あざらしとぺんぎんがいつものように白熊達の教室に行くと、珍しい光景を目にすることになった。
白熊と斑鳩が白熊の席に集まっている、あざらし達が座る椅子が用意されている、そこまではいつも通りだが、そこに──鮫島の姿もある。
夏休み明けから徐々に同好会の集まりに来ることが少なくなり、冬の寒さが強くなった辺りからはほとんど姿を見ることがなかったのに。
鮫島が一方的に喋り、白熊が微笑みを浮かべて話を聞き、その横で斑鳩が疲れたような顔をしている。あざらしとぺんぎんが近付いていくと鮫島はすぐに気付いたようで、手を上げて声を掛けてきた。
「お兄様って呼んでもいいぞー」
「え?」
「呼ばなくていいからね、あざらし君」
ワシは本気だ、と不満げに溢す鮫島に、もう、と言いながら、白熊はあざらしとぺんぎんに座るよう手で促した。二人は揃って椅子に腰を降ろす。
白熊・あざらし・ぺんぎん・鮫島・斑鳩の順に、歪な扇状になっている。何があろうと、白熊の隣はあざらしで固定だ。
あざらしはおにぎりの準備をしながら、鮫島に話し掛けた。
「鮫島先輩がいるの珍しいですね」
「ずっと勉強漬けだからな、休ませてくれよ。──祝い事もできたことだしな」
「……?」
首を傾げながら、えびピラフのおにぎりを口へと運ぶあざらし。一口分が口内に入った所で、鮫島が切り出した。
「てふと付き合い始めたんだろう?」
「んふっ!」
「あざらし君っ、大丈夫っ?」
驚きに少し噎せてしまったあざらしの背中を撫でながら、鮫島に向けて白熊は口を開いた。
「付き合ってるけどさ、あざらし君に確認しなくても、何度も俺に話をせがんできたんだから分かるでしょう? あざらし君びっくりしちゃったじゃん」
「可愛い従兄弟の思い込みの線を潰したかったんだよ」
「……あ、ありがとうございます、白熊先輩。もう平気です」
「みーちゃんがごめんね、ゆっくり食べてね」
心配そうに自分を見てくる白熊に、自然とあざらしの頬が緩んでくる。撫でられている背中も、触れられた箇所からどんどん温かさが広がっていく。
それを生暖かい目でぺんぎんと斑鳩が見ているが、白熊とあざらしは気にしない。鮫島は鮫島で、満面の笑みを浮かべていた。
「相思相愛みたいでいいな! ワシも恋人作るかな!」
「一番大切な時に揉め事起こすのはやめなよ」
「何で揉め事起こす前提なんだよ、てふ」
「……鮫島先輩、自分の胸に手を当てた方がいいぞ」
「斑鳩まで!」
主に鮫島が騒ぎながら、会話を楽しむ先輩三人を見て、仲がいいなと思いながら、またおにぎりを食べていくあざらし。
賑やかな食事はやはり楽しい。それが信頼できる人達であれば尚更に。
ちらりと白熊に視線を向けると、すぐにあざらしに気付いたようで、優しく微笑んできた。そして、机の下から手を差し出される。
「……っ」
触れれば温かいと知っている。嫌というほどに知っている。その温もりに、ひどく安心することも。
そんな簡単に触れていいものかと迷うあざらしだが、白熊の手がいつまでも引っ込まないから、そっと、自身の手をそこに重ねた。
優しく掴まれ、包まれる。……温かい。
白熊は片手でおにぎりを食べながら、鮫島や斑鳩と話し続けている。あざらしも彼に倣い、片手でおにぎりの残りを食べ進めていった。
「なんか今日は賑やかで楽しいな、あざらし」
「え、あ、うん」
いきなりぺんぎんに話し掛けられてびっくりしたが、ぺんぎんとも楽しさを共有していたと分かると、余計に心が踊る。
