「んー……」
人間の病院みたいな、白い空間。レントゲンみたいなやつを掛ける所もあるし……奥の方には金属でできた機械も置いてある。動物病院は、普通の病院と似ている。
「どうっすか……? 先生」
「左足の関節の所、骨折してるね……ほら」
そう言うと、先生は俺に黒猫のレントゲンを見せてきた。確かに……骨みたいな白いやつが、尖って折れているように見える。
「……この部分っすか?」
「そうそう。これ。折れちゃってるね」
「……喧嘩とかっすかね……」
「いや、噛まれたような傷は無いんだよね」
先生は段ボールの中で怯えたように震える黒猫の体を、軽々持ち上げると、下から上までぐるりとチェックした。
「理由は分からないけど……思ったより高い所から飛び降りた、とかね」
「……なるほどっす」
「たぶん2ケ月くらいしたら……元通り歩けるようになると思うけど」
「……本当っすか? 良かったぁ……」
「気になるようだったら、また連れてきて」
「はい! あざしたっ」
俺は先生と横に立ったままにこにこしている看護師さんみたいな人に頭を下げると、診察室のスライドドアをゆっくりと閉じた。
「良かったな、お前。命に関わらなくてよ」
「……にゃっ」
「痛かったんだな。頑張ったじゃねぇか」
段ボールの中に手を入れて、黒猫の頭をよしよししてやる。
「にゃー!」
昨日まで同じ、元気でうるさい鳴き声に戻っている。俺は迷惑だけれど。でもまぁ、元気になったのは良いことだ。
(……あっ)
「……先生っ!」
俺は気になることがあって……診察室まで走って行き、もう一度スライドドアを開けた。先生と看護師さんが、何やら相談をしているところだった。
「ん? あぁ……藤谷さん。どうしました?」
「すいません、聞き忘れたんすけど……」
「どうしたの?」
「……この黒猫、どうすれば良いんすか?」
俺は受付で診察代を払った後に、教えてもらった。保護猫として新しい飼い主を探すことになるということを。保護猫や保護犬、そして家で飼うことができなくなった犬や猫を扱ってる掲示板もあるらしい。
「……これも、そうっすか?」
受付の隣に「里親になりませんか?」と書いてる猫のポスターが貼ってあるのを見つけた。
「あ、そうです。この猫ちゃん、野良猫みたいなんですけどね。保護されたみたいで……こうやって新しい飼い主さんを探されてるんですよ」
「なるほどっす……じゃ、俺もこうやってポスターを作ったら、ここに貼らせてもらえるんすか?」
「……まぁ、大丈夫ですけど……」
「……何すか?」
「うーん」といった顔をする、受付の女性。何か隠しているのか……言いにくいのか……俺にはよく分からない。しばらく考えた後に、女性は教えてくれた。
「どのみち最初は……藤谷さんがお世話しないとですよ?」
「えぇー……!? 俺がっすか?」
「そうですよ。このまま……その黒猫ちゃんを外にバイバイはできないですよ……」
目まいがしてきた。その後も受付の女性は何やら説明してくれていたけれど……まったく頭に入らない。俺は頭を下げて、動物病院を後にした。
段ボールを助手席に乗せて、「はぁ」と車内でため息をつく。
「……どうすんだ? お前」
確か、俺が住んでいる平屋はペット禁止ではなかった。俺も真美子もペットを飼う気はなかったから、別に気には留めてなかったけれど……小さい犬を1匹か、猫を1匹までは大丈夫だったはず。
(……とりあえず、うちに連れてくか)
エンジンをかけようとしたその時、「聞いておいた方が良いか」と思い付いて……俺は動物病院にもう一度向かった。
「おい、そこで待ってろ。……すぐ戻ってくるから」
助手席に残った黒猫にそう伝えて、受付の女性の所に向かって走った。
「……すいません」
「あ、あぁ……藤谷さん……どうされました?」
「さっき、聞き忘れちゃって、ですね」
「……はい」
俺は動物を飼ったことが一度もない。だから病院の人に、何が要るのか?とか、何をしないといけないのか?とか……色々聞いておくことにした。バカな俺じゃ、ネットを見てもよく分からなそうだったから。
「……ま、そんなところですかねぇ」
「分かりました! あざした!」
もう一度受付の女性に頭を下げて、今度こそエンジンをかけて、黒猫と一緒に家に帰ることにした。
