「それでね、朝起きたらウッドデッキの上にこんな大きなキャベツが三つも置かれてたんだけど、誰が持ってきてくれたのかわからなくて。なっちゃん、心当たりない?」

 その日、あたしは教室でお弁当を食べながら、なっちゃんとそんな会話をしていた。

 朝起きたら新聞受けに大根が刺さっていたり、玄関先にカボチャが置かれている……なんてことは、この島ではよくあることだ。

 けれど、誰がくれたのかわからないことが多く、もらった側としてはすごくモヤモヤするのだ。

「うーん……今の時期はどこの畑も春キャベツだらけだし、ちょっとわからないかなぁ」

 真向かいに座るなっちゃんは桜色のごはんを箸で持ち上げ、首を傾げていた。

「そうよねー。野菜もらえるのはありがたいんだけど、せめて名前書いといてほしいわ」

「あはは、一理あるかもね。今度おすそ分けする時は、うちも名前書こうかな」

 天井を見上げながらため息まじりに言うと、なっちゃんはクスクスと笑っていた。

「あ、おすそ分けといえば、お父さんが渡したいものがあるらしいよ。学校が終わったら、うちに寄ってくれる?」

 その笑顔を見ていると、思い出したように彼女が言う。

「もちろんいいけど……まさか、キャベツ?」

「さすがに違うと思うよ。うちの畑、キャベツは育ててないし」

 思わず顔をひきつらせるも、なっちゃんは苦笑しつつ、ミニコロッケを口に運んだ。

 そ、そうよね。正直、これ以上キャベツもらっても食べきれないわよ。

 少しだけ安心しつつ、あたしもおかかが乗っかったご飯を頬張ったのだった。

 そして放課後になると、約束通りさくら荘へと足を運ぶ。

「それじゃ、ちょっと待っててね」

 木製の門を開けて、なっちゃんは母屋へと入っていく。

 さくら荘はその敷地の中に民宿の建物とは別に母屋があり、なっちゃんたち家族はそっちで暮らしているのだ。

「サヨの姉御、こんちゃーっす」

 門の近くにある石塀に背中を預けていると、足元から声がした。

 視線を送ると、そこには一匹の猫がいた。

「久しぶりねー。元気?」

 この子はハナグロさん。さくら荘で飼われている子で、一見みゅーちゃんに似ているけど、名前の通り鼻の周りに黒い模様があるのが特徴だ。そしてサイズが桁違いに大きい。

「たまにはしまねこカフェにも顔を出しなさいよー?」

「テツローの旦那やナツミお嬢がたくさんゴハンくれるっすから。足を伸ばす必要もなくなってまして」

「それならいいけど、トリコさんが寂しがってるわよー。対等に話せる奴がいないって」

「そいつはありがたい限りっすね。それなら、また近いうちに……」

 ハナグロさんとそんな会話をしていると、母屋の扉が開いて、ビニール袋を持ったなっちゃんが出てきた。

「おまたせー。これ、お父さんが朝獲ってきた魚だよ」

 差し出された袋の中を確認すると、そこには特徴的な顔をした魚が何匹も入っていた。

「わー、メバルだー。これ、本当にもらっちゃっていいの?」

「うん。あまり大きくないから、唐揚げにするといいよー」

 ニコニコ顔で言うなっちゃんにお礼を言って、あたしはその袋を受け取る。

 彼女の言う通り、今夜はメバルの唐揚げがいいかもしれない。

 皮はサクサク、身はジューシーな唐揚げを想像して、思わずお腹が鳴りそうになった。

「それじゃ、また明日だね。ハナグロさんもおいでー。ごはんにするよー」

「ナツミお嬢、お世話になりまっす」

 笑顔のなっちゃんに手を振って、あたしはさくら荘を後にする。

 ヘコヘコしながら彼女についていくハナグロさんが、妙に印象的だった。