スクールバッグ以外に、リュックを背負ってあざらしは登校していた。リュックの中には泊まるのに必要なものを詰めており、恋文も忘れずに仕舞っている。
授業が一つずつ終わっていくごとに、緊張が高まっていくあざらし。白熊の祖母の家には何度も訪れているというのに、夜を過ごすことになるのは初めてだから、何か不手際を起こさないかと、授業中は少し上の空になってしまった。
昼休みになるとぺんぎんと共に白熊達の教室に行く。今日も白熊と斑鳩だけだ。何となく白熊の顔を見られなくて視線を逸らしていたが、用意された椅子に座った瞬間に、手首を掴まれる。
「あざらし君、どうかした?」
「……び、びっくりした」
「あ、ごめんね」
白熊の手があざらしの手首から離れていき、ほっと吐息を溢すが、心臓の鼓動は速いままだ。
レジ袋からおにぎりを取り出す時のあざらしの手付きは硬く、ぺんぎんや斑鳩にも心配される始末。
「おい、平気かあざらし」
「取り敢えずお茶飲めってー」
「へ、平気です」
慌ててお茶を飲めば噎せてしまった。
白熊に背を撫でられ、安心すると共に、身体が緊張で熱くなっていく。
結局、持ってきたおにぎりは食べられず、白熊に食べてもらった。
「体調大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「……今日、やめとく?」
「それは嫌です!」
反射的に拒絶すれば、少し白熊は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、授業が全部終わったら、迎えに行くから」
「……待ってます」
◆◆◆
ここ数日と同じく、あざらしを迎えに来てくれた白熊。
いつもと違うのは、向かう先が白熊の祖母の家だということ。
「今日はみーちゃん、南極先輩の所に泊まるって」
「僕のせいで」
「勉強したいだけみたいだから、気にしない気にしない」
ほら、と手を差し出され、その手を取れば、いつものように指を絡め取られた。
相変わらず、あったかい。少しだけ気持ちが落ち着いた。
恋人繋ぎをしたまま、校舎を出て、街を歩く。商店街、住宅街を抜けて、海の傍に来た。白熊の祖母が営むおにぎり屋は、海沿いにある。
遠くから波の音を耳にしながら、白熊が色々と話し掛けてくる。
「一人の帰り道って寒いんだけど、あざらし君と手を繋いでいるとあったかさしかないよ」
「僕も、白熊先輩と手を繋いでいるとあったかいです」
「いつもこうならいいのにな」
「すみません、僕の住んでいる家が反対方向で」
「それは仕方ないよ。……ねえ、いつかさ……」
そこで言葉を止めた白熊が不思議で、あざらしが彼を見れば、笑みを引っ込め、真剣な表情をしている白熊がそこにいる。
「一緒に住まない?」
「……っ」
「おばあちゃんが一人になったら心配だから、おばあちゃんと同居になるけど」
「……むしろ、僕がおばあさんと一緒に暮らしてもいいんですか?」
「おばあちゃんもみーちゃんも、俺の好きにしたらいいって言ってくれてる。もちろん未来の話で、どうなるかは分かんないけどさ、俺は、ずっと君と一緒にいたいよ」
「……未来の話」
白熊と一緒にいられたら、どれだけいいだろう。ついこないだ、そのように考えたばかりだ。冗談のように言っていたが、本気で考えていたのか。──自分との未来を。
「……っ」
目頭が熱くなる。自分のことを自分以上に考えてくれている人がいるのは、やはり、言葉にできないほどの嬉しさを感じる。
こういう時、何て言えばいいんだろうと思いながら、繋がる指に力を込めた。
「白熊、先輩」
「うん」
「……ふ、不束者ですが、よろしくお願いします」
「……! ありがとう!」
むしろお礼を言うべきは自分だというのに、瞬きの間に抱き締められて、何も言えなくなる。
「今日のお泊まりは、一緒に暮らす時の為の練習ってことで、気楽にしてよ!」
「どっ、努力します」
練習、そう言われると、少しだけ肩の力が抜けた。
これから何度も繰り返していくであろう、白熊との日々。その練習と思えば、ようやく楽しさが込み上げてくる。
白熊を抱き締め返し、その熱を感じる。
──ああ、この人が好きだ。
そんな風に気付けば思っていた。
◆◆◆
予定より少し遅れて祖母の店に着いたが、彼女は温かくあざらしを迎えてくれた。
「てふちゃんの、未来のお嫁さん。いや、お婿さんかしら」
「……っ!」
ぼふん! と音が出そうなほどに、急速に顔が赤くなるあざらし。そんな彼を祖母は抱き締めてきて、あまりの柔らかさと温もりに、さっきは堪えられた涙が出てきてしまった。
「……きょ、今日は、よろしく……」
「まあまあ。今日と言わず、いつでもいらっしゃい。待ってるからね」
