夜は、乾パンなどの防災食を食べることになった。まずいとは感じなかったけれど、あまり味や食感を感じなかった。ただ、秀雪くんは「結構いける」と言いながら用意された防災食をきれいに食べつくしていた。
流石に寝るときは部屋を分けてということになったけれど、それまでは二人で保健室にいていいということになった。今日は私が保健室のベッドで夢を見るのだ。
「あれ、これは寝てるわ」
「先生たちも疲れているんだよ」
保健室には安全のためか、先生が一人ついてくれたけれど、電池切れを起こしたのか、目を閉じていびきまでかいていた。普通だったらこの先生はと思うところだが、今の私にとっては好都合だ。一つのベッドに座り、スマホをいじっていた。電話をくれた子に連絡を送ろうかと悩んだが、やはり書いた文字を消してしまう。
「なんだかんだ、あっという間の一年だったな。あと一ヶ月少し経てば二年生だよ。僕らはどこか成長できたのかな」
「たしかに、今日まで五人とはいろいろな思い出もあった。それに、いろいろなことを乗り越えてきた。……二年生になってから、寂しくなるね」
「——僕は、そうだな……。あのさ、さっきの質問する権利、使ってもいいか?」
「たしかに、おわずけ状態だったね。うん、いいよ」
たしかに、私から仕掛けたその質問権を使っていない。先生も寝ている今こそが使用する最後のチャンスなのかもしれない。秀雪くんは少し触るよと言いながら、私のあごをひょいっと持ち上げ、お互いの目がほんの数十センチ先にあるような状態を作り出した。
「——仮にさ、僕たち五人が来年、クラスが違おうと、何かが壊れようと、僕はこの五人という関係を守り抜きたい。もしかしたら、ほとんど忘れてしまうかもしれない。でも、完全には失いたくないんだ。だから、この五人を守るのに協力してくれませんか。これが僕からの質問です」
「そんな大事な質問、私だけにしないでよ」
私だけに聞いたからと言って、それが秀雪くんの望んでいる結果になるとは限らない。でも、私にそういってくれたことは認められた気がした。好きではないけれど、私を認めてくれたことはどことなく嬉しい。秀雪くんは今、何かが壊れようと関係を守り抜きたいと言った。それが具体的には何を指しているのかはわからないけれど、仮に誰かが結ばれようともきっと秀雪くんは誰の手も離すことはないのだろう。
「うん、私からの回答は——もちろんだよ」
「ありがとう」
「じゃあ、私からの質問もいい?」
「うん」
「——秀雪くんはさ、このグループの中で今、誰かのことが好き?」
私が当初質問しようとしたものからほんの少しだけ聞き方を変えた。秀雪くんは少し悩んだように私と目を合わせなくなった。バレバレだなと思った。誰かを好きになるのは決して不思議じゃない。雲一つない快晴でも、次の日にはザーザーと雨が降るように。
「——そうかもな。ただ、僕が誰かを好きであっても他の皆を悲しませることはしない。それだけは約束する」
「面白いことを言うね」
この人なら、大丈夫なんだ。間違った道に進むことはない。私を好きでなくても、不幸にはさせない。
恋のドキドキはだんだんと静まり返った。ただ、今日だけは独占したいという気持ちが離れなくなった。
「ねえ、今日、実はとっても怖かったんだ。一度だけでいいから抱きしめて」
「……そうなのか? そんな子供ぽい奴だったっけ?」
「うん、頑張って隠してたんじゃないかな。私隠すの上手みたい」
「しょうがない奴だな。特別だぞ。誰にも言うなよ」
そんな嘘でだまされてしまう秀雪くんではあるけれど、なぜか信じられる。
私のことを恋人として必要とされなくても、一人の友人として必要とされていることだけでも私に価値を見い出してくれた。
学校でこんなことをしたら普通は場違いだ。でも、今日だけは許してほしい。
こうやって抱きしめると、私の涙を君は見ることができない。顔すらも見ることができない。
——幸せを運ぶ君から、その幸せをほんの少しいただきます。
「こんなもんですよ、人生は」
「どうした急に」
「秀雪くんにはわからなくていいの。ただ、私のことをちゃんとわかる日が来てほしいな」
「それならもっと教えてくれよ、▼▼のこと」
願っても消えない。
一夜の恋が、太陽に照らされるのか、雨で流されるのか私にはまだ知らない。
でも、これで最後でもいいと思えるほどに、秀雪くんのことを抱きしめていた。
恋は残酷だと思う。でも、恋は幸せだと思う。
おやすみなさい。また明日もよろしくね。
バイバイかもしれないね、私の恋は。それでも私はいいんだよ。
「いいよ。教えてあげる。その代わり、とことん付き合ってもらうことになるよ」
「厄介ごとに巻き込まれるのか。それは勘弁してくれ」
「うん、君はいつまでそういう人生を送るのさ。……じゃあ、おやすみ」
「うん、おやすみ」



