昨日、先生に雑用を頼まれたとかで、遅くやってきた白熊と斑鳩。二人が来たことで、あざらしとぺんぎんは無事におにぎりを食べられたが、一人、白熊は納得しない。
『もっと長くあざらし君と過ごしたかった! というか、あざらし君を独占したい!』
『ど、独占』
『なら、明日は二人で食えばいいじゃん』
『それだ』
鮫島からの一言に白熊は全力で乗っかり、さっそくあざらしに明日は二人で食べようと誘って、断るなんて選択肢に存在しないあざらしは了承した。
それで、今日の昼休み。
授業が終わるなり、大急ぎであざらしの教室に来た白熊。あざらしはまだ教科書などを片付けている最中だった。あざらし君、と呼ばれて振り返れば、そこには愛おしい恋人の姿があるのだ、あざらしの顔は綻んだ。
……あざらしの前に座る男子は、白熊の顔を見て青い顔をしたが、特に何も言ってこなかったから、白熊もあざらしも話を振らない。
あざらしは手早く片付けをし、おにぎりの入ったレジ袋を机に置くとコートを着て、レジ袋を手に取り白熊の元に駆けた。
「白熊先輩!」
「あざらし君!」
ぎゅっと抱き締め合うと、すぐに離れ、互いの指を絡めて目的地に急ぐ。昼休みは油断するとあっという間に終わってしまう。急がねば。
向かうのは、先週も二人で来た、校舎の端にある非常階段。今日も落ち葉一つなく綺麗に片付けられていた。二人は揃ってそこに座る。こないだは距離を空けようとしたが、今回は最初からくっついて座った。
コートを着ていても、風が冷たく寒さを感じていた。だが、白熊にくっついていると、寒さよりも温かさを感じる。白熊の肩にもたれたくなったが、それはさすがに迷惑だろうからと、あざらしはやめておいた。
「寒さも本格的になってきたね。あざらし君、週明けは学校休んでいたくらいだし、あんまり無理しないでね」
「ありがとうございます。白熊先輩のおかげであったかいので大丈夫です。それに、熱があったのは……」
「あったのは?」
「……電話が来る前に言われた、白熊先輩の言葉を考えていたら、自然と出てしまって」
「……熱が出るほど考えてくれてたんだ、ごめんと言うべきか、ありがとうと言うべきか」
考え込む白熊に、あざらしは慌てた。
「あ、いえ、気にしないでください!」
「学校休ませちゃったし、責任感じるな」
「えっ、それは……その……もう、白熊先輩とお付き合いをして解決したので、全然その、大丈夫なので!」
「そう?」
「はい!」
白熊は嬉しそうに微笑むと、自然とあざらしの肩に自分の頭をもたれさせた。
あざらしは目を見開き、慌てて口を開く。
「しっ、白熊先輩!」
「嬉しい事実だよね、俺とあざらし君が付き合ってるの」
「……はい。僕なんかを好きになってくれて、ありがとうございます」
「僕なんか、とは何さ。君は俺の大事な恋人だよ。そんな人をなんか呼びだなんて、あざらし君でも許さないよ」
「……許さなかったら、何をします?」
白熊と過ごしてきた中で、怒られたり、怒鳴られたり、なんてされたことはなく、そんな姿を想像することもあざらしには難しかった。
許さなければ、何をされるのか。
白熊は少し考えた後、にっこりと笑う。
「何をされたい?」
「ええっ、僕が決めるんですか」
「いいよ、決めても」
「そう言われると、難しいですね」
あざらしは頬に手を添えて考えてみるが、ピンと来るものがない。
早く答えないといけないと、目に見えて焦っていくあざらしを、可愛いものを見るような目で眺めた後、しろくまはあざらしの耳元に口を寄せた。
「──真面目な所が可愛い」
「へっ!」
「表情がコロコロ変わるのが可愛いけれど、笑顔が一番好き」
