〇ミルクホールの前(昼)
おしゃれな佇まいの小さな店。
手を繋いで立っている琥珀と陽琉。
ごくりと唾を飲み込む陽琉。
陽琉、琥珀に顔を向ける。
陽琉「い、行きましょう。琥珀」
琥珀「ああ。お供するとも」
おかしそうに笑う琥珀。
緊張しつつ、ミルクホールの扉に手をかける陽琉。
〇同・中(昼)
店内に足を踏み入れる陽琉と琥珀。
女給が陽琉たちに微笑みかける。
女給「いらっしゃいませ」
陽琉「は、はひ」
緊張で口の回らない陽琉。
女給「こちらへどうぞ」
陽琉「あ、あ、ありがとうございます……」
女給についていく陽琉と琥珀。
案内された座席に座る。
ぺこりと軽く会釈をして去っていく女給。
ぎゅっと胸元を握る陽琉。
陽琉、バッと琥珀に顔を向ける。目はきらきら。
陽琉「琥珀! 入れた! 琥珀!」
琥珀「俺は人間に感知されないのだから、お前は今一人として見えているんだ。あまり俺に話しかけない方がいいのでは?」
そう言いつつ、優しく笑っている琥珀。
陽琉「だって夢だったんだもん!」
興奮している陽琉。
くつくつと笑う琥珀。
琥珀「なあ陽琉」
陽琉「はい?」
琥珀「お前、金は持っているのか?」
ポカンとする陽琉。
一拍置いてざあっと青ざめる。
陽琉「お金……」
吹き出す琥珀。
琥珀「期待を裏切らない娘だな」
琥珀、懐から取り出した財布から小銭をテーブルに置く。
琥珀「いじわるして悪かった。持ってないだろうと思ってたよ」
陽琉「分かってて焦らせるようなこと言ったんですか!?」
琥珀「ああ。今謝っただろう」
むっとしてもごもごと口を動かす陽琉。
笑っている琥珀。
陽琉、興味深そうに琥珀の顔を見る。
陽琉「琥珀、お金も持ってるんですね」
琥珀「当たり前だろう。俺はここで生きているんだぞ」
さも当然のように言う琥珀。
陽琉(ここで普通に生きているのに、人とは関われない……それってすごく……)
続く言葉を考えるのを打ち切るように頭をぶんぶん振る陽琉。
琥珀「どうした」
陽琉「な、なんでもないです」
微笑む陽琉。
陽琉、琥珀の手を握っている自分の手に力を込める。
×××
女給が陽琉達の座席のそばで注文を取っている。
陽琉「えっと、ミルクとシベリア……あと、こ、コーヒーもください」
キョトンとした顔で陽琉を見る琥珀。
陽琉「ひ、人を待っていて。すぐ来ると思うので一緒に出しちゃってください」
目が泳いでいる陽琉。
吹き出す琥珀。
返事をし、軽く頭を下げてから去っていく女給。
にやっと笑う琥珀。
琥珀「俺もミルクが飲みたかった」
ショックが全面に顔に出る陽琉。
また大きく吹き出す琥珀。
むっと頬を膨らませる陽琉。
陽琉「こ、琥珀! 勝手に頼んで悪かったけど、そんなに笑わなくても……」
琥珀「いや、すまない。コーヒーも好きだ。ありがとう。いやしかし、はは」
まだくすくすと笑っている琥珀。
陽琉、ぷいとそっぽを向く。
琥珀、笑いながら顔を隠す。
琥珀「悲しいほどに眩しい」
琥珀の呟きは誰の耳にも届かない。
×××
テーブルにシベリアとミルク、コーヒーが置かれる。
目を輝かせる陽琉。
陽琉「わあ……」
優しく陽琉を見ている琥珀。
女給「お連れ様、早く来られるといいですね」
にっこりと陽琉に微笑む女給。
陽琉、一瞬目を見開いた後、控えめに微笑み返す。
陽琉(どうして……どうして琥珀は人と関われないんだろう?)
