○東雲家・本家の和室(質素)
父(玄宗)が上座にあぐら。背後には飾られた真剣
蒼が正座して玄宗と向き合う
蒼「はああ!?」
父親の発言に驚き、目を見開く
蒼「本気で言ってるんですか?」
玄宗「当たり前だろう。こんなことで私は嘘をつかない」
玄宗、湯呑みを置き、蒼を睨む様に見つめる
書類で太った茶封筒を蒼に放り投げる
玄宗「もう諸々の手続きは終わっている。あとはお前が頷くだけだ」
蒼、封筒を拾い、不満げ
蒼「……誰かの尻拭いですか?」
玄宗「そんなところだ。行け」
玄宗、強引に退出させる
廊下。朧が待っている無表情/蒼に視線を向ける

朧「話、終わったんスか?」
蒼「終わらせられたっていうか……まあ、そうだね」呆れた表情
蒼「朧……これから私、幽篁館(ゆうこうかん)で過ごすことになったの。朧はどうする?」しょんぼり
朧「俺はどこにでもついてきますけど。つーか、蒼は俺がいないと色々とダメでしょ?」きょとん
蒼(うわ、当たり前の顔して言う……)蒼の頬が僅かに緩む
蒼「そうだね。色々と、ね」

長い廊下を歩きながら、茶封筒から紙を取り出す
蒼「鬼の情報だけでも見ておこうか」
蒼は隠し撮りのような写真と添えられている言葉を見る

蒼「……赤鬼は、"鬼のリーダー"。"傲慢で自己中"。以上」
朧「え、そんだけ?」蒼の持つ資料を覗き込む
朧「前当主のやる気のなさが見えるな」

蒼は一枚めくって次の資料を見た。
蒼「青鬼……“目立たない。地味”」
朧「存在感薄そう」
蒼「緑鬼……“空気読み”。"優しめ"。雑!」
朧「一番扱いやすそうなやつっスね」
蒼「黄鬼……"小物なのに頭が高い"。"自信過剰"」
朧「一番嫌なタイプ……」
鬼の資料を見終わり二人は苦笑いを浮かべた

蒼「あんまり資料はアテにならないし、幽篁館に行こうか」
長い廊下を歩き、一角に置いてある黒電話の前で立ち止まる
朧「このダイヤル式黒電話で行くらしいっスね」
蒼「そうそう。"幽門電話"ってやつ。特定の番号にダイヤルすれば、転送門が開くの」
蒼は迷うことなく、書類に記載の番号を回す
すると青い光を放ち、幽篁館への転送門へと姿を変えた


○幽篁館・門前(夕刻)
厳重な結界に守られた古い日本家屋。奥深い竹林に囲まれている
蒼「ここが…幽篁館」
茶封筒を片手に、緊張した面持ちで見上げる
無表情で朧が門を開ける
迎えはなく、辺りはしんとしている
蒼「……結構な挨拶ね」ちょっとイラッ
式神で鬼がいる場所を特定してから中へ

○幽篁館・広間
足早に広間へと足を進め、閉め切った襖を勢いよく開ける
蒼「今日から私が指揮を取るから従うように!」気迫のある顔
一瞬だけ静かになり、蒼に視線が集まったがすぐに背を向け話し始める
鬼の数は全部で4人(赤鬼、青鬼、黄鬼、緑鬼)
蒼「チッ、面倒くさいなぁ」
蒼は頭を掻き、こちらを見ない鬼たちの背を見ながらため息を吐く
蒼の様子を見ていた朧は、右足で畳を勢いよく踏みつけた
ドンッ、という音と地響きに目を丸くする鬼たち
朧「今から今後の対応を説明する。話を聞け」

――説明中、一人の鬼が大きな欠伸をする
蒼「そこの赤鬼。話、聞いてる?」
蒼の声を無視して、赤鬼はスマートフォンをいじっている
蒼、にこっと笑う(ちょっと怖い)
蒼「……無視、ね。ふぅん?」
蒼が朧に指示を出す前に、朧が蒼の隣から姿を消す
次の瞬間――赤鬼は顔面を片手で掴む。そのまま床に叩きつけられる
青鬼「なっ…!?この中で一番強い青鬼様が...一瞬でやられた!?」一同驚愕
蒼「説明中なんだから、静かにしてね?」朧を見て呆れ顔
朧「ウス。今度はもう少し静かに倒します」
赤鬼を中庭に放り投げて、また蒼の後ろに待機
鬼たちは朧の睨みに震え上がり、背筋を伸ばし正座


○個室(主の部屋)・夜
今日のノルマを終わらせた蒼は朧の引いた敷布団に寝転がる
蒼「初日からこれかぁ」不機嫌そうにため息を吐きながら
朧「前の主、結構雑な扱いしてたみたいスね」
朧は、玄宗から受け取った茶封筒の書類を真剣な表情で見ながら眉を顰める
蒼「劣悪で手がつけられなくなったから、前の主は逃亡」
蒼「他にやりたがる人はいないし、東雲の血を引いていて、まだ鬼の管理を任されていなかった私に面倒な役が回ってきたんでしょ」
蒼は天井を見つめたまま。普段の強気な面影はない。
朧「いざとなれば俺が締めるんで、気兼ねなく」
蒼「力に関しては本当に頼りにしてるから。明日もよろしくね、朧」微笑み
朧「……ウス」頼られてちょっぴり嬉しくて口角があがる