夕暮れの公園には、沈みゆく陽が淡い金色のヴェールを落としていた。
風が梢をくぐり、葉の影がゆらりと揺れるたびに、世界が静かに呼吸しているように感じられる。

その光の中で──
ミラはベンチの上にちょこんと座り、柔らかな尾をゆっくり揺らしていた。

隣には、小さな女の子。
涙の跡が乾かぬまま、赤くなった目を袖でごしごしこすりながら、震える声を漏らす。

「……お母さんに、もう一度会いたいの……」

その言葉は風に触れた瞬間、切なさをふわりと広げた。
ミラは小さく瞬きをすると、何も言わずに女の子の膝へそっと乗り移る。
体温を預け、胸元で優しく喉を鳴らす。
その音は、まるで遠くから届く子守唄のように、公園の空気をやわらかく震わせた。

驚いた女の子は、ミラを見つめた。

「首輪……。#miracle_follow？」

それからゆっくりスマホを取り出す。
画面に映るレンズの向こうで、ミラは穏やかに目を細めた。

だいじょうぶ。

そう語りかけるような、深い静けさを宿したまま。

指が震えながらシャッターボタンを押す。
一枚の写真が保存され──
数秒後、女の子のアカウントに新しい投稿がそっとアップされた。

ミラの写真と、#miracle_followの文字。

光の粒のようにタグは広がっていく。
画面の向こう、心の影に触れた誰かが、ほんの少しだけ息をしやすくなる。
そんな小さな連鎖が、今日もまた静かに生まれていく。

猫は今日も──
失われた声をつなぎ、願いを拾い上げ、そっと奇跡を届けていく。

物語は、一度終わったように見えても、いつだって静かに続いている。
そしてきっと、また新しい誰かのもとで始まっていく。