朝7時、仕事の時間に合せて、俺は毎日規則正しく起きるようになった。給料は日払いってわけじゃないから……それまでは白い米にふりかけだけの生活は続くけれど、最初は仕方ない。

(作るか……だりぃけど……)

家に置いてある半透明のタッパ。適当に米を詰め込んで、ふりかけをかける。簡単な弁当も自分で作るようになっていた。

プレッシャーがかからない方が良いかと思って、先ずはコンビニのバイトから始めることにした。最初は朝9時~午後3時までの6時間。途中で休憩時間が30分だけ入る。そこでこの弁当を食う。

バイトは店内の品物を少し割引で買えるって聞いたけれど……とりあえず節約だ。金がない。

「じゃ、行ってくるからよ」
「留守番、頼んだぞ?」

俺は朝8時半になると、窓際でのんびりしているクロに挨拶をする。

「にゃぁー……」

ちょっと寂しそうに鳴き、俺の左手に頭をぐりぐり擦り付ける。俺はその手でクロの頭を撫でる……出勤する時の儀式になっていた。

「さ、行くかぁ……」
「何かあったら、電話しろよ? ……無理だけどな」

弁当が入ったカバンを肩に下げて、コンビニへと出掛ける――

――

――

――

「あら、藤谷さんって煙草吸うんですね」

朝から昼のバイトは、主婦みたいな女性ばかりだ。大学生みたいな連中はいない。休憩時間が重なるといつも話かけてくる。

「あっ、はい。……ちょっとですけど」
「私も吸うんだよね。子供には『止めてよ』って言われるけど」

煙草を取り出し、はにかむように笑う。いかにもな感じの細い煙草だ。

「そうなんすね……」

「けむいから……あんまり煙草吸わないでよね?」といっつも真美子に言われていた。不思議と急に思い出してしまった。

「藤谷さんって、1日どのくらい吸ってるの?」
「えっ……?」

おばちゃんは吸ってる本数を聞いてきたけれど……俺は答えることができなかった。

「……どうすかね……前は2箱吸ってました」
「2箱!? ……1日にってこと?」
「そっすね」
「ひぇー……吸うねぇー……」

「でも、最近は減ってるっすね……」

そう。クロが家に来てから……明らかに煙草の本数が減っていることに気付いた。

真美子と口喧嘩をして……いらいらして台所で吸っていた。でも今は……腹の上で寝るクロが可愛くて、台所にいる時間が減った。だから自動的な煙草を吸う機会が減っている。

(あんま吸ってねぇな……最近)

いったい自分が、1日に何本吸っているのかさえ……俺は分からなくなっていた。そもそもあれだけコンビニで煙草を買っていたのに……あまり買っている記憶が最近はないからだろう。

(……そういうことかよ)

そもそもパチンコに行くことができていないってのはあるけれど……コンビニで弁当も買わなくなった。煙草を買う回数も減った。「あまり金を使ってねぇなぁ」と感じるようになったけれど……そういうことだったのか。

(……なるほどな)

俺はタイムカードを押して、「これだったら生きていけるかも知れねぇなぁ」と思いながら……クロの待つ、家に向かった。