放課後。西日の差し込む私たちだけしかいない教室で、予定通り勉強会は始まった。もちろん、私が先生役だ。二人に迷惑だけはかけたくなかった。
「○○ちゃん、教えるのすごく上手だね!」「その覚え方、分かりやすい!」 など二人からはかなり好評で、必要とされる「先生役」をまっとうできていたようだ。
けれど、私の頭の中では、昼休みのことがいまだに胸を締めつける。いつもなら常に覚えているはずの年号も、今日は教科書を二度確認して、ようやく伝えられた。そんな余裕のなさを、眼鏡で必死に隠した。
二人には不安の影は映っていないみたいだけれど、この気持ちでこの場にい続けるのは、頭の中が重く、息が詰まるようだ。二人の瞳が輝いているのと対照に、私の視線は床ばかりを見ていた。
——プルルル。
「あ、ごめん、友達から電話。ちょっと抜けるね」
「あ、うん」
不意に静寂を破った。私の心臓が爆発したのかと錯覚してしまった。突然の大きな音。
海虎くんは申し訳なさそうにしながら、廊下へと消えていく。彼の声は、かなり遠くにあるかのようだ。
「問題解き終わったよ。先生、これで合ってる?」
「えっと……うん、正解。河口付近にできる三角州だけど、堆積の条件によって形が変わってくるんだ。教科書のこの写真を見ると、イメージしやすいかも」
「へー。仕組みは同じなのに、こんなにも違うんだね」
「そう。要因によって大きく変わるんだ」
「おお、ためになる!」
「——あの、ごめん……。ちょっと友達から手伝い頼まれたから、僕、今日はここまでで。せっかく教えてくれるっていうのに、ほんとごめん!」
教室に戻ってきた海虎くんは申し訳なさそうにそう言いながら、慌てて勉強道具を片付ける。私は「気にしないで」といいながら青リボンの子に次の問題の解説を続けた。海虎くんは急いでいたのか、机の脚につま先を思いっきりぶつけたようで、痛がるそぶりを見せながら教室を後にしていった。青リボンの子は一人漫才のような出来事に、手で口を隠しながらくすくすと笑っていた。けれど、私の顔はきっと力が抜けたような顔になっている。
「あ、ごめんね、あの子、そういう子だから」
海虎くんが教室から出て、時計の短い針が一周ほど回った後、青リボンの子が私にそう話しかける。もちろん、それぐらいのことは十日間で言われなくとも自然と汲み取ることはできた——彼がお人好しだということは。
「だから、私のことも誘ってくれたんだよね」
今日は風が強いのだろうか、薄いカーテンがまるで命を持つかのように波打っていた。窓側の一番後ろの席。そこで繰り広げられた小さなドラマ。そのドラマは気遣いでもなんでもない。彼の芯のある意思がもたらした。
「きっとね。○○ちゃんが探し物をしていることに、気づいたんじゃないかな。○○ちゃんはこのグループには入れてよかった?」
「うん。見つけてくれてよかった」
迷うことなく即答した。今だに不慣れではあるけれど、間違いなくここに入れてよかったのだけは確かなことだ。
「よかった。じゃあ、○○先生、次はこの問題教えて」
「わかった、任せて」
青リボンの子が次の問題の解説を求めてきた。その問題は「難問」と表記されていたけれど、虹色のパステルカラーのマーカーを使いながら、時間を使い丁寧に解説した。



