五色に溶けた空の色



 大きな大会というのは、予選からこんなにも熱量が必要になるのか。夏大会は二、三年生が主力で、僕らがでる幕はほとんどなかったけれど、今回は違う。二年生中心でパスをつなぎ、ゴールを目指してくれるとはいえ、一年も足を引っ張るわけにはいかないし、チームの一員として、少しでも足を動かなさなければならない。

 予選一試合目は、相手の攻撃を素早く読むことができたことや、風のような彼のゴールに飲み込まれるようなスリーポイントシュートが驚くほどに決まり、十五点差で白星を収めた。

 しかし、二試合目が大きなターニングポイントになる。部長が危惧しているように、相手は県ベスト十六に入ることもある実力を持っており、僕らの高校が勝てたことは一度もない。特に無駄のない鮮やかな連携プレーにより、相手にボールを与える隙をほとんど見せてくれない試合を展開してくる。

 そんな第二試合が、幕を開ける。

 試合前に花梨と一葉の姿は見えたけれど、凛音も来てくれているのだろうか——なんてことを考えてしまったが、試合が始まった瞬間からはゴールを決めること、その一点だけに集中した。

 序盤から、相手は華麗なパス回しで、何度もシュートを放ってくる。決してシュート確率が高い方ではないが、圧倒的な攻めの姿勢に僕らは隙をつく暇すらなかった。いざ、ボールが僕らに回ってきても、ゴール前にいる超人的な身長を持つ壁に阻まれてしまう。相手に点差をなるべく広げられないようにすることだけで精一杯だった。

 あっという間にハーフタイムに入り、休憩時間となる。相手との点差は現在十点差。逆転は不可能ではないが、決して簡単に超えられるものではない。前半の主導権は常に相手チームにあったことを考えると、第三クオーターが山場になりそうだ。

「あそこからのスリーポイントシュート、よく決めたな」

「ありがとよ。××もあの体勢からのパス、かっこよかったぞ」

 僕は肩をポンポンと叩いて感謝を伝える。負けているとはいえ、こうやって活躍を分かち合えることは純粋な楽しさをもたらしてくれる。応援席の方を見ると、ふと三人と目が合った。その他にも同じ学校の人たちが何人か来てくれているみたいだ。僕らは特定の誰かに向けてではなかったけれど、手を振った。三人も手を振り返してくれたが、三人もどっちに振ったのかとか考えてないだろう。ただ、その一瞬の出来事がエネルギー補給にはなり得た。

「よかったな三人来てくれて」

「うん。三人の前でかっこ悪いところは見せられないし、後半はさらにギア上げていくしかないな」

「だな」

 休憩時間は水分補給と部長を中心とした作戦会議の時間に充てられた。部長からは「このままのペースでいくと勝つのは厳しいかもしれないけれど、できるところまで目指そう。今後の糧になるから、もう勝つことができない状況になっても一点でも多く決めろよ」と喝を入れられた。

 第三クオーターが始まる。このクオーターも相手チームに先に点数を入れられてしまったが、相手のファールにより僕らのチームにフリースローの権利が与えられた。風向きを変えるには重要なポイントとなる。

「頼んだ」

 そのフリースローを打つのは僕だ。プレッシャーは感じるが、部長からのその一言を受け、「自分ならできる」と喝を入れながら深呼吸をする。様々な声が飛び交い、誰の声なのかなんて判別することなどもちろんできないけれど、その中に三人の応援の声もきっと含まれているのだと思うと、手に力が籠る。審判からボールが渡され一瞬の勝負が始まる。

 ——××くんなら決められるよ!
 
 幻なのかわからない。でも、僕が一番応援してほしい人に、そういわれた気がする。その声が届いて、すぐに他の声にかき消されてしまった。

 こんな大勢の中、誰か一人の声だけをキャッチできる超人的な力は僕にはない。それでも、その声を頼りに、ボールを宙に放った。

 ボールの動きが、スローモーションのように見える。でも、実際はあっという間の出来事なのだ。

 気づいた時には風を割く音と歓声が上がった。それで入ったとわかった。正直、どこか遠くに行ってしまったんじゃないかと思っていた。だから、もう一度だけ手の感触を調べた。その感触は、確かだった。手のひらに生まれた大量の汗を握り殺して、次へと向かう。

「残り五分!」
 
 最終第四クオーターまで来ると、もうなにも考えることなく無我夢中で試合に臨んだ。自分の中で考えていた作戦なんて実行できるか考えることなどできそうにない。でも、パスをされ渡ってきたボールに触れるたびに、手の感触は段々と強いものとなっていた。シュートが外れようが、僕らの旅は、時間までは誰にも邪魔されない。邪魔をしていいのは、ボールがバンバンと跳ねる大きな音だけだ。
 
「ほい、××!」

「はい」

 僕がタイムを見たとき、残りわずか五秒だった。そんな中、汗で湿ったボールが僕に回ってきた。

 この距離から打つのは、おそらく奇跡でも起こさない限り入らないだろう。

 でも、僕の視界の先には風のような彼が、堂々とした構えで待っていた。このスペースが必然的にも開いている。そしたら考えることは一つしかない。

 最後、おいしいところを渡してあげよう。もちろん、それを無駄にしたって、ここから投げた方が入らないのだから、彼に託した方がよっぽどいい。

 今まで貯めてきたエネルギーを、最後に使い果たし、「おりゃー」と言いながら彼に思いっきりパスをする。

 そのパスを受けると、もう時間がないことを悟った彼は、一直線にゴールの方向に投げた。

 そして、終了のホイッスルの音が轟音のように観客たちを巻き込む。

 まだ入ったのかもわからないのに、僕は楽しかったという感情がこみあげて思わず彼を見ながら微笑した。

 彼の頭上には虹がかかっている——そう思えるほど、幻想的な風景だった。