五色に溶けた空の色





「お疲れさん」

「今日は凛音なんだな。日替わりランチかのごとく、その時によって部活後にお水を差し入れてくれる人が違うよな。女の子の中で順番でも決めてるのか?」

 毎回部活が終わると、グループの女の子がよく差し入れをくれる日々が続いた。もちろん、彼女たちがマネージャーというわけではない。体育館の端に座っていた僕は、凛音から水を受け取ると、蓋を開けて一気に体内へ流し込んだ。ペコッとペットボトルがつぶれるところまで飲むと、それを凛音に一度渡した。

 まだ体育館には練習している人たちが操るボールが、バンバンと心地よく跳ね返る音がする。そして、誰かによって放たれたボールが翼のような音を立て、あっという間に地面に落下する。靴紐をいじりながらでも、ゴールに入ったことはわかってしまう。

「さあ、気まぐれサラダみたいなものだよ。××くんは誰が来てくれると一番嬉しい?」

「……さあ、誰だろうな。ただ、誰でも嬉しいよ」

 一瞬、とある人の顔が浮かんでしまったけれど、それはすぐにかき消されてしまった。あくまで頭の中で浮かんでしまっただけだ、ということで自分の中に押し込んだ。首にかけていたタオルで額の汗を拭きとる。再び凛音からペットボトルをもらって、最後の一滴まで飲み干した。

「相変わらず女の子の扱い下手だね。まあ、私はそれでいいけどね」

「あ、少し髪切った?」

 凛音から皮肉にもそんなことを言われてしまったため、たしか女の子は小さな変化に気づいてくれると嬉しいということをネットで見たことがあると思い、実践してみた。

「切ったの三日前とかだよ、こういうのはそのときに言うの。でも、気づいただけましか……。それより、バスケ部の大会の予選もうすぐだよね。それに文化祭もあるよね。秋も楽しみ!」 
 
「うちのクラスはたしかメイドカフェだよな。それに占いを掛け合わせたものだったけ」

 夏休み前に文化祭のクラスコンセプト自体は決めていた。我がクラスは陽キャ集団が提案した、ド定番を突き進むようだ。メイドカフェとなると、三人も——ということだろうかと少しばかり淡い期待をしてしまう。ちなみに、僕の希望はお化け屋敷だった。

「そうだよ。それより××は、今度のバスケの大会頑張って! いけたら皆で応援に行くからさ。じゃあ、もう一人の所にも行ってきます」

「ああ、ありがとな」

 三年生が引退してから初の大会。中学はバスケ部ではなかったが、小学校時代に遊び時間はよくバスケをしていたこともあってか、自分でいうのもなんだけれど、チームの戦力には一役買っている気がする。そして、これは幸運ととらえるべきか否かはわからないけれど、風のような彼も同じくバスケ部なのだ。彼も中学時代バスケ部ではなかったらしいが、スリーポイントシュートを中心にチームに大きく貢献している。ちなみに僕はレイアップシュートを主戦力としている。

 最近のお気に入りは、部活の帰りに真っ暗闇の中でも光が灯る皆の栄養補給場であるコンビニに立ち寄って、熱々のチキンを買い食いすることだ。ただ、そのコンビニの駐車場が、制服を着たカップルの集会場のようになっているのが唯一の難点だ。男二人が、車止めポールに背を預けて、体を引っ込めるように、一口噛んだだけで肉汁があふれ出てくるチキンを食べているとどこかもどかしくなる。

「なに、ああゆうのに憧れてるのか? 目がいってるぞ」

 そして、風のような彼がこうやっていじってくるのだ。「彼女作れば」という顔をしながら彼もチキンを食べ進める。ただ、僕にはそんな予定もないし、そもそも今はまだこのままで十分だ。僕はお返しに、「お前こそ作れば」ということを顔の筋肉だけを使っていってみたが、なぜだか読まれてしまったらしく、「いなくて悪かったな」と言葉で返されてしまった。

「それよりもうすぐ予選始まるけど、頑張ろう」

「ああ、目指せるところまで目指しますか」

「とはいえ、プレッシャーに勝てるかな……。でも、××はそういうの強そうだよな」

「まあな、本番に強いタイプだし。中学の時にやった劇の主役もノーミスだったし」

 ほぼ同時にチキンを食べ終わると、ごみ箱に袋を捨て、駅へ向かって競争した。まだ完全には夏が過ぎ去っていないじわじわとした熱気を帯びる九月の空気の中、先に駅に着いたのは風のような彼だった。