「南極先輩もいたらもっと楽しかったかもしれませんね」
「んー。でも、静かな人だからな、そんな変わんないかもよー」
「それでも、大勢で食べるのは、楽しいです」
「──そうか? じゃあ、明日は連れてくるわ」
あざらし達の会話が耳に入ったか、鮫島がそう口を挟んできた。白熊も混ざってくる。
「そうしたら、机をもう一個か二個くっつけようか。人が多くなると狭くなるしね」
「なら、隣の奴にも声掛けないとだな。つか、教室じゃなくて食堂でも良くねえか?」
「食堂は混んでるからなあ」
白熊と斑鳩がそのように話し始めると、ならこうしようと、ぱんと手を叩きながら鮫島が言う。
「──中庭で食おう。レジャーシート持ってきて、それ敷いてさ」
楽しそうに語る鮫島に、白熊は疑問を口にした。
「でもみーちゃん、雨が降ったらどうするの?」
「そん時は屋上付近の階段の踊り場に集まれば良くね?」
「人いそうじゃない?」
「ああ言えばこう言う」
おいあざらし、と鮫島に声を掛けられ、聞き役に徹していたあざらしはびっくりしてしまった。何ですか、と答えれば、にいっと笑みを浮かべて鮫島は語り出す。
「てるてる坊主作っとけ。先輩命令だ」
「あざらし君、そんなことしなくてもいいよ」
「い、いえ。楽しそうなので、作ってみます」
「そう? ……じゃあ、俺も作ろうかな」
きゅっと、握られた手にほんのり力が加えられる。
ちょっと迷った末に、あざらしも握り返すと、白熊の微笑みが増した気がした。
「なら、てふとあざらしがてるてる坊主を作って、斑鳩とぺんぎんが雨が降らないようダンスを踊ると。はい決定」
「何でそうなんだよ」
「鮫島先輩ー。おれ、踊るの苦手ですー」
「先輩命令だっての。なんとかしろー」
楽しい同好会の時間は、チャイムが鳴るまで続いた。
白熊と斑鳩が白熊の席に集まっている、あざらし達が座る椅子が用意されている、そこまではいつも通りだが、そこに──鮫島の姿もある。
夏休み明けから徐々に同好会の集まりに来ることが少なくなり、冬の寒さが強くなった辺りからはほとんど姿を見ることがなかったのに。
鮫島が一方的に喋り、白熊が微笑みを浮かべて話を聞き、その横で斑鳩が疲れたような顔をしている。あざらしとぺんぎんが近付いていくと鮫島はすぐに気付いたようで、手を上げて声を掛けてきた。
「お兄様って呼んでもいいぞー」
「え?」
「呼ばなくていいからね、あざらし君」
ワシは本気だ、と不満げに溢す鮫島に、もう、と言いながら、白熊はあざらしとぺんぎんに座るよう手で促した。二人は揃って椅子に腰を降ろす。
白熊・あざらし・ぺんぎん・鮫島・斑鳩の順に、歪な扇状になっている。何があろうと、白熊の隣はあざらしで固定だ。
あざらしはおにぎりの準備をしながら、鮫島に話し掛けた。
「鮫島先輩がいるの珍しいですね」
「ずっと勉強漬けだからな、休ませてくれよ。──祝い事もできたことだしな」
「……?」
首を傾げながら、えびピラフのおにぎりを口へと運ぶあざらし。一口分が口内に入った所で、鮫島が切り出した。
「てふと付き合い始めたんだろう?」
「んふっ!」
「あざらし君っ、大丈夫っ?」
驚きに少し噎せてしまったあざらしの背中を撫でながら、鮫島に向けて白熊は口を開いた。
「付き合ってるけどさ、あざらし君に確認しなくても、何度も俺に話をせがんできたんだから分かるでしょう? あざらし君びっくりしちゃったじゃん」
「可愛い従兄弟の思い込みの線を潰したかったんだよ」
