真美子が出て行って2日が経った。
(んだよ……)
床にぐちゃぐちゃに脱ぎ散らかしてある服。汗をかいていないやつを選んで、Tシャツを脱ぎ着替える。コインランドリーに行くのも、金がかかるけど……そろそろ着る服が無くなる。
(いつ……帰ってくんだよ)
25万円。
家賃もそこまで高くない。もちろん……何としないといけない事は、俺にだって分かってる。でも、明日や明後日に人生が終わってしまうというわけでもない……
(……飯)
ガラリと台所のガラス戸を開き、冷蔵庫の中を物色する。
(卵……何だ? 挽肉……?)
面倒くさい。「なぁ、飯は?」と言えば、手早く料理を作ってくれた真美子はいない。
(……卵焼きでも作るか?)
(いや……面倒くさい。米、炊かなきゃいけねぇのかよ……)
ジャーは口が開いたまま。昨日の朝にご飯を食べてから……そのまま。しゃもじが入ったままになっていて、誰も洗っていない。
(……)
「今日だけだ」と思い、タンスの中の封筒から1万円札を抜き取る。そして地面にぐちゃぐちゃになって置いてあるジャージに着替えて、そのままコンビニへと向かった。
(……)
コンビニへ向かう足取りが重い。「これを使えば、24万円かよ」自分の命が……少しずつ削られていくような気分になる。
「……いらっしゃいませー……」
自動ドアをくぐると、真っ先に弁当売り場へと向かう。左下からざーっと目を通すけれど、割引が貼られた弁当はまだ置いていない。
(……んだよ……仕方ねぇな)
俺はからあげ弁当とコーラを1本買って、急ぎ足で家に戻る。「1万円札なんか出してくるなよ」と言いたげだった店員の顔は無視をした。
「……真美子」
ドアを開けると、玄関には真美子のサンダル。どうやら帰ってきたみたいだ。本当は「良かった」と思っているはずなのに……急に怒りが沸いてくるのは……なんでだ?
ガーッ……
ふすまを開けると、正面のテーブルに真美子が座っていた。顔は若干俺の方に向いているけれど……目を合わせようとはしていない。
「……なんだ、帰ってきたのか」
がさり……とビニール袋を台所に置いて、真美子を気にする素振りも見せずに、弁当のラッピングをはがす。
「……どこ行ってたんだ?」
ちらりと真美子の顔を見て、割り箸を割りながら話かける。「俺は問題なかった」という雰囲気を出しながら。
「……ちょっとこっち来てよ」
「……え?」
「そんなの食べてないで……こっち来てって言ってんの」
「飯ぐらい食わせろよな」
俺はからあげを口に放り込み、ご飯を食べる。
「……いらいらさせないでよ。こっち来てって」
「……」
「聞こえない? もう言わないよ」
「……面倒くせぇな」
弁当を台所の横において、しぶしぶ真美子のところへ歩いていく。
「……どうするの」
「何が」
「これからよ」
「これからって?」
「お金。無いのに。……働かないわけ?」
俺は座ることなく、腰に手を当てて、真美子の横に立って話を聞く。
「誰もそんなこと……言ってねぇだろ」
「じゃあ何で……面接行かなかったの」
朝10時からだった面接。派遣社員ではあったけれど、かなり仕事を抱えている会社らしく、真美子は「良かった」と喜んでいた。俺は、朝起きることができなかった。夜中までずっとスマホで動画を見ていたからだった。
「……仕方ねぇだろ」
「理由を聞いてんのよ。……理由を」
「行きたくなかったんだよ」
「……はぁ?」
鋭い目で真美子は俺をにらみつけ、腹の中から押し出したような声で迫ってきた。
「もう、お金ないでしょ」
「……まだ何とかなるだろ」
「翔ちゃん……本気で言ってる?」
「25万あるだろ。真美子だって働いてるし」
「……」
「まぁ、俺だって……このままでいるわけじゃないしな」
「……ふんっ……」
真美子は小声で鼻で笑い……そのまま立ち上がった。
「……しばらく、出てくわ」
そう言うと、敷きっぱなしの布団の横にある押し入れに向かい、ボストンバックを取り出した。ジィーッ……とチャックを開けて、洋服を適当に詰め込み始める。顔は無表情のまま……。
「おい。何やってんだよ」
「……」
「何やってんだって言ってんだよ」
「……」
ちらっとタンスに目をやり、化粧品をバックに無造作に詰めている。
「おい」
「……」
「おいって!! 聞こえねぇのか!!!!」
俺はありったけの声で、感情に任せて怒鳴りつけた……
「……よし」
目をくれることもなく、小声で真美子は呟いた。そして、テーブルにカチャリ……と家の鍵を置く。
「……そういうとこだって」
「……じゃあね」
スッと俺の横を通り過ぎ、そのまま家を出て行った。
ガサッ……ザザッ……
外で何か音がしている。どうせ真美子が荷物でも外で整理してるんだろう。俺はいらいらしながら、「中でやりゃ良いのによ」と思いながら音を聞いていた――
(んだよ……)
床にぐちゃぐちゃに脱ぎ散らかしてある服。汗をかいていないやつを選んで、Tシャツを脱ぎ着替える。コインランドリーに行くのも、金がかかるけど……そろそろ着る服が無くなる。
(いつ……帰ってくんだよ)
25万円。
家賃もそこまで高くない。もちろん……何としないといけない事は、俺にだって分かってる。でも、明日や明後日に人生が終わってしまうというわけでもない……
(……飯)
ガラリと台所のガラス戸を開き、冷蔵庫の中を物色する。
(卵……何だ? 挽肉……?)
