冬期講習の帰り、自転車を漕いでいると塾の先生に言われた言葉が頭を回り出した。
――木内はもっと上を目指したい気持ちはないのか? 努力すればいまより上の学校に行けるぞ。
先生の言葉に嬉しさはなかった。俺がたとえ落ちたとしても先生はなにもしてくれないのに、という乾いた思いしか出てこない。そうやって変にやる気を出させた結果が、一年前の兄の姿だ。あんなに頑張っていたのに、って周りから思われるくらいなら俺はほどほどでいい。ほどほど頑張って、そこそこの学校に行って、楽しければそれでいい。兄みたいに惨めな思いなんてしたくない。
――俺、努力って嫌いなんですよね。なんかダサいじゃん。
俺の答えに、先生は何も言わなかった。いや、何かを言いかけたのかもしれないけど、振り返らずに部屋を出た。俺は兄みたいになりたくない。願書提出まであと一か月もないのだ、いまさら変なことを言い出さないでほしい。
なにも変えるつまりなんてないのに、モヤモヤとした苦さと、例えのようのないイライラが体の中を満たす。思わずぎゅっと手に力を込めれば、キキッとブレーキ音が響いた。顔を上げれば、春休みまでよく来ていた公園の入り口があった。
こんな気持ちのまま家に帰りたくない。家族に、とくに兄に八つ当たりなんてしたら最悪すぎる。はあ、とゆっくり息を吐き出し、冬の冷えた空気を肺に送る。自転車を停め、外灯の弱い明かりを見上げる。夏であればまだ日が沈む時間帯ではないが、いまの空はすでに夜の色が濃くなっている。漏れる息は白く、手袋をしていない指先はひどく冷たい。こんな時間にこの公園に来たのは初めてかもしれない。
当然公園には誰もいない、と思ったのだけど。
「――御影?」
――木内はもっと上を目指したい気持ちはないのか? 努力すればいまより上の学校に行けるぞ。
先生の言葉に嬉しさはなかった。俺がたとえ落ちたとしても先生はなにもしてくれないのに、という乾いた思いしか出てこない。そうやって変にやる気を出させた結果が、一年前の兄の姿だ。あんなに頑張っていたのに、って周りから思われるくらいなら俺はほどほどでいい。ほどほど頑張って、そこそこの学校に行って、楽しければそれでいい。兄みたいに惨めな思いなんてしたくない。
――俺、努力って嫌いなんですよね。なんかダサいじゃん。
俺の答えに、先生は何も言わなかった。いや、何かを言いかけたのかもしれないけど、振り返らずに部屋を出た。俺は兄みたいになりたくない。願書提出まであと一か月もないのだ、いまさら変なことを言い出さないでほしい。
なにも変えるつまりなんてないのに、モヤモヤとした苦さと、例えのようのないイライラが体の中を満たす。思わずぎゅっと手に力を込めれば、キキッとブレーキ音が響いた。顔を上げれば、春休みまでよく来ていた公園の入り口があった。
こんな気持ちのまま家に帰りたくない。家族に、とくに兄に八つ当たりなんてしたら最悪すぎる。はあ、とゆっくり息を吐き出し、冬の冷えた空気を肺に送る。自転車を停め、外灯の弱い明かりを見上げる。夏であればまだ日が沈む時間帯ではないが、いまの空はすでに夜の色が濃くなっている。漏れる息は白く、手袋をしていない指先はひどく冷たい。こんな時間にこの公園に来たのは初めてかもしれない。
当然公園には誰もいない、と思ったのだけど。
「――御影?」



