今年最後のホームルームが終わる。後はもう帰るだけだ。荷物を整理しながら斑鳩は、ちらりと後方の席に視線を向けた。
窓際の一番後ろの席、白熊の席だ。彼はまだ椅子に座っており、スマホを操作している。どことなく気の緩んだ顔から、おそらくはあざらしと連絡を取っているのだろう。
今日は一緒に白熊の祖母の店に行くと、昨日話していた。どこかで待ち合わせて向かうはずだ。恥ずかしげもなく手を繋いで……なんて考えて、斑鳩の頬に熱が溜まった。
一目惚れしたんだろうな、というのは、見ていれば分かった。
初対面の時、あざらしとぺんぎんの対応に少しだが差があった。あざらしに話し掛けるたびに、声に甘みがあって、こいつマジかと二度見したのをよく覚えている。
それからも、自然とあざらしが自分の隣に来るように誘導し、さりげなくあざらしに近付く輩を遠ざけていた。幼馴染みの執着心が、斑鳩は見ていて気恥ずかしかった。
恋愛よりも、日常が楽しい。
斑鳩はそんな感じなので、恋愛事をぶっこまれると、どぎまぎして、頭がまともに回らない。当分は縁遠くていいと思っている。
それなのに白熊は、自ら飛び込んで行って、外堀を埋めて、ついには、欲しいものを手に入れた。そのガッツには僅かに称賛の気持ちを抱く。
末永く幸せに。
あざらしといる時の白熊は、これまで見たどの白熊よりも幸せそうだから、その幸せが長く続いたらいいと、幼馴染みは思うのだった。
◆◆◆
あざらしから手を繋ぎ、二人は海を眺めながら歩いていく。
「明日から冬休みだね」
「もうそんな季節なんですね、なんだかあっという間です」
「……来年の今頃は、俺も忙しいかもな」
「……」
「あざらし君との時間はたくさん作るつもりだから、心配しないでね」
「無理はしないでくださいね?」
もちろんと言って微笑む白熊に、ちくりとあざらしの胸は痛んだ。
来年に三年生となる白熊。当然のことながら、あざらしよりも先に卒業する。
将来的に一緒に暮らそうと約束しているが、一年、白熊のいない場所に通うことになるのかと思うと、一抹の淋しさを覚えた。
ぺんぎんがいるし、もしかしたら後輩ができるかもしれない。それでもきっと、ここに白熊がいたら、なんて想像を自分はするんだろう。楽しければ楽しいほどに。
楽しいことも、何もかも、白熊と共有していきたい。
最後の最後までは許していないが、白熊に自分の肌をある程度知られたことで、色々と吹っ切れたあざらし。白熊への想いも、強くなった気がする。
重ねた指に、力を込めた。
「あざらし君?」
「……好きです」
そう口にして、微笑んでみせたが、何故だか白熊は心配そうにあざらしを見つめてきた。
「俺も好き。だからね、何でも言ってほしい」
足を止め、抱き締めてくる白熊の胸に、頬を寄せるあざらし。温もりがひどく落ち着いて、なんだか泣きたくなってきた。
「……あなたがいないと、淋しいです」
「……何か、買わない? 離れていても、淋しくなくなるような、そういうものを」
「……いいですね。せっかくなら、クリスマスの日に探してみましょうか」
「思い出に強く残りそうだね」
ぽつりぽつりと語り合いながら、しばらく二人はそうして、抱き締め合っていた。
窓際の一番後ろの席、白熊の席だ。彼はまだ椅子に座っており、スマホを操作している。どことなく気の緩んだ顔から、おそらくはあざらしと連絡を取っているのだろう。
今日は一緒に白熊の祖母の店に行くと、昨日話していた。どこかで待ち合わせて向かうはずだ。恥ずかしげもなく手を繋いで……なんて考えて、斑鳩の頬に熱が溜まった。
一目惚れしたんだろうな、というのは、見ていれば分かった。
初対面の時、あざらしとぺんぎんの対応に少しだが差があった。あざらしに話し掛けるたびに、声に甘みがあって、こいつマジかと二度見したのをよく覚えている。
それからも、自然とあざらしが自分の隣に来るように誘導し、さりげなくあざらしに近付く輩を遠ざけていた。幼馴染みの執着心が、斑鳩は見ていて気恥ずかしかった。
恋愛よりも、日常が楽しい。
斑鳩はそんな感じなので、恋愛事をぶっこまれると、どぎまぎして、頭がまともに回らない。当分は縁遠くていいと思っている。
それなのに白熊は、自ら飛び込んで行って、外堀を埋めて、ついには、欲しいものを手に入れた。そのガッツには僅かに称賛の気持ちを抱く。
末永く幸せに。
あざらしといる時の白熊は、これまで見たどの白熊よりも幸せそうだから、その幸せが長く続いたらいいと、幼馴染みは思うのだった。
◆◆◆
あざらしから手を繋ぎ、二人は海を眺めながら歩いていく。
「明日から冬休みだね」
「もうそんな季節なんですね、なんだかあっという間です」
「……来年の今頃は、俺も忙しいかもな」
「……」
「あざらし君との時間はたくさん作るつもりだから、心配しないでね」
「無理はしないでくださいね?」
もちろんと言って微笑む白熊に、ちくりとあざらしの胸は痛んだ。
来年に三年生となる白熊。当然のことながら、あざらしよりも先に卒業する。
将来的に一緒に暮らそうと約束しているが、一年、白熊のいない場所に通うことになるのかと思うと、一抹の淋しさを覚えた。
ぺんぎんがいるし、もしかしたら後輩ができるかもしれない。それでもきっと、ここに白熊がいたら、なんて想像を自分はするんだろう。楽しければ楽しいほどに。
楽しいことも、何もかも、白熊と共有していきたい。
最後の最後までは許していないが、白熊に自分の肌をある程度知られたことで、色々と吹っ切れたあざらし。白熊への想いも、強くなった気がする。
重ねた指に、力を込めた。
「あざらし君?」
「……好きです」
そう口にして、微笑んでみせたが、何故だか白熊は心配そうにあざらしを見つめてきた。
「俺も好き。だからね、何でも言ってほしい」
足を止め、抱き締めてくる白熊の胸に、頬を寄せるあざらし。温もりがひどく落ち着いて、なんだか泣きたくなってきた。
「……あなたがいないと、淋しいです」
「……何か、買わない? 離れていても、淋しくなくなるような、そういうものを」
「……いいですね。せっかくなら、クリスマスの日に探してみましょうか」
「思い出に強く残りそうだね」
ぽつりぽつりと語り合いながら、しばらく二人はそうして、抱き締め合っていた。



