『トイレと水、あとはご飯! ちゃんと用意してあげて下さいね』
『猫ちゃんはキレイ好きな子が多いですから』
『トイレ掃除は特にマメにしてあげて下さい』
俺は家に帰ってから、女性が教えてくれたことをすぐにメモした。「絶対に忘れるな」と思ったからだ。別に俺の仕事の面接なら忘れたって……まだ良いけど、猫のことだから。忘れたら大変だと思った。
「ほら。ここにトイレ置くぞ? いいか?」
「飯はこっちな。トイレと離しとくぞ? 分かったか?」
だいぶ部屋に慣れてきたらしく、テレビの上に飛び乗ったり、押し入れの中を勝手にガサゴソと探検をするようになった。
(ま……元気になってきたってことにしとくか)
あっちに行ったり
こっちに行ったり
家の中をうろちょろと動く黒猫を見て、さらに安心するようになった。
(でも……だいぶ金、使っちまったなぁ……)
トイレで2,000円くらい。エサで1,000円くらい。極めつけは……さっきようやく完成したキャットタワーだった。「3,000円くらいで買えるだろう」と思っていた俺は……ホームセンターで度肝を抜かれた。20,000円近い金額だったからだ。
いくつか種類があったことは、ラッキーだった。俺は一番安い8,000円のキャットタワーを買ってきて、組み立てた。
(マジ……金、無くなるぞ……これ)
ぴょん!ぴょん!と怪我をしているにも関わらず、上手にタワーを登っていく黒猫。その姿を見ているだけで「まぁ……何とかしていくしかねぇか」と思うようになる。……不思議なもんだ。
『猫ちゃんは広い部屋はあまり要らないんです』
『上下運動の方が大切だから……高くてジャンプできる場所、作ってあげて下さい』
『キャットタワーを買うことができるなら、それが一番良いですけどね』
一番安いキャットタワーだって8,000円だった。正直言えば、「高すぎる」と思った。買わないで帰ってこようと思っていたけれど……女性の言葉が頭から離れなかった。
それに……俺が1回で負けるパチンコ代に比べれば安いと思ったのもあった。5万円も自分に使えるのに、猫に金を使ってやらないのも……何か違う気がした。
(ま……元気にやってくれれば良いよ)
布団にごろんと横になりながら、窓の外をタワーからじーっと見ている黒猫を、俺は眺めていた。そしてそのまま……気付いたら眠っていた。
「……!」
「……ぁ!」
「に……―!」
「にゃ……」
「にゃああ……!」
「わあ!」
耳元で鳴き続ける黒猫の声で、俺は目が覚めた。今までは家の外から聞こえてきた声。それがわずか15センチほどの距離で聞こえると……変な感じがする。
「……何だよ?」
「にゃああーー!」
「どうした? てか……だいぶ元気になったな」
俺は黒猫の頭をよしよしと撫でる。
「……そうか。名前、決めねぇとなぁ……」
「お前」でも良い気もしたけれど、なぜだか「名前で呼んでやりたい」という思いが沸き上がってきた。
「何がいい? ……お前の名前」
「にゃぁ!」
「ちゃんとしゃべれって。分かんねぇよ」
「にゃっ!」
「……にゃーにゃー鳴くから……『にゃーちゃん』にするか?」
「……」
急に黙り込む。
「何だよ……嫌なのかよ? まぁ……ベタ過ぎるもんな」
「にゃー」
「ははっ……お前、言葉分かるのか?」
「にゃっ」
「ふっ……じゃぁ……クロにすっか? 黒いから」
「……にゃ!」
「よし! 決まりだな。お前は『クロ』だ」
「にゃーー!」
キラキラと目を輝かせながら、今日一番の声で鳴いたクロ。病院の先生が言うには生後3~4ケ月ってとこらしい。
トイレや飯。キャットタワーも準備して、俺とクロの生活は本格的に始まっていった。
『猫ちゃんはキレイ好きな子が多いですから』
『トイレ掃除は特にマメにしてあげて下さい』
俺は家に帰ってから、女性が教えてくれたことをすぐにメモした。「絶対に忘れるな」と思ったからだ。別に俺の仕事の面接なら忘れたって……まだ良いけど、猫のことだから。忘れたら大変だと思った。
「ほら。ここにトイレ置くぞ? いいか?」
「飯はこっちな。トイレと離しとくぞ? 分かったか?」
だいぶ部屋に慣れてきたらしく、テレビの上に飛び乗ったり、押し入れの中を勝手にガサゴソと探検をするようになった。
(ま……元気になってきたってことにしとくか)
あっちに行ったり
こっちに行ったり
家の中をうろちょろと動く黒猫を見て、さらに安心するようになった。
(でも……だいぶ金、使っちまったなぁ……)
トイレで2,000円くらい。エサで1,000円くらい。極めつけは……さっきようやく完成したキャットタワーだった。「3,000円くらいで買えるだろう」と思っていた俺は……ホームセンターで度肝を抜かれた。20,000円近い金額だったからだ。
いくつか種類があったことは、ラッキーだった。俺は一番安い8,000円のキャットタワーを買ってきて、組み立てた。
(マジ……金、無くなるぞ……これ)
ぴょん!ぴょん!と怪我をしているにも関わらず、上手にタワーを登っていく黒猫。その姿を見ているだけで「まぁ……何とかしていくしかねぇか」と思うようになる。……不思議なもんだ。
『猫ちゃんは広い部屋はあまり要らないんです』
『上下運動の方が大切だから……高くてジャンプできる場所、作ってあげて下さい』
『キャットタワーを買うことができるなら、それが一番良いですけどね』
一番安いキャットタワーだって8,000円だった。正直言えば、「高すぎる」と思った。買わないで帰ってこようと思っていたけれど……女性の言葉が頭から離れなかった。
それに……俺が1回で負けるパチンコ代に比べれば安いと思ったのもあった。5万円も自分に使えるのに、猫に金を使ってやらないのも……何か違う気がした。
(ま……元気にやってくれれば良いよ)
布団にごろんと横になりながら、窓の外をタワーからじーっと見ている黒猫を、俺は眺めていた。そしてそのまま……気付いたら眠っていた。
「……!」
「……ぁ!」
「に……―!」
「にゃ……」
「にゃああ……!」
「わあ!」
耳元で鳴き続ける黒猫の声で、俺は目が覚めた。今までは家の外から聞こえてきた声。それがわずか15センチほどの距離で聞こえると……変な感じがする。
「……何だよ?」
「にゃああーー!」
「どうした? てか……だいぶ元気になったな」
俺は黒猫の頭をよしよしと撫でる。
「……そうか。名前、決めねぇとなぁ……」
「お前」でも良い気もしたけれど、なぜだか「名前で呼んでやりたい」という思いが沸き上がってきた。
「何がいい? ……お前の名前」
「にゃぁ!」
「ちゃんとしゃべれって。分かんねぇよ」
「にゃっ!」
「……にゃーにゃー鳴くから……『にゃーちゃん』にするか?」
「……」
急に黙り込む。
「何だよ……嫌なのかよ? まぁ……ベタ過ぎるもんな」
「にゃー」
「ははっ……お前、言葉分かるのか?」
「にゃっ」
「ふっ……じゃぁ……クロにすっか? 黒いから」
「……にゃ!」
「よし! 決まりだな。お前は『クロ』だ」
「にゃーー!」
キラキラと目を輝かせながら、今日一番の声で鳴いたクロ。病院の先生が言うには生後3~4ケ月ってとこらしい。
トイレや飯。キャットタワーも準備して、俺とクロの生活は本格的に始まっていった。



