静けさが訪れた夜。
双子が眠りについた後、真夏は静かにスマートフォンを開いた。

冬城組の資金の流れ。
幹部の足取り。
裏金の隠し口座。
そして源次郎の警護の穴。

私の指が画面を滑るたび、氷のような音を立てて人間の命運が削れていく。
「冬城源次郎、冬城渚。貴方たちの世界は、私が消す」
囁きはまるで祈りのようで、呪いのようでもあった。

早朝、東の空がわずかに青みを帯びた時、私は一人で部屋を出た。
外気は刺すように冷たい。

まず、冬城組の隠し資金をすべて凍結。
それから警視庁にいる実の父、警視総監に必要最低限の事実を流した。

汚職、脅迫、殺人未遂。
逃げ道はすでに塞がれている。

コールが三度鳴って着信に出る。
彼女が私に電話を掛けて来るのは初めてだ。
『真夏、なのね』
「ええ、お母様⋯⋯。私よ。二十年以上ぶりね。こんな早朝に電話を掛けて来るなんて、身内とはいえ不躾だわ。お母様らしくない」

私が本当の私として母、冬城渚と話すのは五歳の時以来だ。
真夜中に人格を交代して筋トレしたり、計画を進めることはあった。
それ以外の時間は無害で無欲で警戒されない作り出した人格に身体を預けた。