一礼して去っていく女給。
ちらりと琥珀を盗み見る陽琉。
琥珀、ぼんやりとシベリアを見つめている。
陽琉(聞いていいのかな……)
陽琉、瞬間的に友人に暗いと言われたことやノートをあてにされていることを思い出す。
陽琉(でも、聞かれたくないかもしれない……)
俯く陽琉。
琥珀「陽琉」
声をかけられて顔を上げる陽琉。
琥珀「食べないのか」
琥珀、不思議そうに首をかしげている。
陽琉「あ、た、食べる! 食べます!」
わたわたとミルクに口をつける陽琉。
にこっと微笑んでからまたシベリアを見る琥珀。
陽琉「……シベリア、琥珀も半分どうぞ」
琥珀「良いのか」
陽琉「はい」
小さく頷く陽琉。
琥珀「ありがとう。楽しみだ」
微笑む陽琉。
陽琉「片手で割れるかな……」
席を立つ琥珀。
琥珀を見上げる陽琉。
座っている陽琉に近づき、肩を抱く琥珀。
陽琉「こ、こは」
真っ赤になる陽琉。
琥珀「これで両手が使えるだろう」
陽琉「あ、は、はい」
陽琉、慌ててシベリアを二つに割る。
陽琉と手を繋ぎなおし、席に戻る琥珀。
琥珀、ニコニコと割られたシベリアを眺める。
陽琉(今は……聞かなくてもいいかな)
大きな口でシベリアを食べる琥珀。
その様子に笑みがこぼれる陽琉。
〇束樹町・道(昼)
和やかな雰囲気で並んで歩いている陽琉と琥珀。手を繋いでいる。
琥珀をそっとのぞき込む陽琉。
陽琉、琥珀が何を見ているのかつかめない。
陽琉(琥珀はいつも……遠くを見ている気がする)
自分の靴を見つめる陽琉。
〇回想
教室で友人たちと話している陽琉。
友達A「陽琉は……なんかどこ見てんのかわかんないよね」
陽琉、曖昧に笑って流す。
回想終わり
〇束樹町・道(昼)
ゆっくりと顔を上げる陽琉。
相変わらず琥珀の目線はとらえられないまま。
陽琉(琥珀がどこを見てるかわからなくても……私は全然嫌じゃない。むしろ)
ふと琥珀が視線を下げる。
琥珀と陽琉の視線がかち合う。
柔らかく微笑む琥珀。
ときめきと切なさで唇を噛む陽琉。
陽琉(琥珀と似てるなら……すごく嬉しい)
照れくさそうに微笑み返す陽琉。
陽琉(似てるってことにしちゃおう)
一人小さく頷く陽琉。
キョトンと首をかしげる琥珀。
その後男性とぶつかりそうになるが器用に避ける。
陽琉(それから琥珀は……)
再度琥珀を見上げる陽琉。
ぶつかりそうになった男性や、すれ違う人々を慈しむような目で見ている琥珀。
陽琉「琥珀」
陽琉に顔を向ける琥珀。
琥珀「なんだ?」
陽琉「琥珀は、人を見つめる目が本当に優しいですね」
嬉しそうに告げる陽琉。
琥珀「俺が?」
目をしばたたかせる琥珀。
陽琉「はい!」
何度も頷く陽琉。
宙を見て考えるそぶりをする琥珀。
琥珀「お前がそう言うのなら、そうなのかもしれないな」
琥珀、ふっと力を抜いて笑う。
陽琉、胸がいっぱいで涙が出そうで、片手で胸元をぎゅっと握る。
陽琉「琥珀!」
陽琉、片手で素早く涙をぬぐう。
琥珀「なんだ」
陽琉「ちょっと静かなところに行きませんか。色々できるの嬉しいけど、緊張して……」
琥珀「承知した。移動しよう」
自分の方に陽琉を引き寄せる琥珀。
陽琉「わ」
琥珀「疲れていないか。陽琉」
陽琉「だ、大丈夫、です!」
赤くなりながらも笑顔を見せる陽琉。
琥珀「なら良いんだ」
ふわりと微笑む琥珀。
〇束樹山・川辺(昼)
並んで座っている陽琉と琥珀。
陽琉、ぼんやりと頭上を見上げる。
目の端には木々が映り、一面の高い空が広がっている。
陽琉「町はあんなに栄えてるのになあ……」
琥珀「そういうものだよ。いつの世もそうだ」
陽琉「いつの世も……」
陽琉、琥珀の方を見る。
目を伏せている琥珀。
陽琉(聞いても、またはぐらかされそう……)
流れる川に視線を移す陽琉。
陽琉(聞かなくていいって思うのに、聞きたい。でもやっぱり聞きたくない……)
小さくため息をつく陽琉。
