「あー、楽しかった夏休みも今日で終わりか」
夏休み最終日。ソーダ味のアイス片手に、秀雪くんの家で夏休みの間に撮った写真を眺めながら五人で思い出に浸っていた。初めて異性の家に来たため、緊張からか独り言をぶつぶつ言いながら玄関前であたふたしていた自分のことは今すぐにでも忘れたい。そして、その様子を偶然ドアを開けた秀雪くんに見られたことも今すぐにでも忘れたい。
秀雪くんの部屋はザ・ミニマリストというシンプルな内装だった。しかし、押し入れにはかなり物が詰め込まれているらしい。なので、特徴的なものは見当たらなかったが、強いて言うのであればベッドにあったバスケットボールが描かれた抱き枕だろうか。
「夏祭りも最高だったけど、皆で海に行ったのも楽しかったよな。全員で波に襲われたけど」
海虎くんは海での写真を指さしながらそんな小話をする。
「あ、そんなこともあったね。スイカ割りも初めてしたけど、あれはおもしろかった」
「最後は??ちゃんが思いっきり割ってくれたよね」
水飴の子の話に私も乗っかった。潮風を浴びながら子供みたいに海ではしゃぐ五人の高校生。写真の中の私は、心に溜まっていた泥をすべて波に流したような、きらめく理想の青春を過ごしている眩しい姿だった。一ヶ月前の私が見たら、きっと「これは誰?」と疑うに違いない。
女の子三人で夢中になったケーキバイキング、海虎くんと選んだ夏服。秀雪くんと作った料理。
貴重な夏休みを目一杯過ごした。やりたいことリストには、まだ二重線を引けていない項目がいくつも残っている。 来年も、再来年も、自分勝手な願いかもしれないけれど、この五人で、この光の中にいたい。
ただ、私はこの五人以外にも、大切な時間を共有したい人がいる。そんな人から、メッセージが届く。
『今日の仕事は終わったよ。約束通り、二人で映画を観ようか。駅で待ってるから』
「じゃあ、私、少し早いけど、お先に失礼するね」
「お父さんと映画だっけ。??ちゃん、お父さんと仲いいんだね」
「うん」
わたあめの子が微笑む。そして、私も同じように微笑みながら頷く。あの日以来、お父さんは変わった。仕事一筋だった時間を、私を一番に考えるための時間へと置き換えてくれた。親子という、切っても切り離せない絆を補強している最中なのだ。
そんなお父さんと、今日は映画だ。たしか、内容は離れ離れになった家族が再生していく、今話題のヒューマン映画だったような気がする。
「玄関まで送るよ」
秀雪くんもすっと立ち上がり、玄関まで見送ってくれる。もちろん、あの日の出来事は私たち二人しか知らない。その方がきっと、私たちだけの秘密ってことで、素敵だろう。
「よかったな、当たり前の生活に戻れて」
「私には、どこか贅沢に感じるけどね。……じゃあ、また学校で」
「ああ」
玄関で短い会話を交わし、手を振る秀雪くんに見送られる。弾むような足取りで、駅へ向かった。
待ち合わせまでは少し時間があったので、駅前の雑貨店に立ち寄った。そこで、お父さんへのプレゼントを選んだ。 落ち着いた柄の日傘。八月が終わっても、まだ厳しい残暑は続く。そんな中、お父さんのことだから、私のことを一番に考えてくれて自分のことは忘れてしまいそうだし、せめて熱中症には気をつけて、というそんな些細な理由だった。
とはいえ、私も一度使ってみたいと思い、購入した後に、一度差してみた。容赦ない日差しを柔らかな影に変えてくれる。
日傘を揺らしながら、私は大好きなお父さんが待つ場所へと、一歩を踏み出した。