面倒くさい。「なぁ、飯は?」と言えば、手早く料理を作ってくれた真美子はいない。
(……卵焼きでも作るか?)
(いや……面倒くさい。米、炊かなきゃいけねぇのかよ……)
ジャーは口が開いたまま。昨日の朝にご飯を食べてから……そのまま。しゃもじが入ったままになっていて、誰も洗っていない。
(……)
「今日だけだ」と思い、タンスの中の封筒から1万円札を抜き取る。そして地面にぐちゃぐちゃになって置いてあるジャージに着替えて、そのままコンビニへと向かった。
(……)
コンビニへ向かう足取りが重い。「これを使えば、24万円かよ」自分の命が……少しずつ削られていくような気分になる。
「……いらっしゃいませー……」
自動ドアをくぐると、真っ先に弁当売り場へと向かう。左下からざーっと目を通すけれど、割引が貼られた弁当はまだ置いていない。
(……んだよ……仕方ねぇな)
俺はからあげ弁当とコーラを1本買って、急ぎ足で家に戻る。「1万円札なんか出してくるなよ」と言いたげだった店員の顔は無視をした。
「……真美子」
ドアを開けると、玄関には真美子のサンダル。どうやら帰ってきたみたいだ。本当は「良かった」と思っているはずなのに……急に怒りが沸いてくるのは……なんでだ?
ガーッ……
ふすまを開けると、正面のテーブルに真美子が座っていた。顔は若干俺の方に向いているけれど……目を合わせようとはしていない。
「……なんだ、帰ってきたのか」
がさり……とビニール袋を台所に置いて、真美子を気にする素振りも見せずに、弁当のラッピングをはがす。
「……どこ行ってたんだ?」
ちらりと真美子の顔を見て、割り箸を割りながら話かける。「俺は問題なかった」という雰囲気を出しながら。
「……ちょっとこっち来てよ」
「……え?」
「そんなの食べてないで……こっち来てって言ってんの」
「飯ぐらい食わせろよな」
俺はからあげを口に放り込み、ご飯を食べる。
「……いらいらさせないでよ。こっち来てって」
「……」
「聞こえない? もう言わないよ」
「……面倒くせぇな」
弁当を台所の横において、しぶしぶ真美子のところへ歩いていく。
「……どうするの」
「何が」
「これからよ」
「これからって?」
「お金。無いのに。……働かないわけ?」
俺は座ることなく、腰に手を当てて、真美子の横に立って話を聞く。
「誰もそんなこと……言ってねぇだろ」
「じゃあ何で……面接行かなかったの」
朝10時からだった面接。派遣社員ではあったけれど、かなり仕事を抱えている会社らしく、真美子は「良かった」と喜んでいた。俺は、朝起きることができなかった。夜中までずっとスマホで動画を見ていたからだった。
「……仕方ねぇだろ」
「理由を聞いてんのよ。……理由を」
「行きたくなかったんだよ」
「……はぁ?」
鋭い目で真美子は俺をにらみつけ、腹の中から押し出したような声で迫ってきた。
「もう、お金ないでしょ」
「……まだ何とかなるだろ」
「翔ちゃん……本気で言ってる?」
「25万あるだろ。真美子だって働いてるし」
「……」
「まぁ、俺だって……このままでいるわけじゃないしな」
「……ふんっ……」
真美子は小声で鼻で笑い……そのまま立ち上がった。
「……しばらく、出てくわ」
そう言うと、敷きっぱなしの布団の横にある押し入れに向かい、ボストンバックを取り出した。ジィーッ……とチャックを開けて、洋服を適当に詰め込み始める。顔は無表情のまま……。
「おい。何やってんだよ」
「……」
「何やってんだって言ってんだよ」
「……」
ちらっとタンスに目をやり、化粧品をバックに無造作に詰めている。
「おい」
「……」
「おいって!! 聞こえねぇのか!!!!」
俺はありったけの声で、感情に任せて怒鳴りつけた……
「……よし」
目をくれることもなく、小声で真美子は呟いた。そして、テーブルにカチャリ……と家の鍵を置く。
「……そういうとこだって」
「……じゃあね」
スッと俺の横を通り過ぎ、そのまま家を出て行った。
ガサッ……ザザッ……
外で何か音がしている。どうせ真美子が荷物でも外で整理してるんだろう。俺はいらいらしながら、「中でやりゃ良いのによ」と思いながら音を聞いていた――



