その日の茜は、夜ごはんの時も暗い表情で、ずーっと黙り込んでいた。
 そして夜、茜のベッドでオレがいつものように寝る前の儀式として身体を舐め舐めしていると、階段がギシギシと音を立て、茜が部屋に入って来る。
 ベッドに上ってオレをぎゅむーっと抱きしめた。
 うぐっ! こ、こら力加減間違えとる。苦しいやんか。
 …………ん? どないしたんや?
 ……泣いとるんか?
 ずずっという鼻をすする音と、身体に感じる冷たさにオレは茜が泣いてると気がついた。
 原因は、考えるまでもないわな。
「……なんであんな言い方しちゃったんだろう? 最悪だ」
 あーあ、お前はほんまに……。
「クロ、私、どうしたらいいのかな? 今さら好きなんて言えないけど……でも……」
 泣くくらいやったらな、本当のことを言ったらいいとオレは思うで?
「そもそもはじめに告白された時、私なんであんなひどい言い方しちゃったんだろ」
 それは仕方ないんちゃうか?
 母親が死んで、一番しんどい時期やったんやろ? 
 そのひどい言い方をされてもここへ働きに来たという陽二の行動の意味を考えて……って言うても、無駄か。
「せめてあの時のことだけでも謝りたい……。ようちゃん、ごめん……」
 ……ほんまに仕方がないやつやな。
 オレは、泣いている茜の手をペロペロ舐めた。
 呆れるくらいできそこないの子分やけど、突き放すことはできんわな。
 ……しゃーないから、今夜はずっと抱かれてやる。
 好きなだけ、泣け。
 苦しいし、鼻水つくのは嫌やけど、お前が本音を言えるのはどうやらオレしかおらんようやし。
 これも主人の役割や。
 その夜茜は、いつまでもぐずぐずと泣き続けた。
 その茜の手をオレは舐め続けた。