「白熊先輩っ!」
「あざらし君が僕なんか、とか言ったら、俺が君の好きな所を、俺が満足するまで言う、ってことにしよう」
「それは……恥ずかしい、ですよ」
「はい決定! だから、僕なんかとか言っちゃ……でも、俺が楽しいな。ううん、どうしよう」
「もう……」
頬を膨らませるあざらしを愛おしそうに眺め、白熊はその頬にキスを一つした。目を見開いたあざらしは顔を赤く染めていき、そんな彼に可愛いと一言告げて、白熊は持ってきたレジ袋の中からおにぎりを取り出した。今日は五目炊き込みご飯のようだ。
あざらしも自身のレジ袋からおにぎりを取り出す。鮭の混ぜ込みおにぎりにした。二人はそのままおにぎりを口に運ぶ。鮭と米の旨味が口内に広がっていき、あざらしは花が咲いたように顔を綻ばせる。
「そんなに美味しいんだ、それ」
「白熊先輩と食べるので、余計に」
「嬉しいこと言ってくれるな……。まだある?」
「もう何個か」
「俺の、一個あげるから、一個ちょうだい」
「うわ……! いいんですか、ありがとうございます!」
互いにおにぎりを交換すると、一個目をすぐに食べ終わって、二個目に手を付ける。一口食べた瞬間に、あざらしの胸を中心として、あたたかいものが広がっていく。
「やっぱり、白熊先輩のおにぎり、美味しいです」
「ありがとう。あざらし君のおにぎりも美味しいよ」
「僕のは買ったものですが」
「そう? それでも美味しいけど……そうだな、あざらし君が作ってみたものも食べたいな」
へ? とあざらしは声を上げて白熊を見ると、何か悪戯を思いついた子供みたいな顔をしている。
「明日さ、うち来る?」
「……ご迷惑じゃ」
「みーちゃんは南極先輩と図書館行くから大丈夫、全然迷惑じゃない」
だからさ、来てよ。
あざらしは迷いつつ、予定もないし、家で一人でいるよりは、と考え、最終的には頷いた。白熊のテンションが上がったのは言うまでもない。
『もっと長くあざらし君と過ごしたかった! というか、あざらし君を独占したい!』
『ど、独占』
『なら、明日は二人で食えばいいじゃん』
『それだ』
鮫島からの一言に白熊は全力で乗っかり、さっそくあざらしに明日は二人で食べようと誘って、断るなんて選択肢に存在しないあざらしは了承した。
それで、今日の昼休み。
授業が終わるなり、大急ぎであざらしの教室に来た白熊。あざらしはまだ教科書などを片付けている最中だった。あざらし君、と呼ばれて振り返れば、そこには愛おしい恋人の姿があるのだ、あざらしの顔は綻んだ。
……あざらしの前に座る男子は、白熊の顔を見て青い顔をしたが、特に何も言ってこなかったから、白熊もあざらしも話を振らない。
あざらしは手早く片付けをし、おにぎりの入ったレジ袋を机に置くとコートを着て、レジ袋を手に取り白熊の元に駆けた。
「白熊先輩!」
「あざらし君!」
ぎゅっと抱き締め合うと、すぐに離れ、互いの指を絡めて目的地に急ぐ。昼休みは油断するとあっという間に終わってしまう。急がねば。
向かうのは、先週も二人で来た、校舎の端にある非常階段。今日も落ち葉一つなく綺麗に片付けられていた。二人は揃ってそこに座る。こないだは距離を空けようとしたが、今回は最初からくっついて座った。
コートを着ていても、風が冷たく寒さを感じていた。だが、白熊にくっついていると、寒さよりも温かさを感じる。白熊の肩にもたれたくなったが、それはさすがに迷惑だろうからと、あざらしはやめておいた。
「寒さも本格的になってきたね。あざらし君、週明けは学校休んでいたくらいだし、あんまり無理しないでね」
「ありがとうございます。白熊先輩のおかげであったかいので大丈夫です。それに、熱があったのは……」
