廊下を走って再びさっきの一年の教室に行くと、源が他の男子達と5人で話をしているのが見えた。  

みんな洗練されたイケメン集団って感じで、一瞬気後れしてしまう。

源はその中でも群を抜いてカッコよかったし、今更ながら俺とは別次元のステージにいるような気がした。

久しぶりだし、源に話しかけたとして、そっけなくされたら。

もう興味が無くなったって冷たく突き放されたら。

どうしょう。きっと俺、立ち直れない。

ガラにもなく怖気付いてしまう。

「あれ、美奈のお兄さんですよね?」

教室の扉の前で立ち尽くしていたら、妹の友達数人に囲まれてしまった。

「あ、うん」

「美奈から聞いてます、すっごく優しくて面白いんだよって」

「そ、そう?」

優しいはいいけど、面白いってなんだよって思ったがハハと愛想笑いで返した。

「はい」

「そうだ、インスタ交換してくださいっ」

「あ、私も私も」

「お願いしまーす」

「え、え、俺?」

普段ならちょっと嬉しいことかもしれないけど、今はそれどころじゃなかったので戸惑ってしまう。

しかし、妹の友達なのでむげに断るのも悪い気がしてポケットからスマホを取り出した。

とにかく、早くこの状況から解放して欲しい。

と、その時。

「何やってんすか?先輩」

「は、え?聖夜」

なんと、背後から源が俺のスマホをヒョイと取り上げてきたのでびっくりした。

彼はなぜか憮然としている。

「こっち来てください」

「あ、あの聖夜」

ガシッと腕を掴まれて、引っ張っていかれた。階段を3階から2階に降りたところで、ようやく手が離れた。

その時ちょうど予鈴が鳴り響き、生徒たちが教室へ戻っていったのであたりは誰もいなくなった。

源はずっと無言だったから不安になって恐る恐る尋ねる。

「聖夜、なんか怒ってる?」

「別に怒っていません」

「いや、怒ってるだろ」

「怒っているんじゃなくて、悔しいだけです」

「へ、なんで?」

源はくるりと背中を向ける。

「だって、俺には連絡先の交換とかしてくれなかったのに、さっきは簡単にしょうとしてるから」

「いや、それは向こうから頼まれて」

「じゃあ頼まれたら誰とでも繋がるんですか?」

「そんなんじゃないけど」

どうやら源は子供っぼい嫉妬の炎を燃やしているようだ。

そうか、源もほんとは連絡先の交換をしたかったんだ。

か、可愛い。

彼の気持ちが変わっていない気がして、胸の奥がキュンとなる。

「俺、聖夜の顔を見てちゃんと話をしたくて来たんだ。こっちを向いてくれないか」

彼の背中に話しかけたら、振り返ってくれた。

「俺と?妹さんじゃなくて?」

「うん、妹にはさっき会って、きっちり話はついた。
聖夜との関わりについても正直に話したよ」

「……」

「でさ、えっと何から話せばいいかな、つまり俺がその、美奈に言えなかったのはやましい気持ちがあったからみたいなんだ。
聖夜といたら楽しくて、それで」

俺は気持ちがアップアップだったけど、思いつく限りの思いをたどたどしく吐き出した。

きっと、今の俺は上手に順序立てて話せない気がする。だけど、精一杯誠実に伝えたい。

「好きって言われた時は膝がガクガクになって。でもまだそん時はよくわからなくて」

源は目を見開きその場で身を固くしているように見えた。

「聖夜がさっきサッカーしてるのを見て、めちゃくちゃ一生懸命でさ。友達がおまえの影響かもなって言ってくれたのがすげー嬉しくて」

「見てたんですね。なんか恥ずかしいな。あの時、サッカーをする先輩の姿が浮かんできて気がついたら必死にボールを追いかけてました」

目を細めて苦笑する彼に、カッコよかったよって言った。

「俺、ズルくてどっちつかずで。
聖夜が好きって言ってくれたのにウジウジして。でもこのままじゃ嫌だから、いつもの自分らしくいたくて」

息継ぎも忘れて話して、身体中が熱くなっていた。

でもまだ最後まで言えてない。
1番大切な言葉を。

「あの、俺もす、好きです」

聖夜は両手で俺の右手を大事そうに包み込んて言った。

「先輩、ありがとう」

「俺の方こそ」

「俺は自信が無いから自分の気持ちを隠したまま先輩のそばにいようとしてたんです。でも本音を言えば先輩が欲しかった」

「ほっ、ほしって、えっ?」

俺は素っ頓狂な声をあげる。

もう駄目だ頭がクラクラする。こんなのキャパオーバーでぶっ倒れそうだ。

「もちろん先輩の気持ちが俺に追いついてからで構いません」

源が優しく笑うから、今にも吸い寄せられそうだ。

彼の形のいい唇がやけに気になってしまう。

こんな時に初めて会った日のあのキスを思い出してしまい胸の奥が騒がしい。

「う、うん」

俺はロボットのような動きでコクコクと頷いた。

「お互いの気持ちをゆっくり大切に育んでいきましょう」

「そ、そうだな。うん、よ、よろしくお願いします」

緊張して思わず敬語になってしまう。

「先輩、ガチガチに固まってますね」

「うん、ごめんな。年上なのに」

「そんなの謝らないで」

フワリ。

その広い胸に抱きしめられると頭の芯が甘くぼやけた。

「大好きです、先輩。初めて会った時からずっと」

最悪の出会いから始まったのに、俺はいつの間にか恋に落ちていたみたいだ。

彼との幸せな未来を想像しながら、その背中にそっと腕を伸ばした。