ミケの猫カフェへようこそ

やがて老犬はゆっくり席を立つ。
 「ありがとう。あの夕焼けを、もう一度思い出させてくれて」

 老犬の穏やかな笑みに、ミケも応えるように微笑んだ。

 「思い出したくなったら、いつでもここに戻って来るにゃ。夕焼けの味は、ここに置いてあるにゃ」

 気のすむまで、思い出せばいい。
 思い出して、思い出して、思い出して、そして──すっきりとした心で旅立てばいいのだから。

 老犬はそれに応えるように小さく尻尾を振り、扉へ向かう。
 チリン──と扉が開いた先には、綺麗な夕焼け空。

 夕暮れの光をまといながら、老犬は振り返って言った。

 「優しい店だね。もう、大丈夫そうだ」

 チリン──とまた音がして扉が閉まり、外の空はすでに夜へと溶けはじめていた。

 ミケは静かに棚を見上げ、残った琥珀色の砂糖菓子にそっと触れた。

「思い出って不思議にゃ。少し思い出してあげるだけで、心がもう一度、あの日の夕焼けになるのにゃから」

 そう呟き、ミケはキャンドルの火をじっと見つめた。

 その光は、あの老犬の過ごしたであろう日々のように、ほっこりと暖かかった。