優しく背中を撫でられると、ああ、やはり白熊の祖母だなと思って、しばらくあざらしの涙は止まらなかった。
授業が一つずつ終わっていくごとに、緊張が高まっていくあざらし。白熊の祖母の家には何度も訪れているというのに、夜を過ごすことになるのは初めてだから、何か不手際を起こさないかと、授業中は少し上の空になってしまった。
昼休みになるとぺんぎんと共に白熊達の教室に行く。今日も白熊と斑鳩だけだ。何となく白熊の顔を見られなくて視線を逸らしていたが、用意された椅子に座った瞬間に、手首を掴まれる。
「あざらし君、どうかした?」
「……び、びっくりした」
「あ、ごめんね」
白熊の手があざらしの手首から離れていき、ほっと吐息を溢すが、心臓の鼓動は速いままだ。
レジ袋からおにぎりを取り出す時のあざらしの手付きは硬く、ぺんぎんや斑鳩にも心配される始末。
「おい、平気かあざらし」
「取り敢えずお茶飲めってー」
「へ、平気です」
慌ててお茶を飲めば噎せてしまった。
白熊に背を撫でられ、安心すると共に、身体が緊張で熱くなっていく。
結局、持ってきたおにぎりは食べられず、白熊に食べてもらった。
「体調大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「……今日、やめとく?」
「それは嫌です!」
反射的に拒絶すれば、少し白熊は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、授業が全部終わったら、迎えに行くから」
「……待ってます」
◆◆◆
ここ数日と同じく、あざらしを迎えに来てくれた白熊。
いつもと違うのは、向かう先が白熊の祖母の家だということ。
「今日はみーちゃん、南極先輩の所に泊まるって」
「僕のせいで」
「勉強したいだけみたいだから、気にしない気にしない」
ほら、と手を差し出され、その手を取れば、いつものように指を絡め取られた。
相変わらず、あったかい。少しだけ気持ちが落ち着いた。
恋人繋ぎをしたまま、校舎を出て、街を歩く。商店街、住宅街を抜けて、海の傍に来た。白熊の祖母が営むおにぎり屋は、海沿いにある。
遠くから波の音を耳にしながら、白熊が色々と話し掛けてくる。
「一人の帰り道って寒いんだけど、あざらし君と手を繋いでいるとあったかさしかないよ」
「僕も、白熊先輩と手を繋いでいるとあったかいです」
「いつもこうならいいのにな」
「すみません、僕の住んでいる家が反対方向で」
「それは仕方ないよ。……ねえ、いつかさ……」
そこで言葉を止めた白熊が不思議で、あざらしが彼を見れば、笑みを引っ込め、真剣な表情をしている白熊がそこにいる。
「一緒に住まない?」
「……っ」
「おばあちゃんが一人になったら心配だから、おばあちゃんと同居になるけど」
「……むしろ、僕がおばあさんと一緒に暮らしてもいいんですか?」
「おばあちゃんもみーちゃんも、俺の好きにしたらいいって言ってくれてる。もちろん未来の話で、どうなるかは分かんないけどさ、俺は、ずっと君と一緒にいたいよ」
「……未来の話」
白熊と一緒にいられたら、どれだけいいだろう。ついこないだ、そのように考えたばかりだ。冗談のように言っていたが、本気で考えていたのか。──自分との未来を。
「……っ」
目頭が熱くなる。自分のことを自分以上に考えてくれている人がいるのは、やはり、言葉にできないほどの嬉しさを感じる。
こういう時、何て言えばいいんだろうと思いながら、繋がる指に力を込めた。
「白熊、先輩」
「うん」
「……ふ、不束者ですが、よろしくお願いします」
「……! ありがとう!」
むしろお礼を言うべきは自分だというのに、瞬きの間に抱き締められて、何も言えなくなる。
「今日のお泊まりは、一緒に暮らす時の為の練習ってことで、気楽にしてよ!」
「どっ、努力します」
練習、そう言われると、少しだけ肩の力が抜けた。
これから何度も繰り返していくであろう、白熊との日々。その練習と思えば、ようやく楽しさが込み上げてくる。
白熊を抱き締め返し、その熱を感じる。
──ああ、この人が好きだ。
そんな風に気付けば思っていた。
◆◆◆
予定より少し遅れて祖母の店に着いたが、彼女は温かくあざらしを迎えてくれた。
「てふちゃんの、未来のお嫁さん。いや、お婿さんかしら」
「……っ!」
ぼふん! と音が出そうなほどに、急速に顔が赤くなるあざらし。そんな彼を祖母は抱き締めてきて、あまりの柔らかさと温もりに、さっきは堪えられた涙が出てきてしまった。
「……きょ、今日は、よろしく……」
「まあまあ。今日と言わず、いつでもいらっしゃい。待ってるからね」
優しく背中を撫でられると、ああ、やはり白熊の祖母だなと思って、しばらくあざらしの涙は止まらなかった。



