「作戦、上手くいってよかったな」
「うーん、あれが上手くいったって言っていいのかは分からないけど……」

お昼休み。大樹と自販機に飲み物を買いに行く。会話の内容は、大賀美くんのことだ。

「でも、前よりは仲良くなれてるんだろ?」
「うん。出会った時に比べたら、ずっと距離が近づいた気はするんだ」
「なら良かったじゃん。まあ大賀美と仲良くなれたのは、羊の人柄もあるんだろうけど」
「僕の人柄って?」
「お前のぽわんとした空気感っていうの? そういうのに、アイツも絆されたんじゃねーのかな」
「ぽわんって……それは褒めてくれてるんだよね?」
「めっちゃ褒めてるって! 羊のそういうとこ、俺も好きだし」

大樹は二ッと歯を見せて笑う。
僕も大樹の真っ直ぐに思いを伝えてくれるところとか、友達思いで優しいところがすごく好きだ。良い友達を持てて幸せだなって思う。

「僕も大樹が好きだよ。大賀美くんと仲良くなれたのも、大樹がいつも話を聞いてくれたり、相談に乗ってくれたおかげだよ。ありがとう」
「はは、んな改まって言われると照れるけど、どういたしまして。……お、噂の人物のお出ましだな」

大樹が笑いながら目を向けた先。歩いていた大賀美くんは、僕に気づくと進行方向を変えて、こっちに真っ直ぐ向かってくる。

「大賀美くん!」
「……昼、一緒に食うだろ」
「うん、一緒に食べよう」

こうして大賀美くんの方から、声をかけてくれるようになった。今までは僕が勝手に屋上に押し掛けていただけだけど、お昼にも誘ってくれる。僕はそれが、すごく嬉しい。

「あ、そうだ。よかったら大樹も一緒に食べようよ」
「え、マジ? 俺もいいの?」
「うん、もちろん!」
「でもそこの後輩くんは、全然良くなさそうな顔してるけどな」

大樹が大賀美くんを見て、やれやれ、という風に力なく笑う。
大樹の言う通り、大賀美くんはすごく不機嫌そうな顔をしていた。大樹のことは知っているはずだけど、きちんと話したことはないだろうし、やっぱり緊張しちゃうかな。

「まぁ、俺は羊と同じクラスだし、日中は一緒にいれるからな。仕方ないから、昼の時間はオオカミくんに譲ってやるよ」
「……おおかみじゃねぇ。大賀美だ」

大賀美くんはガルルッと唸り声が聞こえてきそうな怖い顔で、大樹を睨んでいる。

「そ、それじゃあ行こうか! 大樹、また後でね!」
「おう、じゃあな」

険悪な雰囲気が漂い始めていることに気づいた僕は、慌てて二人の間に入る。大賀美くんの手を引いて、すっかりお馴染みの場所になっている屋上に向かった。


***

「はい、大賀美くんもよければ食べて」
「……ああ」

持ってきていたパンを大賀美くんに手渡す。だけど返ってきた声には覇気がない。

「大賀美くん、どうかした?」
「……俺も、お前と同い年に生まれたかった」
「え?」
「そしたら、もっと長い時間、一緒に過ごせるだろ」

どうやら大賀美くんは、さっき大樹に言われたことを気にしているらしい。

――というか大賀美くんは、僕ともっと一緒にいたいって、そう思ってくれているんだ。
どうしよう、嬉しい。大賀美くんの突然のデレに、胸の奥がくすぐったくなる。

「あのね、僕もこの前、同じことを思ったんだ。大賀美くんと同い年だったら楽しいだろうなぁって。修学旅行とかも一緒に行けてたのかな、とかね」
「……さっき一緒にいたやつ。仲がいいんだろ?」
「大樹のこと? うん、一年の時から同じクラスだったから」
「修学旅行、アイツと一緒に行動するのか」
「どうだろ? まだ決まってないけど、多分そうなると思うよ」
「……寝る部屋も、一緒になるのか?」
「うーん、そうなるのかな?」

答えれば、大賀美くんの顔がどんどん険しくなっていく。
戸惑っていたら、大賀美くんは無言で僕の肩に寄りかかってきた。柔らかい金色の髪が首筋にあたって、少しくすぐったい。……あ、根元が黒くなってる。やっぱり大賀美くんは髪を染めてるんだ。金髪もすごく綺麗で似合っているけど、黒髪の大賀美くんも格好いいんだろうな。

「なぁ、聞いていいか?」
「うん、どうしたの?」
「……お前は、俺のことが好きなんだよな?」

突然の質問にきょとんとしてしまったけど、素直に答える。

「うん、好きだよ」
「お前は……どうして俺のことを好きになってくれたんだ?」

そろりと顔を上げた大賀美くんの目が、不安そうに揺らいでいる。

「俺は今まで、一人で生きてきた。物心ついた時には父親はいなかったし、ガキの時から、母親もろくに家に帰ってこないような奴だった。自分以外の誰も信用できないと思ってた。信じて裏切られるくらいなら……一人でいた方がずっと楽だと思ってたんだ。だから全部、遠ざけてきた」

――はじめて聞く、大賀美くんの過去の話。それは想像以上に重たくて、寂しいものだった。幼少期に一人ぼっちで過ごしている大賀美くんを想像したら、それだけで胸が痛いくらいに苦しくなる。

「俺も、お前のことは好きだ。だけど、お前みたいな奴がどうして俺なんかを好きになってくれたのか……理解できない」

そう言った大賀美くんは、熱を帯びた目を伏せて、寂しそうな顔で口を噤んだ。

「ねぇ、大賀美くん」
「……何だよ」
「あのね、大賀美くんは覚えてないかもしれないけど……大賀美くんがこの高校に入学してくる前に、僕たちは出会ってるんだよ」