ただ、君に笑っていてほしかった。~30日の奇跡と、空白の19日の秘密~

「ねぇ、葉月(はづき)。……私の初恋は、琉偉(るい)だった」
 突然、そう言った雪宮(ゆきみや)
『え……?』
「アイツが死んでから気づいたの。……私は琉偉(るい)のこと、好きだった、って」
 ポツリ、ポツリと話し出す雪宮(ゆきみや)
「私にとって、琉偉(るい)は憧れの存在だった。……私は運動が苦手だったから、運動神経バツグンの琉偉(るい)が羨ましかった」
 確かに、俺もサッカーがすごく上手い琉偉(るい)のことは、尊敬していたし、それと同じくらいの妬んでいた。
 神様を恨んだ。
他人(ひと)とコミュニケーションをとるのも上手かったから、それも羨ましかった。私にはないものをもつアイツを、尊敬してた」
 立ち止まって、空を見上げる。
 ……琉偉(るい)は、天国に行ったのだろうか。
「……でも、それは琉偉(るい)も一緒だった」
 再び歩き出す。
琉偉(るい)は、勉強ができる私に憧れてた。……小学校の時、そう言われたことがある」
 ポツ、ポツと雨が降ってくる。
 折り畳み傘をカバンから取り出す。
「その時は、正直モヤっとしたの。私にはないものを持ってるくせに、って。……結局さ、生きていくためにはコミュニケーションが必要でしょう?でも、私には、それが与えられなかった。それを、ずるいと思ってた」
 俺も、サッカーができる琉偉(るい)を恨んだり、幼なじみで勉強ができる太一(たいち)を羨んだりした。
 ……でも、琉偉(るい)太一(たいち)も、誰かを羨ましがっていたのだろう。
「……私、琉偉(るい)のこと、小学生の頃、あんまり好きじゃなかったんだよね。うるさいし、テキトーだし。……嫌いになりたかったんだと思う。苦しいから。私がないものばかりもっているアイツと一緒にいるのは」
 どんどん雨足が強くなっている。
「……私、ずっとアイツのこと気にしてた。アイツと初めて同じクラスになった2年の時から。うるさくて、何かと突っかかってくるくせに、優しくて……。気になってた」
 俺の家が近づいてくる。
「……私がアイツを……琉偉(るい)を好きだって気づいたのは、アイツがあの事件で死んだ後だった。……アイツ、私の目の前で刺されたんだよ。私を庇って……」
 知らなかった……。
 そんなこと、誰も言っていなかった。
「誰にも言ってないし。私、あの後、家を出られなかった時期があったけど、あの事件が起こったのは、中2の時だったでしょ?私、2年の時は別室登校してたじゃん。だから、いなくても不思議じゃなかったんだと思うな」
 ああ、そうだったかも。
 同じクラスだったのは、中1のときだけだったから、その後の関わりはあまりなかったのだ。
 しかも、普通に教室に来てはいなかった。
 ……でも、定期テストで5教科、3教科の一位の座を誰かに渡したことはなかった。
 テストの時と行事の時は来ていたのだ。
「……家を出られなかった時、琉偉(るい)は幽霊になって、私の前に現れた。……琉偉(るい)と一緒に過ごした後、好きだった、って気づいたの。もう遅いのに」
 失ってから、気がつくことって、あると思う。
 俺も、母さんがいなくなってから、なくてはならない存在だったと気づいた。
 死んでから、生きていることは奇跡なのだと気づいた。
「……琉偉(るい)は、天国に行ったのかな」
 平良川(たいらがわ)公園に着く。
「じゃあね、葉月(はづき)。家、こっちでしょ?」
『あ、うん。また……』
 ……どうして、雪宮(ゆきみや)は急にこんな話…………?
「……葉月(はづき)!」
『な、なに?』
「……葉月(はづき)。……言っておきたかったこととか、やりたかったこととか、全部言ってね!……絶対、後悔しないでね、……旅立つ時に」
 彼女の頬に、一筋の涙が流れた。
 ……綺麗だと思った。
『う、ん……』
 そう返すのが、精一杯だった。
「またね!」
 周りに誰もいない中、1人で満面の笑みを浮かべる彼女は、美しかった。
 ……満月のようだった。
 彼女は、俺の暗闇に……、一筋の光を差し込んだ。
 この夜を、明るく照らした。
 俺にないものを持っている。
 尊敬や、羨望とは違う。
 友情でもない。
『これが、……好き?』
 よく、わからない。
 でも、当てはまる感情は、それしかないのではないだろうか……。