駐車場に車をとめて、すぐ真裏にある階段を5段上る。

(……ん? まだ帰ってねぇのか……)

家賃3万円の平屋。住んでいる俺から見ても「汚ねぇなぁ」と思う。でも、駐車場が付いていて、家賃3万円なら……文句は言えない。電気が消されて、真っ暗な家の鍵を開ける。

ガラララ……

昭和感の残る、築60年近い平屋。道路から脇に入った、誰も通らない静かな場所にあるのも、この家を借りる決め手になった。

「……はぁ」

万年床になっている、敷きっぱなしの布団。ごろんと寝転がって、大きくため息をついた。

(どうすりゃ良いんだ……)

俺――藤谷翔太は、高校を卒業してから……ふらふらしている。先月、21歳になってしまった。名前を書けさえすれば、誰でも入れるような高校だった。

卒業してから一度就職したこともあった。地元の小さな自動車整備工場。「工場」と言っても……社長が1人でやっている小さな所だった。頑張って2年ほど働いてみたけど、クビになった。

社長と喧嘩してしまったからだ。それからは半年ほど、バイトしながら……何とか家賃だけは払うようにしている。

ガラララ……

「……ちょっと……」
ドアが開くとすぐに、真美子のあきれ返ったような声が聞こえた。

「ねえ、翔ちゃん」
「……何だよ」
「もしかしてさ……パチンコ、行った?」
「……別に良いだろ」
「……」

「面接……行くって言ったよね!?」
狭い平屋の中に、真美子の怒鳴り声が響き渡った。

「朝……『ちゃんと行く』って言ったよね!?」
「ねえ!!」
「いい加減にしてよ……!!!」

「ねえ……」
「いい加減にしてよ……」
膝から崩れ落ちて、顔を手で押さえながら泣き出した。

真美子は俺と同じ21歳。高校からずっと付き合っていて、去年同棲を始めた。……その頃はまだ俺も工場で働いていた。

「こんな俺でも……将来結婚してくれるかも知れない人がいるのか」と思い、頑張ってはみたが……結局こんな有様だ。まだ結婚はしていないが、真美子も朝からバイトを掛け持ちしながら働いている。

「増やそうと思ったんだよ」
俺は真美子の方を向きもせず、スマホを眺めながらぼそりと呟いた。

「……えっ?」
「金。増やそうと思ったんだよ」
「……働けば良いじゃない……」
真美子は真顔でゆっくりと俺の方を向く。

「そしたら……パチンコなんか行かないで!! 働けば良いじゃない!!」
「……」
「何で!? 何でなの!? 私はこんなに働いてるのに……」
「うるせぇなぁ……」
「何で私だけなのよ!! 翔ちゃんもちゃんとやってよ!!」

「うるせぇんだよ!!!!」
握りこぶしで壁を力任せに叩いた。俺の声と、壁の音に……真美子は目を大きく見開いた。

「……サイテー……」

頬を伝う涙を拭いながら、真美子は静かに出ていった――