おにぎりと読書を楽しめる『おにぎりの白熊堂』では、誰でも気軽に書ける交流ノートを置いている。
 たとえば、読んだ本の感想や、おすすめの本の紹介、ネット小説のことも書いたりできた。
 元々は置いていなかったが、あざらしの提案で置かれることになった。

『もちろん、白熊さんと読んだ本の感想を話し合う時間が一番大切ですよ? でもそれとは別に、色んな人に、大好きな本についておすすめしたり、語ったりしたいなって……』

 白熊的に、そう口にあざらしが可愛かったようで、すぐに導入することになり、客の間でもこれはいいと受け入れられ、あっという間に二冊目が必要になった。
 気付いた時にはノートは五冊目になり、これまでの四冊も、自由に読めるようになっている。
 白熊が買ってきたノートの表紙には、二足で立っている可愛らしい動物の白熊が描かれていた。絵の上手い白熊が描いているのだ。
 ノートに記入する者は、文字だけで書いたり、絵も交えたり、中には写真を貼ったりする者もいた。ぱんぱんに膨らんだノート達は、あざらしの、そして白熊の宝物になっている。

 今夜も閉店後、白熊とあざらしはカウンター席に並んで座り、嬉しそうにノートを眺めるのだった。

「あの分厚い本、ファンタジー作品だったんですね。本屋さんに行くたびに気になっていたんですよ、どんな物語なのかなって」
「あの分厚さはもはや凶器だね」

 その本は文庫本ではなくハードカバーのようだ。

「なんか魔法の書みたいな見た目ですよね。そういう、見た目とかにもこだわっているんでしょうか」
「魔法使いの物語みたいだから、本当にそうかもしれないね。ネタバレにも配慮されたこの感想を読むと、なんだか俺も読みたくなってきたな」
「……白熊さん。あの本、一人で持つの大変だと思うんですよ」

 白熊の服をそっと掴みながら、あざらしがそう言うと、白熊の口角が上がる。

「持って帰るのも、読み進めるのも、確かに一人だと大変だね。あざらし君も読みたい?」
「……読みたいです」
「じゃあ、今度の定休日に買いに行こうか」
「……っ! ぜひ!」
「……ああ、もう……」

 嬉しそうな恋人の姿が可愛らしかったので、白熊はあざらしの方へと身を寄せ、彼の身体を抱き締めた。
 驚きに声を上げるあざらしの頭を撫でながら、白熊は彼の耳元に口を寄せる。

「楽しみだね、本も、お休みも、一緒に読むのも」
「……全部、楽しみです」

 優しく抱き締め返され、しばし二人はそのままでいた。
 もう閉店し、店には二人しかいない。彼らの邪魔をする者はいないのだ。好きなだけそうして、彼らなりの夜を過ごした。