陽琉(ずっと琥珀といれば、いつか教えてくれるのかな……このまま、ずっと……)
ゆっくりと目を伏せる陽琉。
暖かく暗い眠りに落ちていくような感覚。
ハッとする陽琉。
陽琉「今のは……」
琥珀「陽琉?」
陽琉「え……?」
琥珀「どうした。青い顔をして」
心配そうな表情の琥珀。
陽琉「い、いえ……」
どきどきと早鐘を打っている陽琉の心臓。
陽琉「なんでもないです……」
ぎゅっと拳を握りしめる陽琉。
陽琉(何か、よくないことを考えたような気がする)
川の流れが先ほどより速くなっている。
おしゃれな佇まいの小さな店。
手を繋いで立っている琥珀と陽琉。
ごくりと唾を飲み込む陽琉。
陽琉、琥珀に顔を向ける。
陽琉「い、行きましょう。琥珀」
琥珀「ああ。お供するとも」
おかしそうに笑う琥珀。
緊張しつつ、ミルクホールの扉に手をかける陽琉。
〇同・中(昼)
店内に足を踏み入れる陽琉と琥珀。
女給が陽琉たちに微笑みかける。
女給「いらっしゃいませ」
陽琉「は、はひ」
緊張で口の回らない陽琉。
女給「こちらへどうぞ」
陽琉「あ、あ、ありがとうございます……」
女給についていく陽琉と琥珀。
案内された座席に座る。
ぺこりと軽く会釈をして去っていく女給。
ぎゅっと胸元を握る陽琉。
陽琉、バッと琥珀に顔を向ける。目はきらきら。
陽琉「琥珀! 入れた! 琥珀!」
琥珀「俺は人間に感知されないのだから、お前は今一人として見えているんだ。あまり俺に話しかけない方がいいのでは?」
そう言いつつ、優しく笑っている琥珀。
陽琉「だって夢だったんだもん!」
興奮している陽琉。
くつくつと笑う琥珀。
琥珀「なあ陽琉」
陽琉「はい?」
琥珀「お前、金は持っているのか?」
ポカンとする陽琉。
一拍置いてざあっと青ざめる。
陽琉「お金……」
吹き出す琥珀。
琥珀「期待を裏切らない娘だな」
琥珀、懐から取り出した財布から小銭をテーブルに置く。
琥珀「いじわるして悪かった。持ってないだろうと思ってたよ」
陽琉「分かってて焦らせるようなこと言ったんですか!?」
琥珀「ああ。今謝っただろう」
むっとしてもごもごと口を動かす陽琉。
笑っている琥珀。
陽琉、興味深そうに琥珀の顔を見る。
陽琉「琥珀、お金も持ってるんですね」
琥珀「当たり前だろう。俺はここで生きているんだぞ」
さも当然のように言う琥珀。
陽琉(ここで普通に生きているのに、人とは関われない……それってすごく……)
続く言葉を考えるのを打ち切るように頭をぶんぶん振る陽琉。
琥珀「どうした」
陽琉「な、なんでもないです」
微笑む陽琉。
陽琉、琥珀の手を握っている自分の手に力を込める。
×××
女給が陽琉達の座席のそばで注文を取っている。
陽琉「えっと、ミルクとシベリア……あと、こ、コーヒーもください」
キョトンとした顔で陽琉を見る琥珀。
陽琉「ひ、人を待っていて。すぐ来ると思うので一緒に出しちゃってください」
目が泳いでいる陽琉。
吹き出す琥珀。
返事をし、軽く頭を下げてから去っていく女給。
にやっと笑う琥珀。
琥珀「俺もミルクが飲みたかった」
ショックが全面に顔に出る陽琉。
また大きく吹き出す琥珀。
むっと頬を膨らませる陽琉。
陽琉「こ、琥珀! 勝手に頼んで悪かったけど、そんなに笑わなくても……」
琥珀「いや、すまない。コーヒーも好きだ。ありがとう。いやしかし、はは」
まだくすくすと笑っている琥珀。
陽琉、ぷいとそっぽを向く。
琥珀、笑いながら顔を隠す。
琥珀「悲しいほどに眩しい」
琥珀の呟きは誰の耳にも届かない。
×××
テーブルにシベリアとミルク、コーヒーが置かれる。
目を輝かせる陽琉。
陽琉「わあ……」
優しく陽琉を見ている琥珀。
女給「お連れ様、早く来られるといいですね」
にっこりと陽琉に微笑む女給。
陽琉、一瞬目を見開いた後、控えめに微笑み返す。
陽琉(どうして……どうして琥珀は人と関われないんだろう?)
