寂しいよ。卒業したら全部変わるもんな。今まで当たり前だったものがそうじゃなくなるっていうのは――結構くる」
瀬良の恋人は一つ下の学年。関係性は違っても、俺たちと状況は同じだ。
「正直、不安だらけだよ」
「あんだけラブラブでも?」
「ははっ、そりゃそうだろ」
そっか、瀬良だって不安なのだ。
あっさりと笑う瀬良の顔を見て、何となく肩の荷が下りたような気がした。
「それでも俺は柊哉と一緒にいたいからさ。乗り越えるしかないんだよ」
「そっか……」
「前に言っただろ。後悔だけはしないようにしろって」
「……うん、そうだね」
その日の夜、俺はまたスマホを手に持ち、悩んでいた。
瀬良の話を聞いて、このままじゃいけないと晃成にメッセージを送ろうと何度か試みたが、結局送れないまま、時間はすでに日付をまたいでいる。
――もう明日にしよ。
今、メッセージを送ったところで、晃成はもう寝ているだろうし。
そう自分に言い聞かせてスマホを置こうとした、その時。ぱっと画面が明るくなり、着信音が鳴った。
画面に表示された名前は――『佐久間 晃成』。
俺は慌てて、通話ボタンを押した。
「は、はい!」
『……あっ、先輩。すみません、こんな遅い時間に』
電話越しだからか、晃成の声がいつもより頼りなく聞こえる。久々に声を聞けた嬉しさと、どうかしたのだろうかという不安が同時にこみあげて、心臓が痛い。
「だ、大丈夫。どうかした?」
『…………』
晃成が何も答えないまま、どれほど時間がたったのか。
沈黙を破ったのは、絞り出したような、あまりにも小さな声だった。
『……先輩に、会いたい……』
体中の血が沸騰したように一気に熱を帯びて、視界がにじむ。
「俺も、俺も会いたい……!」
気づいた時にはベッドから勢いよく起き上がり、そのまま家を飛び出していた。
今、会わないと後悔する。そう思ったから、俺は走った。
電話の向こうからも、俺と同じように荒い息遣いが聞こえてくる。
そして、たどり着いたのはいつも朝、待ち合わせをしていた駅だった。
終電はすでに終わり、深夜の駅には人影もない。
でも、冬の冷たい空気を暖めるように灯る街灯の下には、ずっと避けていたのに、会いたくてたまらない人の姿があった。
「晃成……」
「智也先輩」
俺に気が付いた途端、晃成はふにゃりと情けなく笑った。嬉しさと、不安が混ざったような、今にも泣き出しそうな顔。
そんな顔をさせてしまったのは――俺だ。
「ごめん、晃成」
「……それは、なんの『ごめん』ですか?」
「えっと……避けてて……」
「やっぱり避けてたんだ」
「ご、ごめん」
「今日、学校来てたんですもんね」
「っ! なんで?!」
「瀬良先輩が教えてくれました」
「瀬良ぁぁ!!!」
思わず叫ぶと、晃成はくすっと、少しだけ笑った。
本当に瀬良はおせっかいだ。あとで、連絡しておこう。「ありがとう」って。
「……俺、急に怖くなっちゃって。この先のことも、晃成との関係も……」
「はい。……俺が、いきなり攻めすぎましたね」
「えっ、それは……そう、かも」
あの日、もし晃成のあんな顔を見なければ、俺は晃成への気持ちを自覚しないままだっただろうか。いや、きっとそんなことはない。遅かれ早かれ、絶対に気づいていた。
だって、たとえ知らないままだったとしても、俺は晃成がいない日々に耐えられなかっただろうから。
「焦ってたんです。先輩、全然気づいてくれないから」
結構アピールしてたのに。なんて晃成が言うから、俺はいたたまれなくて顔を両手で覆った。
すると、足音が近づく気配がして、気づいた時には俺の顔から両手が離されていた。
「好きです、智也先輩。俺と付き合ってください」
その真っすぐな視線に、自然と涙があふれ出す。
両手を掴まれているせいで拭えないのに、次から次へとあふれ出して、止まらない。
息が詰まって苦しい。でも、俺は必死で、声を上げた。
「うん、うん! 俺も、晃成が好き。恋人になりたい!」
「やったーー!!!!」
「わぁ!!!」
次の瞬間、ふわりと体が浮いた。
まさかこの年で、抱き上げられ、くるくると回される日が来るなんて思ってもみなかった。
驚きながらも俺はしっかりと晃成の首に手を回す。
二人で笑っていると、ボーンと低い時計の音が駅に響いた。視線を上げれば、毎朝見ていたその時計が深夜の2時を指していた。
「さっむ!」
気持ちが落ち着くと、俺は上着も着ないまま家を飛び出してきていたことに気が付いた。
一月の寒さに、パジャマ一枚ではさすがに太刀打ちできない。
「帰ろっか」
晃成に下ろしてもらい、今度は手をつなぐ。
ぎゅっと握り合って、二人並んで歩きだした。
これから先、どうなるかなんてまだわからない。
寂しさや不安に押しつぶされそうになる日もきっと来る。
でもそんなときは二人で一緒に考えていけば、絶対に大丈夫。
「……今補導されたら、先輩の推薦取り消しになる……?」
「怖いこと言わないで?! 早く帰るよ!」
「え~~」
「……これからだって、いつでも会えるだろ」
「先輩……! 大好きです!」
「あーもう! 走って!」
俺は晃成の手を引いて夜道をまた走り出した。つないだ手だけは離さないよう、ぎゅっと握って。
後ろからは楽しげに笑う声が聞こえた。

