てるてる坊主のおかげか(本当に作った)、ダンスのおかげか(本当に踊らされた)、空は晴れ渡っていた。
 晴れていたら二年生の昇降口で待ち合わせと約束していたので、あざらしとぺんぎんは揃ってそこに向かう。

「南極先輩は来ますかね」
「鮫島先輩が決めたことだよ? 絶対連れてくるって」
「南極先輩に会うのも久しぶりですね」

 名も知らぬ生徒達の横を通り過ぎ、二年生の昇降口に辿り着くと、既にそこには鮫島と南極の姿があった。
 鴉の濡れ羽を思わせる黒く長い髪を髪紐で縛った鮫島と、プラチナゴールドに染めた髪を短く刈り上げた南極。どちらも背筋をぴんと伸ばし、出入り口の傍に立っている。
 鮫島は手に大きなレジ袋を持っており、二人は何かを話しているようだったが、あざらし達に気付くと、鮫島が手を振ってきた。

「よお、一年坊主共!」
「お待たせしました!」
「そんな待ってねえよ。丁寧な奴だよな、まったく」

 二人が鮫島の近くまで来ると、あざらしの方へすっと、手を頭に向けて伸ばされる。あざらしは無意識に横にずれて、頭を触られるのを拒んだ。

「……あ、すみません」
「一途でけっこう」

 鮫島はがはは、と笑いながら、隣の南極の背中を叩き、南極の身体は折れ曲がって、床に崩れ落ちてしまった。

「鮫島、痛い」
「大袈裟なやっちゃなー。弱めにやったっつの」
「加減というものを、ちゃんと理解しろ」
「はいはいよー」
「……上機嫌だな、鮫島先輩」

 ぼそっとぺんぎんに話し掛けられ、こくこくとあざらしは何度も頷いた。
 白熊達の授業はまだ終わらないのか、なかなか来ない。
 五分待っても姿が見えないから、鮫島はスマホを取り出して、素早く指を動かした後、また懐に戻した。

「先に中庭行くぞ」
「え、でも」
「メッセージ送ったから大丈夫だろう。ほら、行くぞ」

 鮫島が歩き出すと、南極も動き出す。あざらしはぺんぎんの顔を見たが、やれやれと言いたげな顔で、三年生達の後ろをついていく。四人中三人が動いてしまえば、あざらしも留まるわけにはいかない。後ろを一瞬振り返り、あざらしも駆け出した。

◆◆◆

 中庭の、花壇の傍。鮫島はそこを選び、持ってきたブルーシートを敷いていく。二個用意していたのか、もう一つのブルーシートは南極に敷かせていた。

「ほら、座れ座れ」

 共に敷き終わると、鮫島がそのように促し、南極は無言でブルーシートの上に座って、懐からおにぎりを取り出して食べ始めた。俵型だから、白熊の祖母の店で買ったのだろう。鮫島も南極の隣に腰を降ろして、レジ袋からおにぎりを出して食べ始める。
 ぺんぎんが先に動き、三年生達が座っていない方のブルーシートに座ったので、あざらしもぺんぎんの隣に腰を降ろした。持ってきていたおにぎりを手にして、包装を剥がそうとして、その手を止める。

「あざらし、食わねえの?」

 ぺんぎんに話し掛けられ、はい……と言いながら、自分達が来た道に視線を向けた。
 白熊達の姿は、まだ見えない。

「先に食っていいぞ、先輩命令だ」

 鮫島に言われても、あざらしの手は動かない。
 皆で食べるのは楽しい。それでも、やっぱり──そこに白熊もいなければ、駄目なのだ。
 もう少し待ちます、と言って、あざらしは白熊達を待った。

「……従兄弟の一方通行じゃなくて、本当に良かったよ」

 鮫島はそう言うと、おにぎりを持っていない方の手でスマホを取り出し、目にも止まらぬ早さで指を動かしていった。そしてスマホを仕舞うと、またおにぎりを食べ出した。

「何個か買ってるんだろう、一個くらいならいいんじゃね?」

 ぺんぎんにそう言われても、あざらしは首を横に振った。

「一緒に食べたいので」
「……そっか。じゃあ、おれも待とうかなー」
「ぺんぎん君は食べていていいですよ」
「いーの、待つよ」
「……ありがとうございます」

 おにぎりを手に持ちながら、あざらしとぺんぎんは白熊達を待つ。三年生達はばくばく食べて、あっという間に平らげてしまった。
 南極はブルーシートの上で猫のように丸まり、静かになる。ちらりと南極の姿を見た後、鮫島が一年生二人の元に近寄っていく。

「てふのさ、どこが好き?」
「えっ」
「付き合えると思えた要因って何?」
「えっと……」
「鮫島先輩、踏み込み過ぎっすよー」

 話に入り込みながら、そっとぺんぎんがあざらしと鮫島の間になるよう移動する。盾ができたことで少しほっとしたあざらしは、問われたことに対する返事を考えた。
 どこが好きか、それと……。
 頬に手を添えて考えた後、ぽつりぽつりと、言葉を溢していく。

「僕が話す時に待ってくれる所、笑顔で見守ってくれる所、僕の意思を尊重してくれる所、何かあれば守ってくれる所、手があったかい所、それから……」
「あれ、意外と出るな。じゃあそっちはいいや。何で付き合おうと思った?」
「……白熊先輩に、その、想いを伝えられたので」
「断ることもできたわけじゃん? 何で受け入れたわけ?」
「……それ、は」

 断るなんて選択肢がなかった。
 込み上げてくる嬉しさに、自分の想いを自覚した。

「……白熊先輩に好きって言ってもらえて、やっと、自分の気持ちに気付いて、僕も伝えたくなったんです。白熊先輩が……好き、です」
「……流されてってわけでもないんだな。がははっ! ──これからも従兄弟をよろしくな!」

 自分の太ももを叩いて、鮫島は南極の隣へと戻っていった。
 その背を見送りながら、あざらしは自分の胸を押さえる。心臓の鼓動が速い。質問に緊張したというのもあるし、自分の気持ちについて整理ができたことで、よりいっそう、白熊への想いを自覚する。
 白熊が、好き。
 口に出しても、心の中で言っても、頬に熱が溜まる。
 好き。──好き。

 白熊が、好き。

 ──あざらしの耳には入っていないが、鮫島が隣に来ると、ぼそっと南極が呟いた。
 ブラコンめ、と。

「従兄弟にも使うのか、それ。……別にいいけど」