人間の病院みたいな、白い空間。レントゲンみたいなやつを掛ける所もあるし……奥の方には金属でできた機械も置いてある。動物病院は、普通の病院と似ている。
「どうっすか……? 先生」
「左足の関節の所、骨折してるね……ほら」
そう言うと、先生は俺に黒猫のレントゲンを見せてきた。確かに……骨みたいな白いやつが、尖って折れているように見える。
「……この部分っすか?」
「そうそう。これ。折れちゃってるね」
「……喧嘩とかっすかね……」
「いや、噛まれたような傷は無いんだよね」
先生は段ボールの中で怯えたように震える黒猫の体を、軽々持ち上げると、下から上までぐるりとチェックした。
「理由は分からないけど……思ったより高い所から飛び降りた、とかね」
「……なるほどっす」
「たぶん2ケ月くらいしたら……元通り歩けるようになると思うけど」
「……本当っすか? 良かったぁ……」
「気になるようだったら、また連れてきて」
「はい! あざしたっ」
俺は先生と横に立ったままにこにこしている看護師さんみたいな人に頭を下げると、診察室のスライドドアをゆっくりと閉じた。
「良かったな、お前。命に関わらなくてよ」
「……にゃっ」
「痛かったんだな。頑張ったじゃねぇか」
段ボールの中に手を入れて、黒猫の頭をよしよししてやる。
「にゃー!」
昨日まで同じ、元気でうるさい鳴き声に戻っている。俺は迷惑だけれど。でもまぁ、元気になったのは良いことだ。
(……あっ)
「……先生っ!」
俺は気になることがあって……診察室まで走って行き、もう一度スライドドアを開けた。先生と看護師さんが、何やら相談をしているところだった。
「ん? あぁ……藤谷さん。どうしました?」
「すいません、聞き忘れたんすけど……」
「どうしたの?」
「……この黒猫、どうすれば良いんすか?」
俺は受付で診察代を払った後に、教えてもらった。保護猫として新しい飼い主を探すことになるということを。保護猫や保護犬、そして家で飼うことができなくなった犬や猫を扱ってる掲示板もあるらしい。
「……これも、そうっすか?」
受付の隣に「里親になりませんか?」と書いてる猫のポスターが貼ってあるのを見つけた。
「あ、そうです。この猫ちゃん、野良猫みたいなんですけどね。保護されたみたいで……こうやって新しい飼い主さんを探されてるんですよ」
「なるほどっす……じゃ、俺もこうやってポスターを作ったら、ここに貼らせてもらえるんすか?」
「……まぁ、大丈夫ですけど……」
「……何すか?」
「うーん」といった顔をする、受付の女性。何か隠しているのか……言いにくいのか……俺にはよく分からない。しばらく考えた後に、女性は教えてくれた。
「どのみち最初は……藤谷さんがお世話しないとですよ?」
「えぇー……!? 俺がっすか?」
「そうですよ。このまま……その黒猫ちゃんを外にバイバイはできないですよ……」
目まいがしてきた。その後も受付の女性は何やら説明してくれていたけれど……まったく頭に入らない。俺は頭を下げて、動物病院を後にした。
段ボールを助手席に乗せて、「はぁ」と車内でため息をつく。
「……どうすんだ? お前」
確か、俺が住んでいる平屋はペット禁止ではなかった。俺も真美子もペットを飼う気はなかったから、別に気には留めてなかったけれど……小さい犬を1匹か、猫を1匹までは大丈夫だったはず。
(……とりあえず、うちに連れてくか)
エンジンをかけようとしたその時、「聞いておいた方が良いか」と思い付いて……俺は動物病院にもう一度向かった。
「おい、そこで待ってろ。……すぐ戻ってくるから」
助手席に残った黒猫にそう伝えて、受付の女性の所に向かって走った。
「……すいません」
「あ、あぁ……藤谷さん……どうされました?」
「さっき、聞き忘れちゃって、ですね」
「……はい」
俺は動物を飼ったことが一度もない。だから病院の人に、何が要るのか?とか、何をしないといけないのか?とか……色々聞いておくことにした。バカな俺じゃ、ネットを見てもよく分からなそうだったから。
「……ま、そんなところですかねぇ」
「分かりました! あざした!」
もう一度受付の女性に頭を下げて、今度こそエンジンをかけて、黒猫と一緒に家に帰ることにした。



