アドベントカレンダー2025  白熊君とあざらし君の日々

 白熊の祖母との抱擁を終えると、白熊によって二階の白熊達の部屋に誘導されたあざらし。その後は落ち着くまで白熊に抱き締められ、落ち着いてからは白熊と共に読書をし、夕食を三人で食べた後はのんびりとテレビを観ていた。
 あざらしがここに来る前に抱いていた緊張はいくらか和らいでおり、リラックスした表情で過ごしていたせいか、こっそり白熊が安堵していたのだが、あざらしは一切気付いていない。
 そうして、ある程度の時間になると順番に風呂に入る。白熊の祖母・あざらし・白熊の順に入ることになり、風呂から上がったあざらしが白熊達の部屋に戻ると、少し驚いてしまった。
 本棚で区切られた白熊のスペース。一人で寝る分には十分だが、二人で寝るのは狭さを感じる。あざらしとしては、どちらかが鮫島のスペースで寝るのかと思っていたが、白熊の考えは違ったようだ。
 布団が敷かれており、その隣に、寝袋があった。

「俺が寝袋を使うから、布団で寝てね」

 断る暇もなく、白熊は風呂に行ってしまう。
 布団と寝袋の距離が近い、隙間がない、なんて思いながら見つめている内に、あざらしの頬は熱くなっていった。
 布団の上でいくらか茹だった後、思い出したようにリュックからある物を取り出し、それを凝視した。
 白熊宛の恋文だ。
 お泊まりの時に渡そうねと約束していたもの。どのタイミングで渡すことになるのだろうかと、時間の許す限り、眺め続けていた。

「──お待たせ」

 そうしている内に、後ろから話し掛けられた。あざらしは肩を跳ねさせ振り返ると、ドライヤーを済ませた後と思われる、風呂上がりの良いにおいをさせた白熊がそこにいた。
 当たり前のようにあざらしの傍に座り込んで、あざらしが持っているものを覗き込み、それが手紙であると分かると、嬉しそうに笑った。

「待っていて」

 一度立ち上がると机に向かい、そこから何かを手に取って戻ってくる。そして再び白熊は布団の上に腰を降ろし、あざらしに差し出してきたのは、一通の手紙だった。

「交換しよう」
「は、はい」

 白熊に手紙を渡し、白熊からも受け取る。

「お互いに背中を向けて、見る?」

 きっとあざらしに配慮してくれたのだろう。あざらしは頷き、白熊に背を向けて、若干震えてきた手で中身を取り出していく。
 便箋一枚に書かれた、あざらしへの恋文。緊張を覚えながら、あざらしは読み進めていった。

『あざらし君は遠慮がちな所があるよね。俺や周りの人に、すごい気を遣ってくれている。そんな優しいあざらし君が好きだけど、もっとわがままを言ってくれてもいいんだよ。というか、俺が聞きたい。たまにはあざらし君に振り回されてみたい。
 あざらし君のお願いなら何でも引き受けるから、何でも言って。
 あざらし君がしたいことは何でも一緒にしてみたいし、何か食べたいものがあれば一緒に食べようよ。本だって、読みたいものがあれば探すよ。その後、本の感想を聞かせてもらえると嬉しいな。
 あざらし君と一緒に、楽しい時間をたくさん共有したいんだ。欲張りな男でごめんね、それくらい君のことが好きです』

 文字を追いながら、頭の中では白熊の声で再生される。優しくて、ほんのりと低い、大好きな声。
 胸に温かいものが広がる。白熊と一緒にいるようになってから時折あったことだけど、恋人になってからは、日増しに火力が上がっている気がした。
 もう一度最初から読み直した後、丁寧に便箋を封筒に仕舞い、枕の傍に置いておいた。そして、ゆっくりと後ろを振り返ると、白熊の丸まった背が目に入る。まだ読んでいる途中なのだろう。
 いつもであれば、白熊が読み終わるのを静かに待つのだが、この時のあざらしは少し、いやかなり、気分が高揚していた。
 普段はしないような行動を取ってしまう。

「白熊先輩っ」

 後ろから、白熊の背に抱き付いた。驚いたのか、白熊の身体が強張ったのを、あざらしは感じ取る。
 わがままを言ってほしいと、言ってくれた。なら、これも、許されるだろうか。

「……好き、です」

 恋人の身体にくっついて、想いを伝える。
 たまにはこういうことをしても、いいんじゃないか。
 後のことなんて、まるで考えていなかった。

「……あっ」

 白熊の身体が動き出し、気を遣って、離れようとしたあざらし。──全ては、瞬きの間に行われた。
 肩を押され、布団の上に仰向けに倒れ込む。電灯が眩しいと思ったら、白熊の顔が覗き込んできた。逆光で彼の顔はよく見えない。

 ものを考えられたのは、そこまで。
 後はもう、白熊にされるがまま──気付いた時には、十二月二十日になっていた。