「……あ、ありがとうございます、白熊先輩。もう平気です」
「みーちゃんがごめんね、ゆっくり食べてね」
心配そうに自分を見てくる白熊に、自然とあざらしの頬が緩んでくる。撫でられている背中も、触れられた箇所からどんどん温かさが広がっていく。
それを生暖かい目でぺんぎんと斑鳩が見ているが、白熊とあざらしは気にしない。鮫島は鮫島で、満面の笑みを浮かべていた。
「相思相愛みたいでいいな! ワシも恋人作るかな!」
「一番大切な時に揉め事起こすのはやめなよ」
「何で揉め事起こす前提なんだよ、てふ」
「……鮫島先輩、自分の胸に手を当てた方がいいぞ」
「斑鳩まで!」
主に鮫島が騒ぎながら、会話を楽しむ先輩三人を見て、仲がいいなと思いながら、またおにぎりを食べていくあざらし。
賑やかな食事はやはり楽しい。それが信頼できる人達であれば尚更に。
ちらりと白熊に視線を向けると、すぐにあざらしに気付いたようで、優しく微笑んできた。そして、机の下から手を差し出される。
「……っ」
触れれば温かいと知っている。嫌というほどに知っている。その温もりに、ひどく安心することも。
そんな簡単に触れていいものかと迷うあざらしだが、白熊の手がいつまでも引っ込まないから、そっと、自身の手をそこに重ねた。
優しく掴まれ、包まれる。……温かい。
白熊は片手でおにぎりを食べながら、鮫島や斑鳩と話し続けている。あざらしも彼に倣い、片手でおにぎりの残りを食べ進めていった。
「なんか今日は賑やかで楽しいな、あざらし」
「え、あ、うん」
いきなりぺんぎんに話し掛けられてびっくりしたが、ぺんぎんとも楽しさを共有していたと分かると、余計に心が踊る。
「南極先輩もいたらもっと楽しかったかもしれませんね」
「んー。でも、静かな人だからな、そんな変わんないかもよー」
「それでも、大勢で食べるのは、楽しいです」
「──そうか? じゃあ、明日は連れてくるわ」
あざらし達の会話が耳に入ったか、鮫島がそう口を挟んできた。白熊も混ざってくる。
「そうしたら、机をもう一個か二個くっつけようか。人が多くなると狭くなるしね」
「なら、隣の奴にも声掛けないとだな。つか、教室じゃなくて食堂でも良くねえか?」
「食堂は混んでるからなあ」
白熊と斑鳩がそのように話し始めると、ならこうしようと、ぱんと手を叩きながら鮫島が言う。
「──中庭で食おう。レジャーシート持ってきて、それ敷いてさ」
楽しそうに語る鮫島に、白熊は疑問を口にした。
「でもみーちゃん、雨が降ったらどうするの?」
「そん時は屋上付近の階段の踊り場に集まれば良くね?」
「人いそうじゃない?」
「ああ言えばこう言う」
おいあざらし、と鮫島に声を掛けられ、聞き役に徹していたあざらしはびっくりしてしまった。何ですか、と答えれば、にいっと笑みを浮かべて鮫島は語り出す。
「てるてる坊主作っとけ。先輩命令だ」
「あざらし君、そんなことしなくてもいいよ」
「い、いえ。楽しそうなので、作ってみます」
「そう? ……じゃあ、俺も作ろうかな」
きゅっと、握られた手にほんのり力が加えられる。
ちょっと迷った末に、あざらしも握り返すと、白熊の微笑みが増した気がした。
「なら、てふとあざらしがてるてる坊主を作って、斑鳩とぺんぎんが雨が降らないようダンスを踊ると。はい決定」
「何でそうなんだよ」
「鮫島先輩ー。おれ、踊るの苦手ですー」
「先輩命令だっての。なんとかしろー」
楽しい同好会の時間は、チャイムが鳴るまで続いた。



