あれから、2週間近く経ったがあいつは本当に俺に会いに来なくなった。

図書室にも顔を見せないと、拓に聞いた。

胸の中にぽっかり穴が空いたみたいでやりきれない。

やはりスマホの連絡先を交換しておくべきだったかな。

いや、そういうことじゃない。

自分からあいつのクラスに行けばおそらく会えるだろう。

でもその勇気は出なかったし、まだどんな顔をして会えばいいのかわからなかった。

最後に見た源の顔が忘れられない。

彼は俺のことを好きだと言った。

あれはただの後輩としての好きって意味じゃないことくらいは鈍感な俺にもわかった。
 
だったら、俺の気持ちは……。

正直、恋と呼べるものなのかよくわからない。

だいたい、俺はこれまで誰かを本気で好きになったことが無かった気がする。もちろん誰かと付き合ったことも無い。

自分の気持ちははっきりとわからないけど、俺はずっと。

あれから、ずっと……。

おまえに会いたくてたまらないんだ。

聖夜。


「なあーに、ウダウダ考えてんだよ?蓮らしく無いぞ」

「俺もそう思うんだけど」

昼休み、窓際の後ろの席でぼんやりグラウンドを眺めていたら日向が話しかけてきた。

「あのイケメン君、すっかり来なくなったねー」

「……」

「喧嘩でもしたの?」

軽い調子で尋ねてくる日向。

俺はグラウンドから目を離さずに答えた。

「してない」

「じゃあなんでさ」

「さあ、なんでだろ」

「わからないの?」

「いや、ほんとはなんとなくわかってる」

「じゃあ、どうしたらいいのかもわかってるんだ?」

あいつはズルくてダサい俺に愛想をつかしたのかもしれない。

「……」

「おー、噂をしていたら」

「あ」

あれから毎日、昼休みになるとグラウンドにいるかもしれないと、あいつの姿を探してた。

1年の源のクラスは球技大会が終わってからも、しょっちゅうサッカーをしていたんだ。

でも、なぜかずっと源は来なくて心配していたんだが、今その姿が目に飛びこんできた。

俺と日向は、窓の外をくいいるように見つめる。

久しぶりに彼を見たら、自分でもびっくりするくらいに心が弾んでいた。

源ははじめはあまり目立った動きをしていなかったのだが、パスをもらうと凄い勢いでゴールに向かってわき目もふらずに走っていった。

1人抜き、2人抜き、3人目も難なく抜き去る。

4人目にボールを奪われてしまったが、あきらめずに追いかけて、ついに取り返してしまった。

こんなの昼休みの遊びのサッカーのレベルを超えてる。

「すげー」

「お、なんかあれ蓮みたい」

「そ、そうかな」

はっきり言って、俺はあんなに上手く無いんだけど。

「あんな猪突猛進みたいな闘志むき出しの感じ、蓮にそっくりじゃん。
あれは絶対、おまえの影響を受けてるな」

日向にそう言われて素直に嬉しいと思った。

「彼ってもっとクールなタイプかと思ってたよ」

そう言えば、源が以前サッカーをしていた時、まるで本気を出していないように見えてムカついたんだよな。

それなのに今のあいつは別人みたいにがむしゃらにボールを追いかけていて。

源も何か心境の変化があったんだろうか。

日向の言うように俺の影響で?
俺に出会ったから?

そんなことってあるんだろうか。
 
でも、もしそうだとしたら、俺は。

俺自身が、こんな風に立ち止まってたら駄目だろ。

「……っ」

その時、いてもたってもいられなくなって椅子から立ち上がる。

勢い余って椅子が後ろにガタンと倒れた。

「お、俺、俺、行ってくる」

「おー、やっと源に会いに行く気になったか?」

「違う、まず先に行くところがある。それからその後に」

「よっしゃ行けっ、蓮」

日向は俺の背中を押すように声を上げた。

「はっきり言って、ここ最近の蓮、腑抜けみたいで見ていられなかったよ。
早いとこ、元に戻れよなっ」

「うん、ありがと、日向」

俺の弱い心に復活のヒントをくれようとしてくれた日向の気持ちに鼻の奥がツンとした。

「俺だけじゃないって。拓も心配してたんだからな。キツイこと言っちゃったから気にしてたよ」

「そうか」

廊下側の端の席を見たら拓が読書をするふりをしながら、こちらをチラチラ伺っている。

ここ最近、友人2人にも随分と心配をかけてしまっていたみたいだ。

俺は自分のことだけでいっぱいいっぱいで気がつかなかった。

「行ってくるよ」

って前を通る時に声をかけたら、拓は無言でグッと親指を立てていた。

たぶん、頑張れよってことだと思った。