「あったのは?」
「……電話が来る前に言われた、白熊先輩の言葉を考えていたら、自然と出てしまって」
「……熱が出るほど考えてくれてたんだ、ごめんと言うべきか、ありがとうと言うべきか」
考え込む白熊に、あざらしは慌てた。
「あ、いえ、気にしないでください!」
「学校休ませちゃったし、責任感じるな」
「えっ、それは……その……もう、白熊先輩とお付き合いをして解決したので、全然その、大丈夫なので!」
「そう?」
「はい!」
白熊は嬉しそうに微笑むと、自然とあざらしの肩に自分の頭をもたれさせた。
あざらしは目を見開き、慌てて口を開く。
「しっ、白熊先輩!」
「嬉しい事実だよね、俺とあざらし君が付き合ってるの」
「……はい。僕なんかを好きになってくれて、ありがとうございます」
「僕なんか、とは何さ。君は俺の大事な恋人だよ。そんな人をなんか呼びだなんて、あざらし君でも許さないよ」
「……許さなかったら、何をします?」
白熊と過ごしてきた中で、怒られたり、怒鳴られたり、なんてされたことはなく、そんな姿を想像することもあざらしには難しかった。
許さなければ、何をされるのか。
白熊は少し考えた後、にっこりと笑う。
「何をされたい?」
「ええっ、僕が決めるんですか」
「いいよ、決めても」
「そう言われると、難しいですね」
あざらしは頬に手を添えて考えてみるが、ピンと来るものがない。
早く答えないといけないと、目に見えて焦っていくあざらしを、可愛いものを見るような目で眺めた後、しろくまはあざらしの耳元に口を寄せた。
「──真面目な所が可愛い」
「へっ!」
「表情がコロコロ変わるのが可愛いけれど、笑顔が一番好き」
「白熊先輩っ!」
「あざらし君が僕なんか、とか言ったら、俺が君の好きな所を、俺が満足するまで言う、ってことにしよう」
「それは……恥ずかしい、ですよ」
「はい決定! だから、僕なんかとか言っちゃ……でも、俺が楽しいな。ううん、どうしよう」
「もう……」
頬を膨らませるあざらしを愛おしそうに眺め、白熊はその頬にキスを一つした。目を見開いたあざらしは顔を赤く染めていき、そんな彼に可愛いと一言告げて、白熊は持ってきたレジ袋の中からおにぎりを取り出した。今日は五目炊き込みご飯のようだ。
あざらしも自身のレジ袋からおにぎりを取り出す。鮭の混ぜ込みおにぎりにした。二人はそのままおにぎりを口に運ぶ。鮭と米の旨味が口内に広がっていき、あざらしは花が咲いたように顔を綻ばせる。
「そんなに美味しいんだ、それ」
「白熊先輩と食べるので、余計に」
「嬉しいこと言ってくれるな……。まだある?」
「もう何個か」
「俺の、一個あげるから、一個ちょうだい」
「うわ……! いいんですか、ありがとうございます!」
互いにおにぎりを交換すると、一個目をすぐに食べ終わって、二個目に手を付ける。一口食べた瞬間に、あざらしの胸を中心として、あたたかいものが広がっていく。
「やっぱり、白熊先輩のおにぎり、美味しいです」
「ありがとう。あざらし君のおにぎりも美味しいよ」
「僕のは買ったものですが」
「そう? それでも美味しいけど……そうだな、あざらし君が作ってみたものも食べたいな」
へ? とあざらしは声を上げて白熊を見ると、何か悪戯を思いついた子供みたいな顔をしている。
「明日さ、うち来る?」
「……ご迷惑じゃ」
「みーちゃんは南極先輩と図書館行くから大丈夫、全然迷惑じゃない」
だからさ、来てよ。
あざらしは迷いつつ、予定もないし、家で一人でいるよりは、と考え、最終的には頷いた。白熊のテンションが上がったのは言うまでもない。



