あの日見た涙と、さよならの香り。

「美桜ー!今日ヒマ?駅前に最近できたカフェに行きたいの!」
「いいね。うん、予定ないよ。じゃあ、ちょっと待っててくれる?私、天宮先生に提出しないといけない資料あるから」
「はーい」
 柳井美桜。
 高校三年生。
 皐月川(さつきがわ)学院(がくいん)明誠(めいせい)高等学校(こうとうがっこう)第108期生徒会執行部会長。
 特技は特にない。
 なにか特別に秀でているわけではない。
 勉強も運動もそこそこ。
「美桜ちゃん、久しぶりー」
「久しぶり、野壁さん」
 いつからか、私は幸せになってはいけないと想うようになった。
 私は、笑顔でいてはいけない、って。
「あ、天宮先生。この資料、できました」
 私には、幼なじみがいた。
 私は、2人から笑顔を奪った。
 笑顔だけじゃない。
 2人の、未来も。
「うん、OKだ。わかりやすくて良いな。さすがだな」
「美桜ー‼︎早く帰ろー」
「うん。……失礼します」
 誰にも言えない、秘密。
 みんなにもあると思う。
「それでね、その時……、……行こ、美桜。早く行かないと」
「あ、うん」
「咲!あのさ」
「咲ちゃん?松木くん、呼んで……」
 2人にも、なにかあったんだろうな。
 見てしまった、2人のスマホのロック画面を思い出す。
 同じ写真だった。
 でも、違った。
 松木くんのロック画面の写真に写っていたのは、4人だったけれど、咲ちゃんのロック画面は、松木くん以外の3人の写真だった。
 どう見ても、松木くんの部分だけ切り取っていた。
 2人は、幼なじみらしい。
 でも、きっと何かがあって、(こじ)れてしまった。
 ……多分、他の人には言いたくないような理由で。
「早く行こう!松木と関わったら、ロクなことないよ」
「え、あ、うん……」
 どこか寂しそうな顔をしている松木くんを置いて、咲ちゃんは走り出す。