一礼して去っていく女給。
ちらりと琥珀を盗み見る陽琉。
琥珀、ぼんやりとシベリアを見つめている。
陽琉(聞いていいのかな……)
陽琉、瞬間的に友人に暗いと言われたことやノートをあてにされていることを思い出す。
陽琉(でも、聞かれたくないかもしれない……)
俯く陽琉。
琥珀「陽琉」
声をかけられて顔を上げる陽琉。
琥珀「食べないのか」
琥珀、不思議そうに首をかしげている。
陽琉「あ、た、食べる! 食べます!」
わたわたとミルクに口をつける陽琉。
にこっと微笑んでからまたシベリアを見る琥珀。
陽琉「……シベリア、琥珀も半分どうぞ」
琥珀「良いのか」
陽琉「はい」
小さく頷く陽琉。
琥珀「ありがとう。楽しみだ」
微笑む陽琉。
陽琉「片手で割れるかな……」
席を立つ琥珀。
琥珀を見上げる陽琉。
座っている陽琉に近づき、肩を抱く琥珀。
陽琉「こ、こは」
真っ赤になる陽琉。
琥珀「これで両手が使えるだろう」
陽琉「あ、は、はい」
陽琉、慌ててシベリアを二つに割る。
陽琉と手を繋ぎなおし、席に戻る琥珀。
琥珀、ニコニコと割られたシベリアを眺める。
陽琉(今は……聞かなくてもいいかな)
大きな口でシベリアを食べる琥珀。
その様子に笑みがこぼれる陽琉。
〇束樹町・道(昼)
和やかな雰囲気で並んで歩いている陽琉と琥珀。手を繋いでいる。
琥珀をそっとのぞき込む陽琉。
陽琉、琥珀が何を見ているのかつかめない。
陽琉(琥珀はいつも……遠くを見ている気がする)
自分の靴を見つめる陽琉。
〇回想
教室で友人たちと話している陽琉。
友達A「陽琉は……なんかどこ見てんのかわかんないよね」
陽琉、曖昧に笑って流す。
回想終わり
〇束樹町・道(昼)
ゆっくりと顔を上げる陽琉。
相変わらず琥珀の目線はとらえられないまま。
陽琉(琥珀がどこを見てるかわからなくても……私は全然嫌じゃない。むしろ)
ふと琥珀が視線を下げる。
琥珀と陽琉の視線がかち合う。
柔らかく微笑む琥珀。
ときめきと切なさで唇を噛む陽琉。
陽琉(琥珀と似てるなら……すごく嬉しい)
照れくさそうに微笑み返す陽琉。
陽琉(似てるってことにしちゃおう)
一人小さく頷く陽琉。
キョトンと首をかしげる琥珀。
その後男性とぶつかりそうになるが器用に避ける。
陽琉(それから琥珀は……)
再度琥珀を見上げる陽琉。
ぶつかりそうになった男性や、すれ違う人々を慈しむような目で見ている琥珀。
陽琉「琥珀」
陽琉に顔を向ける琥珀。
琥珀「なんだ?」
陽琉「琥珀は、人を見つめる目が本当に優しいですね」
嬉しそうに告げる陽琉。
琥珀「俺が?」
目をしばたたかせる琥珀。
陽琉「はい!」
何度も頷く陽琉。
宙を見て考えるそぶりをする琥珀。
琥珀「お前がそう言うのなら、そうなのかもしれないな」
琥珀、ふっと力を抜いて笑う。
陽琉、胸がいっぱいで涙が出そうで、片手で胸元をぎゅっと握る。
陽琉「琥珀!」
陽琉、片手で素早く涙をぬぐう。
琥珀「なんだ」
陽琉「ちょっと静かなところに行きませんか。色々できるの嬉しいけど、緊張して……」
琥珀「承知した。移動しよう」
自分の方に陽琉を引き寄せる琥珀。
陽琉「わ」
琥珀「疲れていないか。陽琉」
陽琉「だ、大丈夫、です!」
赤くなりながらも笑顔を見せる陽琉。
琥珀「なら良いんだ」
ふわりと微笑む琥珀。
〇束樹山・川辺(昼)
並んで座っている陽琉と琥珀。
陽琉、ぼんやりと頭上を見上げる。
目の端には木々が映り、一面の高い空が広がっている。
陽琉「町はあんなに栄えてるのになあ……」
琥珀「そういうものだよ。いつの世もそうだ」
陽琉「いつの世も……」
陽琉、琥珀の方を見る。
目を伏せている琥珀。
陽琉(聞いても、またはぐらかされそう……)
流れる川に視線を移す陽琉。
陽琉(聞かなくていいって思うのに、聞きたい。でもやっぱり聞きたくない……)
小さくため息をつく陽琉。
陽琉(ずっと琥珀といれば、いつか教えてくれるのかな……このまま、ずっと……)
ゆっくりと目を伏せる陽琉。
暖かく暗い眠りに落ちていくような感覚。
ハッとする陽琉。
陽琉「今のは……」
琥珀「陽琉?」
陽琉「え……?」
琥珀「どうした。青い顔をして」
心配そうな表情の琥珀。
陽琉「い、いえ……」
どきどきと早鐘を打っている陽琉の心臓。
陽琉「なんでもないです……」
ぎゅっと拳を握りしめる陽琉。
陽琉(何か、よくないことを考えたような気がする)
川の流れが先ほどより速くなっている。
